第5話~些細な宴~
「では、この度この村の危機から救ってくださった冒険者の皆様に感謝を込めて」
「「「かんぱーい!!!」」」
須藤くんとグウィルさんの怪我の治療も終わり、オーク討伐のお礼ということで村で飼育しいくし出荷している牛をつかったバーベキューが開催された。
鉄板で焼かれた肉や串に刺されて焼かれた肉が振舞われている。
村人から怪我人がでなかったそうで、村長さんが冒険者一人一人にお礼をいっていた。
「この肉、うめえな!!」
「うーんんんんまい!!!すばらしい!」
「ほんと、すごく美味しいわ!!」
「噂には聞いていたがジアレア村の肉はすごいんだな!!」
「ベルテッツ領土はこういう食材改革が最近すごいからなあ」
冒険者たちがお肉の美味しさに感嘆をあげていた。
串に刺さった肉を食べると、確かに美味しい!柔らかく油ものっており、日本で食べていた和牛肉のようだ。
味付けはおそらく塩のみなのだろうがそれで十分なうまみがあった。
「おい、なに難しい顔してんだ?」
「そうだぞ、せっかくなんだ。お主らどんどん食べなきゃもったいないぞ」
須藤くんとバーンズが皿に凄い量の肉を乗せてやってくる。
「いやがっつきすぎでしょ」
「んなの良いんだって!出荷できなかった牛とか、加工時に余った肉とかも多いらしいから残すより食えってさ!うんめ~~!」
「がははは!そうだ!食って飲めるときに堪能するのが冒険者だ!がははは!」
「バーンズさん、もう酔ってない…?」
「がははは!ワシがそんな!がははは!」
……酔ってる。
「バーンズァ昔から酒好きのくせに酒に弱ェんだ。飲み始めたらすぐそうなっちまう」
グウィルさんがやってきた。オリアナと呼ばれていた赤髪の女性とエミルさんも一緒だ。
「お邪魔するわね」
「戻りました、もうバーンズさんそんないきなり飲んだらお肉を楽しむ前に酔っ払っちゃいますよ」
「エミルも食っとるか!がはは!アルフィンはどうした~」
「アルフィンさんなら鉄板の前です」
村人や村長さんが鉄板で肉を焼いている目の間で両手に串焼きを持ちながらアルフィンはスタンバイしていた。
「あいつは食べ物があるとすーーぐあれだながはは!」
「エルフであるアルフィンさんが冒険者をしている理由は美食を味わい尽くすことですからね」
「で、どーよ腕ァ。問題ねェか」
「ばっちり。あんたは?」
「おれァ今すぐ第二回戦だっていけるぜ?」
そういってまた二人は悪い笑顔で火花を散らす。
「はいはい、そこまでそこまで。ごめんねー?こいつ負けず嫌いでさ。子どものころからバーンズさんにも勝てないのに挑みっぱなしでね」
「おいオリアナ!おれァバーンズには勝ちこしてんだよ!!」
「20歳超えてからの話でしょ。あんたが7歳の時から計算したらボロ負けじゃない」
「あーあーうるせェうるせェ」
二人仲良く言い合いをしている。その光景は仲睦ましく、美男美女の二人の姿は絵にかいたように綺麗な光景にも見えた。
「あっ、えっと、あはははごめんね初対面なのについ…。あたしはオリアナ・ミリアシア。グウィルとは幼馴染。四等級冒険者よ。さっき見てたかもしれないけど、魔法使いをしているわ」
「俺は須藤恭平だ」
「僕は三住ゆう」
「おめェもスドーと同じくアルサッド出身で女神保護者なんだよなァ?」
グウェルがまじまじと僕を見てくる。その距離は近く、文字通り品定めをしているようだった。
「ふーーーん……こっちァまさに技術国家出身って感じだな」
「ぼ、ぼくは調べものとか学問主体でして」
という設定になっている。この世界の学問で言えば高校二年生の学力もかなりの高等知識のはずだ。
しかし目つきが怖い。間近で睨まれていると流石に変な汗をかいてしまう。
「グウィルやめなさいよ」
「ァ痛ッ、ったく分かったよ」
パンッと乾いた音が聞こえた。どうやらオリアナさんが頭を叩いたらしい。
「改めて、グウィル・アンヴィル様だァ。二等級冒険者で戦士。基本は槍、たまに剣も使っらァ。よろしく頼むぜ」
そういって笑う。差し出された手を握り返した。すると彼は驚いた顔をする。
「お前……女みてェな手ェしてんな。確かにこりゃァずっと学問してるってのも分かんぜ」
「え?」
そう言われて自分の手を見る。女みたいな手?
