第2話 ◆  毎朝の修羅場  ◆

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「観自在菩薩行深、般若波羅密多~」

 早朝の神社に、読経の声が響き渡る。

 もう四月とはいえ、明け方はまだ寒い。

 しかも板張りの床の上に正座してるんだから。

 寒さと空腹で、だんだん目が据わってくる。

「即是空空即是色~」

 ちらっと斜め後ろに座っている妹たちの方を盗み見る。

 二人ともお経を聞いているのかいないのか眠気と空腹で、一種の瞑想状態に入っている。

 ここでちょっと家族の紹介をさせて頂く。


 父、尊文。わが大尊寺の神主。タヌキ顔で、おっとりした性格。

 神主のくせに酒飲みで、だらしがない。

 特にお母さんが死んでからは。


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  でも、根がお人好しなもんで近所の人気者だ。

 本当は、もうちょっとしっかりしてもらいたいものだけど。

 なんせ憎めない性格なんでいつも少々の事は見逃してあげる。


 妹のさつき 14才。中学三年生。

 おしゃれとボーイフレンドのことしか興味がない。

 只今、反抗期真っ盛りで、最近姉の言うことを全く聞かない。

 こいつとはケンカばかりしている。

 普通にしてたらまぁまぁ可愛いんだけれど。


 末の妹 茜 12才。中学一年生。くりくり眼で華奢で大人しい。

 読書がなによりも好きで文芸部に入り、小説家をめざしている。

 小動物タイプでクラスでも好かれているみたいだけど。

 少し大人しすぎて、姉として心配になることもある。


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 お母さんは、末の妹、茜が生まれてすぐに亡くなった。弥生が4つの時。

 色白で首が長くて、弥生と同じ切れ長の目の上品な日本美人だった。

 名前は「貴子」と言って、近所でも評判の美人で信者さんの間でマドンナ的存在だったらしい。

 弥生はお母さん似だと言われるけれど。

 どんなものだろう。

 少なくとも、今の流行の顔ではないし。

 でも、お母さんぐらい綺麗になれるかな?

  なんて思う時もある───。

 会いたいな、お母さん。生きていたら。


 そして最後に、私。

 弥生は、この大尊寺の長女で。

 隣接する大尊寺学園の高校2年生で、成績優秀、運動神経抜群。(自分で言うのもなんだけどね)

 先生に推薦されて、生徒会長を務めている。

 ちなみに、この間の校内模試は学年一番。


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 ただ、性格の悪さだけは直らないようで。

 自分でも、キツイ性格だと思っている。

 妹達からは嫌われているが、何分私がこの神社の跡を引き継がないといけないわけで。

 もっとシッカリしないといけないな、と思う日々。

 家事もしっかりしないといけないし。


 お母さんが死んでから。

 ほとんど私がこの神社を仕切っているようなものなので。

 誰にも、この家の事はもう何も言わせない。


 と……まあ、こう言うわけだ。


 こんなこと話してるうちに、もう足の痺れは限界に達し、空腹は頂点に達する。

 しかし、この状態もあと少しで幕切れだ。


「般若心経~」

 ガーン


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 この終わりを告げる音と共に、うとうとしていた目は、ぱっちりと開かれる☆

 そして次の瞬間には、もう走り出す!

 炊事場目がけて!


「いっただっきま~す★」

 眠いところを毎朝、毎朝たたき起こされて、掃除、掃除をして、父尊文の読経を聞いて。

 お腹はいい加減、極度の空腹状態☆

「お姉ちゃん、それ私のゴボ天!」

「うるさーい。弱肉強食だよ」

 茜のおかずを横取り。

「あ───、もうこんな時間!」

「行ってきま~す」

「待って、待って。私も」

 さつきが大慌てで靴を履く。


 これが如月家の、毎朝の阿鼻叫喚図である。

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