第3話 # 謎のアイドル ♭

-9-


「ねぇ、岡野 有希子って知ってる?」

 芸能人のブロマイドを交換している、教室の片隅に固まっている集団の中でクラス1の美少女、高見 花 織が近くにいたので、とりあえず聞いてみた。

「あ……確か、3年前に飛び降り自殺した新人アイドル」

「大規模なムリプロスカウトキャラバンで、5万人の中から選ばれた珠玉のシンデレラというのがキャッチコピーでさ」

「スタイルがいいとかじゃなくて、愛くるしい笑顔とちょっと知的なイメージが売りだったよね」

 みんなが口々に教えてくれた。


「で、確かこの学園出身で、売れ出したと同じ時期によそに転校していったとかいう噂も聞くよ」


-10-


 この学園で情報通の良輔がちょっと自慢げに口を開いた。

「でも、縁起悪いから、そんな話はよそうよ」

 その直後にチャイムが鳴り、みんな一目散に次の教室に移動して行く。

「弥生さんは、勉強ばかりしていて芸能界にすごく疎いから。そんな話、全然聞いたことがないんでしょ」

 花織が笑って廊下を駆けて行く。

「サンキュー。すごく助かる」

 そして内心、こんな可愛い子。一度、従兄弟で幼なじみの透に会わせておかないとね、なんて。


 あとで、透に何を言われるか分からないし。

 透は小さい頃から体が弱くて、特に心臓の持病が最近悪いらしくて、ここ数か月ずっと近くの病院に入院している。

 そろそろお見舞いに行かなくちゃね。

 久しぶりに透の顔が見たいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る