「普通はァもっと手のひらとかが堅いもんだろ?」
「でもアルサッドって技術国家って話だし、薪割りとか水汲みとかもしなくて良いんじゃない?」
「あァ!なるほどなァ。それなら手も荒れたりマメ出来たりもしねェか」
納得したらしく手を放された。
そうか、この世界なら子供のころからそういうことは当然するんだ。
異世界について漠然とファンタジーや古代や中世のイメージで考えていたけど、当たり前の生活なんて考えてなかった。
この時代なら灯りは火だし、松明やろうそくなど。当然水も井戸だったり貯水、水は汲み上げ作業はいるはずだ。
お風呂なんてなく身体を拭いて清潔を保っているし、調理器具なども鉄や銅だろう。
そう考えたら武器に扱われる鉄も鋳鉄だろうか。もしかしたら製鉄で高炉は使われていない可能性もある。
詳細までは曖昧だが錬鉄、そして鋼の製造は産業革命が行われた時期。この世界がそこまで発達しているかは怪しい。
えっと、確か鋼の作り方は鉄を作る工程で不純物を取り出してさらに鉄が溶ける温度まで上げて、そこに空気を送り込んで炭素を取り除いて…あれ?これって錬鉄の方法だっけ?
炭素を含む量を抑えないといけないんだから……
「何また難しい顔してんだ。女の手って言われたのがそんなショックか?」
須藤くんに言われてハッと我に返る。
頭の中が鉄のことでいっぱいになっていた。一つのことを考え始めると思考の渦に飲まれる僕の悪い癖かもしれない。
「いやちょっと鉄の作り方をね」
「は?何言ってんだお前。ほら、食えよ。うめえぞ」
そういって皿に盛られた肉を分けてくれた。
須藤くんは僕を同い年の知人ぐらいには見てくれているように思う。
僕はお礼を言ってそれを受け取った。
「やあ、ちょっといいかな」
僕たちが他愛ない話をしているとまだ話していなかった冒険者たちが話しかけにきた。
「君たちが取り逃したオークとゴブリンを倒してくれたんだってね、助かったよ」
5人の先頭に立つ男性が握手を求めてきた。
赤を基調とした革製の鎧を着て腰に細い剣を携えた、茶髪で爽やかなイメージを抱く青年だ。
「僕はティルス・バレット。二等級冒険者で戦士。後ろの4人と組んでいるシュフールってチームのリーダーをしている」
「俺はダイナモ・ウンバルスだ。三等級冒険者で斥候だ」
「ミルフ・チェンバー、三等級冒険者で魔術師さ」
「エレンダ・フォークフよ。私も三等級ね」
「ぱ、パーシィ。パーシィ・ブリオーニです…五等級冒険者してます」
いっきに全員が自己紹介をしてきた。流石に覚えきれない気がする。
「えっと……」
「ああ、無理に覚えなくてもいい。ただお礼を言いに来ただけなんだ。僕らはこのあとオルサを出てイグニスターを探す旅にでるからしばらく顔を合わせる機会もないだろうし」
「なんだァ?今日行っちまうのか?」
「ああ、こっちのことは任せたよグウィル、オリーちゃん」
「がはは!ワシらにまかせておけ!さみしくなるなあ!がっはははは!」
「はは、相変わらずお酒に弱いなバーンズさんは。頼みましたよ。それじゃ」
そういって彼らはすぐに踵を返して去っていった。
グウィル、オリアナ、バーンズ、ユミルたちが手を振って見送っている後ろで僕らはいきなりの展開に呆然とする。
「ゆう…なんて言ってた?名前」
「ごめん僕もフルネームまでは覚えられなかったや」
そもそもで横並びの名前にすら馴染みがないのだ、しばらくは苦戦しそうである。
「行っちまったなァ」
