第6話〜僕らにある差〜

村を上げたバーベキューもとい祝勝会の中にあって煙と肉の香りがたちこんでいた。

村人はみな喜び、笑い、楽しそうにしている。

その中心、肉を焼く村長のそばに行くとその場には似つかわしくない厳格な鎧を着こんだ騎士たち10名が見えてきた。

そしてそれを従えるように佇む一人の男性。それがここの領主ガルライ・ベルテッツ様。そしてその横にいる小柄な少年がネスライ様だろうか。

村長と穏やかな雰囲気で会話をしている場に僕らは赴いた。

するとこちらに気が付いたのか少年が駆け寄ってくる。

「エミル!」

「ネスくん!久しぶりね!」

少年は笑顔でエミルさんと両手で握手をした。

エミルさんよりもまだ少し小柄で、茶色い髪色、緑を基調とした布の服。しかし領主のガルライ様よりも質素な服装な気がした。領主と子息ではやはり違うのだろうか。


「村長、彼らが」

「ええ。この度の討伐を行った冒険者と、残党を倒してくださった旅の方々です」

少年に続くようにこちらに一団が近づいてくる。

こうしてみると冒険者と騎士とでは風貌などが大きく違うことがわかる。

やはり騎士のほうが統一された鎧を着ているためか風格があった。

「ネスライ、先にみなに挨拶だ」

「はい父上!って、えええ!?」

ネスライと呼ばれた少年は僕ら一同を見て何やら驚愕している様子だ。

「どうしたのだ?」

「あ、ああいえ、失礼しました。えっと、女神保護者のブローチをつけている方なんて初めてみたので」

ブローチ、これか。僕と須藤くんが同時に胸元のブローチを見た。やはり目立つのだろうか。

「気になるなら後で話しを聴いてみなさい。では皆、聞いてくれ」

一言、大声でもないが良く通る声が響き渡り村人たちの視線が集まる。

「この度は急な対応依頼にも関わらず迅速な準備に感謝する。特に住民の皆は柵やトラップ、堀を作ったりと大変だったであろう。よくやってくれた。ありがとう」

そういうとガルライ様は頭を下げた。

「「「うおー!!領主様ーー!!」」」

村人たちが声を上げる。どうやら領民たちからは強い人気があるらしい。

「今回のオーク、ゴブリンの大量襲撃は王国にいるクロード・エイロンという若い王国騎士からの情報があってこそ対応ができた。彼は若干17歳ながらすでに剣術隊にて1部隊の長を務めるほどのものだ。彼はこれまでも魔物襲来に関する事前情報をいくつも事前察知している。王国は遠く西の地にあるが、彼にも感謝を」

村人たちは西方を向き、みな頭を下げる。

クロード・エイロン。同い年のようだがそれほどの功績を残しているというのが凄い。

「そして!残念ながらかの有名なシャフールの一団は先だって旅にでてしまったが、領主騎士団だけでは対応できなかったこの事態のために駆けつけ一夜丸々戦い抜いた冒険者と協力者たちに感謝を!!以上だ!皆引き続き楽しんでくれ!!」

「「「うおおお!!」」」「ありがとう!!!」「助かったぜ!」

皆が歓喜と感謝の声を上げる。

そこまで多くはない村人の人数のはずだが、それでもとても大きな、これまでの人生では聞いたことのない歓声だった。


ガルライ様からの激励が終わり、再び村はお祭り騒ぎに戻った。

ガルライ様率いる領主騎士団の一行も鎧を脱いでラフな格好になり肉を楽しそうに食べている。

「すげー人気なんだな。あのおっさん」

「須藤くん流石に領主様をおっさんはまずいって」

村人たちに囲まれ賑わっているガルライ様のほうを見て須藤くんがいう。

しかし人気なのは事実だろう。人望が厚いとでもいうのだろうか。領民に愛される領主というのはとても素晴らしいことだと思う。

「モグモグ……おめェらのところはどうだったんだァ?いんだろ、国とか地域をまとめる奴ァ」

グウィルは豪快に串焼きを3本同時に食べながら聞いてくる。

僕らの領主、知事だったり総理にあたるのだろうか。

「うーーん…時期にもよるけど僕が知っている限りじゃイマイチ、だったかな」

「そーだな。なんかぐちゃぐちゃしてて争いあってバタバタ。入れ替わり激しかった気がしたぜ」

その言葉に皆が驚く。

「国内紛争がそんなに!?」

「それで技術国家って、やべェなお前ン国」

「あ、いや、その領主や貴族同士がバチバチ牽制しあっているだけで国民は呆れていたというかなんというか」

流石に知らない国の評判をここで変に下げるわけにもいかず、嘘をつくのも勘繰られたくないため曖昧なことで誤魔化す。

「いやァ、苦労してんだなどこも」

「ま、まあね」

ははは、と愛想笑いで乗り越える。


「皆ご苦労、楽しんでいるかな」

領主ガルライ様がご子息のネスライ様とエミルさんアルフィンさんと共にこちらへ来た。

僕と須藤くんが気になるのか、ネスライ様はじーっとこちらを見ている気がする。

「ここの肉は美味いだろう。この数年で色々と改革をしてな。牛に与える餌を変えたりしたことで格段に品質が上がったのだ」

誇らしげに嬉しそうに言う。実際その通りでこの牛肉はとても美味しい。

「それ以外にも我が領土では水路の拡張や農作物への肥料変更、各町村への連絡網の整備など今改革中なのだ。君たち女神保護者はベルバットの町へ他のものと共に行くのだろう?是非ともその様を楽しんでほしい」

