第6話 ♪  如月家のドラ娘  ♪

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「お姉ちゃん」

 ギクッとして振り向くと、妹のさつきが制服姿のままでじっと興味ありげに弥生の顔を見つめている。

「さつき、何の用?」

 慌てて、読み返していたスケジュール表を机の引き出しにしまう。

 間一髪。セーフ★

「お姉ちゃん、また隠し事してるでしょう?」

「してない、してない!」

「嘘ばっかり。すぐに顔に出るんだから」

 さつきが、弥生の部屋に入って来て。

 くんくん匂いを嗅ぐように、弥生の勉強机あたりをうろつく。

「怪しい、絶対にあやしい!」

「透のところにお見舞いに行って来ただけだって」

「本当に?」


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「神に誓って」

「ふ~ん。でも、ホント。最近のお姉ちゃんの言動。ちょっとおかしいよ」

「ほっといて」

「お父さん、内心、心配してるみたいだよ。顔には出さないけど」

「それで?」

「そろそろ白状した方がいいよ」

「あんたなんかに分かりません。私の高尚な悩みなんか」

「安心した」

 さつきが、本当にホッとしたといいうように、弥生が中学時代に家庭科で作ったクッションの上にドカッと腰を下ろす。

「さっさと出て行ってよね。あんた中3でしょう。勉強、勉強。優秀な姉と比較されたくなかったら」

「顔が全然似てないから、比較されませんっ」

 目尻を指でつんと上に吊り上げて、ベーッと舌を出す。弥生の顔真似のつもりだ。


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「さつき!」

 弥生が立ち上がるより早く、さつきがぴょんと飛び上がってドアの所に立つ。

「お姉ちゃん、言っとくけど。神社の跡つぐの嫌だからって、不良に走ったら承知しないからね。私だってイヤなんだから」


 もう許さない!!

 完全に堪忍袋の緒が切れた。


「出てけ。このドラ猫!!」

「は──い」

 言いたいことだけ言って。

 案外、素直にさっさと部屋を出ていく。


 あ──。

 気持がムシャクシャする。

 せっかく計画を練ろうと思っていた時に。

 とりあえず、明日の支度をしないと。


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 下から、さつきの脳天気な。

「お父さん、弥生姉ちゃん。大丈夫みたいだよ」

 なんてとぼけた声が聞こえてきて。

「そうか、難しい年頃だからな、弥生は」

 お父さんの呑気すぎる声が二階まで届いて。


「あ──。うるさいうるさい。お父さん、お願いだから放っといて!!」

 あまりにもうるさいから。

 思わず部屋から飛び出して、階段の手すりを掴んで当たり散らす。


 二人とも、思わずぎょっとしたように弥生を見上げる。

「あ……弥生。元気そうだね」

 弥生、細い眉をきりりっと上に吊り上げて、「風と共に去りぬ」のヴィヴィアン・リーのごとく。

 すごい目で睨み付けてやる。

  そのまま、しばらく静止。


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「どう?」

「お姉ちゃん、綺麗綺麗」

「ふん★」

 すっと二人に背を向けて、優雅に部屋に引き上げていく。

 下から静かな、どうでもいいパチパチという拍手が響いてきて。

 難しい年頃だなあ、っていう父 尊文のタメ息が漏れる。


 面白くないけど、さっさと筆記用具、何かの時に必要な小型の携帯用具、折り畳み傘に財布をすぐに取り出せるように。

 きちんとリュックに詰め込む。

 小型の大工道具のセット。これは、透が小さい頃にくれたんだけど。

 今となっては、懐かしいなあ。


 そして、最後に。


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 女鹿 ひとみさんの写真をもう一度見てみる。

 色白の古典的な日本の正統派美人の彼女は、どことなく憂いを含んだ淋しげな表情をしていて、橘 一郎くんじゃなくても、思わず救いの手を差し伸べて上げたくなるような。

 そんな眼差しをしている。


 弥生、写真をそっとリュックのポケットの中にしまって。電気を消す。


 早く、明日の朝がきますように。

 弥生、本当は暗い夜が嫌いだ。

 そんな弱さは誰にも見せたくないけれど。

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