第7話 【 最後のTV出演 】
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有希子さんが最初に連れていかれたのは、モリタさんのお昼の番組。「笑ってよろしく」の出演者控え室。
「有希ちゃん、さぁ入って」
コンコンと軽くノックして、真咲さんが、先に有希さんをみんなに紹介する。
「3年前にムリプロダクションの屋上から飛び降り自殺をした、あのアイドルの岡野 有希子さん?」
みんなが驚いて集まってきた。
「ああ、元気に笑ってるね」
「幽霊になっちゃったんだ?」
「すぐにモリタさん呼んでくるね」
マチャアキがバックルームに呼びに行って、5分ほどして黒のスーツに赤のネクタイをしたモリタさんが現れた。
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「こんにちは。お久しぶりですモリタさん」
「ああ、幽霊になって遊びに来てくれたんだ」
「なつかしくなって、つい来ちゃった」
その当時と変わらない笑顔が有希子さんに戻ってきた。
「だんだんパワーが強くなってきたね、有希子さん。もうちょっとでみんなに姿が見えるようになるよ」
うん。と嬉しそうに微笑む有希子さん。
ついなつかしい思い出話に花が咲く控え室。
「地方の美味しいお土産でも食べてみる?」
「幽霊になったら、もう食べられないの」
「そんなこと言わずに、さあさあ」
有希子さんの前に積み上げられる、色とりどりのお土産の山。
わぁ、おいしそう☆
「試しに食べてみたら? 食べるふりだけでもいいんだから」
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弥生がそそのかすと、有希子さんがそれではいただきマンモス☆と上品にひよこ饅頭をつまんで食べてみせた。
「ちゃんと食べてる、食べてる」
机の上に置かれたひよこ饅頭はそのままだったけれど、みんなの前で有希子さんは嬉しそうに食べてみせた。
「おいしい?」
うん。とにっこり微笑む有希子さん。ホントはみんなが楽しそうにしている顔を見るのが嬉しいの。とちょっと小声で弥生の耳元にささやいてくれた。
淋しかったんだね、有希子さん。
控え室の奥の方で、本番が近づいてきたようで、スタッフが何か打ち合わせをしていた。
モリタさんが、
「有希ちゃんこっちこっち」
と手招きをする。
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真咲さんが音声のマイクをそっと岡野 有希さんの胸につけてあげた。
「出番だよ。有希子さん」
弥生がそっと背中を押す。
「これが最後のTV出演だから、緊張しないで。みんなに最後の笑顔を見せて」
お昼休みはウキウキウォッチング♪
定番の耳慣れた音楽が始まって、金曜日の出演メンバーが勢揃いする。
岡野 有希子さんはステージの一番端に、ひとり清楚に立っていた。
「あれっ? あれっ?」
観客席から、不思議そうな声があちこちから飛ぶ。
「見えるよね? あのピンクの服の女の子」
いつもと違う様子にざわっと一瞬どよめく観客席。
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「そんな端に立ってないで、もっと中央に」
モリタさんの優しい言葉を掛けられて。
にっこりと微笑む有希子さん。
OKだよ!
弥生が左手で小さな○印のサインを出した。
テレホンショッピングが始まって、モリタさんが「暑いね~」と観客にお決まりの挨拶をして。そうですね!! と元気すぎる声援が飛ぶ。
熱気ムンムンのスタジオ───。
「今日はスペシャルゲストを紹介します」
モリタさんの笑顔がはじけて、
「岡野 有希子さんです。 どうぞ」
拍手と共に、岡野 有希子さんが登場した。
腕には抱えきれな花束を持って。
「かわいい─」
「意外と怖くないね」
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カメラがカシャカシャとあちこちで鳴って、フラッシュが光る。
「たくさんお花が届いています」
ムリプロダクションの大きすぎる花に混ざって、ドラマで共演した俳優陣の名前が連なる。
「よかったね、有希子さん」
心の中で祈っている弥生、モニターから応援してるからね。
無事放送が終わって、岡野 有希子さんが、笑顔で弥生が待っているモニター室に戻ってきた。
「どうだった?」
「うん。楽しかった。久しぶりにドキドキしちゃった」
「ほかに行きたいところある?」
真咲さんが気をきかして、お昼から時間を空けてくれた。
「それじゃあ……」
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とちょっと可愛く首を横にかしげてから、きっぱりとした口調で言った。
「最後に曲を捧げてくれた、坂本 隆一さんにお会いしたいな」
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