「最先端技術を持つ国から来たお二人にはまだ物足りないかもしれませんが。なにか良い知見があれば教えてください。僕はネスライ・ベツテッツ。皆さんと共にベルバットの町へ向かいます。よろしくお願いします」

そういってネスライ様が右手を差し出してくる。

僕たちがいたという設定になっている技術国家アルサードがどれほどのものなのかは分からないし、僕の持つ知識で何かできるのだろうか。

未知への楽しみと不安が胸中にあるのを感じながら握手を交わした。須藤くんも僕の仕草をみて真似をするように「あ、ども」と握手をする。

そんな特に形式ばったことは僕もできないのだから思うようにすれば良いのに。

と、いうか。

「共に来る、ですか?」

「はい」

「君たちとは関係ないのだが、元々我が息子ネスライは冒険者たちと共にベルバットの町へ向かう予定だったのだ。この国では12歳から冒険者になる資格を得られてね。本来なら12になると同時に取得をさせたかったのだが…先ほど言った領土の改革は息子の提案が大きかったのだ。そのため1年時間がかかってしまった。14になると国立大学への入学資格を得るためそれまでの1年で冒険者経験を持たせたいと思っているのさ」

12歳で冒険者。14歳で大学。僕の思っていた通り、現代よりも大人として認定されるのは少し早いのだろうか。

「それで、わたしたちもそろそろ出発の準備をしようと思いました。バーンズは先に馬車に乗せておきました。何か必要なものがあればお二人の分は私が買いますよ」

そういうアルフィンは確かに装備を整え弓を背負ってきている。だが片手にはいまだに串焼きを持っていた。ギリギリまで食べるらしい。

「私はいつでも動けるので、グウィンさんオリアナさんも準備できますか?ネスくんも何か買うものある?」

「んじゃ荷物だけもってくらァ」

「先に馬車で待っててね~」

食事をしていたため軽装になり手ぶらだった二人は手を振って去る。

ネスライ様も手ぶらだが。

「僕は少し荷物が多いので荷馬車に積んでありますからご安心を。それとエミル、僕はもう収入を得ているんだから子ども扱いしなくていいんだよ」

「あはは、そうだったね。ついつい」

「ったく…」

「ごめんってば~」

ネスライ様はわざとらしい仕草で拗ねてエミルさんが笑いながら謝罪をしている、言い方や仕草から互いをとても信頼して親しみを持っているのが良く分かった。


「ではお二人とも、何か欲しいものはありますか?食材はすでに買ってありますしここの焼いたお肉もいくらかもらっているので道中の心配はないでしょう」

何かあるだろうか、正直何があるのかもわかっていないし、武器を持っても扱える自信はまだない。傷薬とかそういうものもあるのだろうが、どうにも数や値段、必要な量などにイメージがまだなかった。

「うーん、ゆっくり店をみる暇はないだろうし……そうだ。ペットボトルに飲み水でも入れようかな」

「ぺっとぼとる?」

「これ、コーラが入っていた容器のこと。どこかで飲み水ってもらえない?」

そう言ってぼくは空になったペットボトルを見せる。

「ああ、それなら浄化水があるのでもらいに行きましょうか。スドーはどうしますか?」

「……槍だな。あとはナイフか金槌とか」

めっちゃ武器だ。

「では浄化水をもらったら武具工房に行きましょう」

こうして僕は移動をする。

移動中、村人たちから声をかけられたり、女神保護者であるためか「がんばってな」「元気出して」と励ましの声をもらったり、浄化水という水を綺麗な砂利で洗浄した昔ながらの浄水場にて

