第6話 ∂ 涙の対面 ∂
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「覚えてくれていますか」
一筋の光りからはっきりとした声が聞こえた。
「わたしの3作目のドラマ「禁じられた学園」の台本合わせの時に初めて出会って。それからずっと廊下ですれ違った時とか、いつも優しく声を必ず掛けてくれて……」
真咲 学人さんが、あっと短い声を上げて思わず一歩後退した。そして、吹き上げる汗を手で拭いながら、その光りを直視した。
「覚えているよ……」
そして、懐かしそうな微笑みを浮かべた。
「有希ちゃん……有希ちゃんだよね?」
一筋の光りが一瞬のうちに、燦々と煌めいて陽炎のようにゆらゆらと恥ずかしそうに揺れた。
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「やっぱり覚えていてくれたんだ」
「どうしてたの……今まで」
「1人で先に黙って死んでしまってゴメンね」
「一言、僕に悩みを相談してくれたらよかったのに」
涙の静かに流れる音が、水の滴がぽたりとぽたりと雫ちるようにADルームに木霊していた。
「僕が悪かったのかな、仕事やなんやかんやで忙しくて構ってあげられなくなって」
「ううん。そんなことはないの。真咲さんは十分やさしくしてくれた」
「それじゃあ、いったいどうして?」
「自分で自分を追いつめてしまっていたのかな? 忙しくなって自分の時間が持てなくなって、だんだん正常でなくなっていくのが自分でも分かったの」
「それで、簡単に命を絶ってしまったの?」
「わたし、どうすればよかったのかな?」
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「今からでも、間に合うのかな?」
弥生のほうを振り向いて、必死で説得したいということを説明する真咲さん。
「期限は今日一日だけなんだけど、真咲さん。その先は、岡野 有希子さんは、ちゃんと1人で天国に帰っていかないといけないの」
「そんなに短い間だけなの? そうだ、有希ちゃん、ついでだから最後にもう一度TVに出演してみない?」
その真咲さんの提案に、有希子さんは驚くことに素直にこくりと笑顔で頷いた。
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