第2話 ■ 依頼人はアイドル? □

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 「やっぱり……」

 今回の訪問者は、ちょっといつもと変わっていた。なんて表現したらいいんだろう。

 浮き世離れしたような……死んでるんだから当たり前なんだけど。


「私のとこに来るまでに、迷った?」

 思い切って聞いてみた。

「そう、3年くらいかかったの、自縛霊になりかけそうなところだったのをみんなが助けてくれたの。まだパワーがあるうちに、弥生さんのところに行けって」

「みんなねぇ……」

 ふうっとため息を吐いた。


 あまり深く考えると、こっちまで怖くなってきそうなので、それ以上聞くのはやめた。

「それで、いったいあなた。どうしたいの?」


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 少女は少し躊躇っていた。

 しばらく足下を見て考えた後、きっぱりと弥生の方を向いて。

「この世界にやっぱりまだ未練があるの。かなえていない夢があって、それに……完全に向こうの世界に移行してしまう前に、会っておきたい人がいるの」

「それで、私のパワーをかりたいの?」

 美少女はこくりと頷いた。


「実は、私。ここの学園にいたの。あなたの3年先輩にあたるのかしら」

 屋上を一緒に歩きながら、少女がそう切り出した。

「校庭の風景も当時とひとつも変わらない。狭いテニスコートみたいなBグラウンドも。広い境内もちっとも変わらないし」

 そう言って弥生の顔を、きらきら輝く目で見上げた。


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 抱きしめられたら折れてしまいそうなくらい華奢な体。

 そして、なんとも愛くるしいお顔。

 弥生でさえも、思わず見とれてしまうくらい表情に愛嬌がある。


「そんなに可愛いのに、なんで自殺なんかしたの?」

「ううん」

 きっぱりと首を振ってから続けた。

「実は私、芸能界でデビューして1年足らずで短い命を絶ったの。正真正銘のアイドル歌手だったの」

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