第7話~出立~
必要なものを揃え、荷馬車に積み込んだ僕たちは村を出る。
僕に合う武器が分からなかったこともあって扱いやすいという短剣を1本選び、須藤くんは槍と投げナイフと小ぶりのメイスを選んだ。
メイスを選んだ理由は、金属バットに似ているからだそうだ。
「それでは父上、行ってきます」
「うむ、たまには顔を見せに戻ってくるのだぞ。母さんが手紙を送ることだろうからしっかり返すように」
「はい!」
ネスライ様の出立もあって、村人全員に見送られることになった。
荷物を積んだ馬車1人輸送の馬車の合計2台での移動となった。
領主のご子息が利用するだけあってしっかりとした馬車だ。
しかしそれでも揺れは結構強く、下手をすると乗り物酔いになりそうだった。
馬車の速度は歩く速度とそう変わりなく時速7km~15㎞ぐらいのため、須藤くんは馬車の後ろを歩いている。周りの景色や木々、動物などを物珍しそうに見ていた。
「思ったよりの揺れないんですね」
僕は馬車に乗っていたが想像していたよりも馬車は快適だった。
技術的に考えれば道はガタガタで馬車は激しく揺れるものだと思っていたのだが。
「少し前はもっと揺れてひどかったのですが近年で大きく改善されたんですよ。ネスく…ネスライ様が主要道を整備されたり、馬車の車軸にバネを入れて揺れを減少させたり」
「エミル、父さんはもういないしネスくんでいいよ。僕も楽に話すからさ」
そういったネスライ様は先ほどまでの堅い空気とは変わって年相応な雰囲気を見せる。
父上と呼んでいたが父さんにも変わっていた。
「家では父さんって呼んでも怒らないんだけど、人前では父上と呼べ~って言われてまして。これから僕は冒険者になるので、気軽に呼んで、気軽に話しかけてください。よろしくお願いします」
馬車に乗っているグウィルさん、オリアナさん、アルフィンさん、僕と順に握手を交わす。
なおバーンズは気持ちよさそうに寝ていた。
「へへ、あの小さかったネスライが冒険者かァ」
「ほーんと、あの悪ガキがね」
幼い頃から知っているのだろう。グウィル夫妻が笑う。
「お二人には色々お世話になりました、ほんと」
「町で小せェガキがなんか商人に食ってかかってたん。大人みィんなを怒らせてやんの。仲裁した俺にもえっらそうに武器の扱いを教えろだの戦い方が甘いだの言いがやって」
「そうそう。普通ならまだ文字なんて読めない年頃から人の魔道書は読むし、スキル解析もしちゃうし、教えていない魔法で火事にしちゃうわ、風魔法でメイドのパンツは見るわ、勝手にどこかに行くわでさ」
「ははは……まあ、知的好奇心というかなんというか、ほんとお二人にはお世話になりまして…」
「まァ剣は教えたが、戦略だの戦術だのスキルの知識だの、そォいうのはネスライのおかげで俺ァ成長できた。楽しい日々だったぜ」
「ネスライがいなければあんたはいまだに四等級ぐらいだったでしょうね」
「でもネスくんは本当に凄くて。三つ上の私よりも文字の読み書きは出来たし計算などもできて。気が付けばそうやって家庭教師を見つけてきて。今では領土の改革に着手まで。私はそれが当たり前なのかって思って自分の不出来さに悩んでしまいましたよ」
「でもエミルは奇跡が使えたでしょ?気が付けば女神教会に入ってるし、そればっかりはどれだけ調べて考えて挑戦しても僕にはできなかったから」
「だ、か、ら、教会に行って修行に励んだんです!負けるかって気持ちの結果です!」
わざとらしく拗ねるエミルさん、それをみてみんなが笑いエミルさんも笑う。柔らかい空気で聞いているだけで心地が良かった。
「ミスミさんは町へ行ったらどうされるんです?」
少し話に置いて行かれていた僕に、ネスライ様は問う。
「とりあえずは冒険者登録を受けようかと思います。現在の能力適正やクラス確認ができるんですよね」
冒険者になる際に名簿登録を行うのだが、その際に個人が持つ現在の能力適正が判別されるらしい。もちろん現時点なので才能などではないらしい。
そしてその能力や知識、技能が判別されて「もし冒険者だったら」という前提で理想のクラス、いわゆる職業が言い渡される。
そのクラス(職業)に就く場合はそのまま登録が可能になり、希望するクラスが別にある場合はクラス認定をうけるためテストがあるのだとか。
「ここで自分に何ができるのかを知る必要があるかなって」
「そうですね、それがいいと思います。一緒に冒険者組合で受けましょう。僕たち、同期ですね!」
同期、とはいうが聞いている限り彼はもうすでに戦う力をもっており様々なところで実力を発揮している。
僕はゼロからのスタートになるため、まずは情報を集めていくしかない。
「やっていけるか不安だ…」
「大丈夫ですって!まだ若いんですし持っている知識は絶対に活用できますよ!!」
不安が声に出てしまい、それを聞いたネスライ様が励ましてくれる。年下に気を使わせてしまった…。
「ネスライ様も若いではありませんか、私なんて233歳ですよ。まあエルフではまだ若い部類なのですが」
「良いわよねえエルフは若い時間が長くって。私なんて結婚しちゃったし一気におばさんコースよ」
「オリアナ何を言っているのですか。あなたは今からが一番きれいな時期なのですから」
「おいクソエルフ、人の嫁口説いてんじゃァねェぞ」
「おっとこわいこわい」
ははははとみんなが笑う。不安などもあるがこの世界でこうして笑って過ごせるならば、僕は頑張っていける気がした。
いつか彼らに並んで笑えるようになりたいものだ。
町への道中は思った以上に快適で楽しいものとなった。
舗装された主要道はコンクリートで出来ており安定した足場となっている。もちろん全てが舗装されているわけではなかったが、それでもしっかりと堅い土が敷かれており馬車の横転などがない。
これらもネスライ様も取り組みらしく、石灰岩、珪石などに乾燥させた粘土を混ぜて細かく砕いて高温燃焼させて水と砂利でかき混ぜることで作っているらしい。
これはかなり現代的な技術だ。魔法という存在がそれだけ大掛かりな燃焼炉や火力を維持させることに貢献しているのだろう。
道の街頭には光硝石というものが使われているらしく、光をため込み発光するそうだ。その発光には魔物が嫌う色彩があるらしく魔除けにもなっているとのこと。
これらの整備を主導したというネスライ様は本当に天才児だ。
セメント技術は古くからあったそうだが、コンクリートの安定大量生成を実行させた発想は国力を大きく向上させたのだという。
本人は「たまたま館の書庫に関連する書物があっただけです」と謙遜をしていた。
そんな彼の偉業のかいもあって3時間ほど馬車旅を楽しんでいた。
しかしその平穏は突然に崩れた。
「助けて!!誰かあああ!!」
少し遠くで女性の声がした。
なんだ、どうしたんだ?とその声に僕が動揺をしたとき、眠っていたバーンズさん、アルフィンさん、グウィルさんは馬車から飛び降りていた。
オリアナさんとエミルさんも魔法用の杖を手に取って身構えている。
僕とネスライ様はただその光景にこれが冒険者というものなのか。と一瞬呆然としてから、慌てて馬車から外を見た。
「なんだ!どうした!!」
元々外にいた須藤くんが馬車の先頭、前へと走っていくのが見える。何が起こっているのだろうか……。
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