ペットボトルの見た目や仕組みに驚愕する村人に笑ってしまったりと現代ではなかなか味わえない交流を楽しんだ。


そうして武具工房まで来た。ここは武器や防具を作ったり販売をしている一括店舗のようだ。

店内にはいくつか剣や鎧や盾、重そうな斧や槍など様々な武器防具が展示されている。

置かれた木箱や樽の中にもナイフや剣、メイスなど様々なものが入っている。

「店主、すみません。彼に見合う槍や槌などはありませんか」

「おういらっしゃい、そっちの背の高いにいちゃんか?ちょっと待ってな」

そういって店主は店の奥へ行った。

「ここは王国で5番目に大きな武具工房なんですよ」

「へぇ、道理でいろいろあるわけだ。すっげえなあ」

須藤くんも関心したらしくまじまじと展示されている武器を見ている。

「ほら、これらなんてどうだ」

戻ってきた店主は槍を2本、大きなハンマーを1本もってきた。

というか今更だけどなぜ槍と槌なのだろう。

「こっちはちょっとデカすぎんな。…これがいいか。ちょっと振ってもいいか?」

「もちろんいいが、外で頼むよ」

1本の槍を手にして表に出る。店主や僕らもそれに続いた。

「さーて、こうで、こうして、こうだよな!」

須藤くんは槍の持ち手を確認し少し持ち替えた後、大きく槍を振り回す。

そうして振り回す槍に手が馴染んだのか、次第に素早く扱い始め、目にもとまらぬ連続突きを放ち、大きく突き出したのちに槍を薙ぎ払う。

「ほう…?今のはもしや」

「お、わかった?グウィルの真似だ」

アルフィンさんのつぶやきに須藤くんは答える。

確かに今の動作は先ほどみたグウィンさんの昆と同じ動きだ。思い返せば槍を握って大きく振り回す動作も、昆を受け取った際のグウィルさんの構えに似ている。

「俺の数少ない特技でな。自分に再現できる動きなら見たものを真似できるってのがあんだ。殴り方も蹴り方もバットの振り方だろうがナイフの扱いだろうが、俺の身体で再現できるなら何でもな」

須藤くんは槍を扱いながら言う。

「自分の足先や指先から頭のてっぺんまで。全身の動きを理想通りに動かすことだけをずっと考えてきた。それに筋力や柔軟性がそろえば出来ない動きはないと思ってな」

理想通りに動かす…僕には考えたことがなかった発想だ。

「ではスドウは人の動きを見て完全にそれを再現できるというのですか」

「まあ、俺が見て理解できればな。これは目の前で観察できたからよかったぜ」

だから槍を選んだのか。

その言葉をきいたアルフィンはしばらく何かを考えた後、店内に一瞬だけ入りすぐに戻ってくる。

「店主、こちら使っても?」

「お、おう」

「先ほどの話が本当であればこれは真似できますか?」

そういってアルフィンは店内からもって来たのであろうナイフ3本でジャグリングをするように巧みに操る。

そして数秒ジャグリングをしたのち、ナイフを1本ずつ素早く投げて近くの木に突き刺した。カカカッと心地よい音がなり3本のナイフは綺麗に川の字のように並んで刺さっている。

「いかがです?」

「へえ、悪いがもう一回だけ見せてくれよ」

「ええ、いいですよ」

突き刺さったナイフを抜いて、再度アルフィンは同じようにジャグリングをしてからナイフを再び投げ、綺麗に3本とも刺さる。

須藤くんはブツブツと何かを言いながらそれを見つめていた。

僕だとまずナイフ1本でも出来ない。そもそもで怪我が怖くてジャグリングなんて不可能だろう。

「よし、んじゃまあこんな感じか」

そういってナイフを回収し、すぐにジャグリングを始めた。危なげなく、まるで今までしたことがあるかのように迷いがない。

そしてアルフィンと同じようにナイフを素早く投げる。投げた先は別の木だ。

カカカッとこれまた同じように心地よい音がなり綺麗に川の字でナイフが刺さる。

「これはすごい、お見事です。良く再現しましたね」

「そうだね、綺麗に並んでる!」

「ちげえよ。あんたもずるいな。1回目と2回目でナイフを逆に持つなんてよ」

逆とはどういう意味だろうか。

「どういうことじゃ?」

僕の代わりに店主が聞いてくれた。

「1回目、こいつはナイフを回すときにナイフの柄を指先で摘まむように掴んでは投げた。こういう風にな」

ナイフを再び抜き取り、手元を見せる。

柄の部分。つまり持ち手の先を親指と人差し指で挟んで持っていた。

「だが2回目はナイフの刃を同じように持って回したんだ。しかも最後に投げると際だけ柄の部分を持ってズレないようにな」

そう言いながらナイフの刃の先を持つ。

「バレちゃいましたか。それを1回目で刃先側で実行するのですから驚きましたよ」

全然気づかなかった……。1回目も2回目も同じ動作でジャグリングをしているのだとばかり思っていた。

「まあ、柄を掴もうが刃を掴もうが動作に変わりはないからな」

「お見事です。感服しました」

そういってアルフィンは残り2本のナイフを抜き取り須藤くんに手渡す。

「では店主、このナイフ3本と先ほどの槍を彼に」

「お、おう!いやあ良いもの見せてもらったからなあ。ちょいとだけだが安くしとくぞ!」

「ははは。ならもっとみせりゃ格安になんのか?」

「それはないな、がはは!」

三人は楽しそうに笑いながら店に入っていく。

僕は先ほどまでナイフが刺さっていた2本の木を呆然としてみる。

彼には僕にないものがあり、この世界で生きていくだけの力があるのだろう。

僕にはない。出来ない。その不安が僕を飲み込みそうになるのを誤魔化すように、僕は急ぎ足で店内に戻った。

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