「あらグウィルさみしい?」
「ハ、まさか。ただまァ、静かになるな」
「そうだね」
去って行く5人を見守りながらそんなやりとりをするグウィルさんとオリアナさん、何をしていても絵になる二人だ…。
「ちなみにですね」
エミルさんがささっと僕らのそばに来て耳打ちをしてくる。
「あの二人とシュフールの5人はみんな後で行くベルバット出身。一番最後に自己紹介していたパーシィさん以外はほぼ同年代の幼馴染なんですよ」
「そんじゃなんでグウィルとあの女はチーム組んでないんだ?」
「それはあの二人は結婚しているからですね」
「あんたら結婚してんのか!」
須藤くんが声を上げる。
それを聞いて慌てるようにグウィルさんが振り返る。
「でけェ声出すな!!その、なんだ、つい最近な」
「てへへへ」
二人は照れくさそうにしている。
その姿を観て須藤くんは凄いまじめな顔をして、無言で二人に近づいていく。
そして二人の肩をがしっと掴むと
「ぜってえ互いを幸せにしろよ。グウィル、てめえ奥さん泣かせたら今度はぶっころすからな」
「て、てめェに言われる筋合いはねェ!」
肩に置かれた手を振りほどくグウィルさん。しかしそれを無視して須藤くんは続ける。
「あんた、オリアナとか言ったよな。あんたも、しっかり支えんだぞ」
と続けた。それを聞いたオリアナさんは優しい笑顔で、もちろん。と答えたのだった。
須藤くんは父親を「飲んだくれのクソ親父」と言っていたし、母親は出ていったと言っていた。
きっと何か思うものがあるのだろう。
物心がつくころには両親がいなかった僕には何とも言えない話しだった。
「エミル、ちょっと良いですか」
振り返るとアルフィンがエミルさんを呼びにきていた。
片手には串焼き肉、片手には骨付き肉を持っていて口の周りには食べカスがついている。
整った顔立ちのエルフがそんな姿をしているのはなんともシュールな光景だ。
「ネスライ様がいらっしゃいましたよ」
「わ、もうそんな時間ですか!」
「この状態のバーンズは流石にお見せできませんので、良ければエミルはお二人を連れて向かってください」
そういって僕と須藤くんを見る。
「えっとですね。このあたり一帯を管理されている領主様、ガルライ様とご子息のネスライ様が村に来られたのお二人はご挨拶に行きましょうか」
「りょ、領主様ですか」
一気に色々な人と話す機会が増えたが、さすがに一気に位が上がりすぎだ。
「そいつは、つまり偉い人ってことか」
「はい。この国の貴族でも名門のベツテッツ家、そのご当代ですね」
「なあエミル、俺は自慢じゃないがゆうと違って礼儀なんざ知らねえぞ」
「安心して須藤くん、僕も流石に領主様と話すときのマナーなんとわかんないから」
挨拶ひとつで不敬罪とか言われないだろうか。
「ンだ、ガルライ様もう来たのか」
「予定より早いわね。お二人とも安心して。うちの領主様はとっっっても素敵だから。ご子息のネスライ様も超優秀で天才児だけど穏やかだし。エミルちゃんの弟分だから」
「弟分というか弟というかなんというか。ただ私の母がお抱え僧侶なので幼い頃から面倒をみていたといいますか」
「えー?でもいつもライくんライくんって可愛がってるじゃない?」
そういってオリアナさんはエミルさんの肩を抱く。
「それは、まあ……弟、です。はい」
観念したようにエミルさんは同意した。
超優秀で天才児とのことだが、そんな風に呼ばれるなんてすごい人なんだろうな。
「というか、エミルさんっていまいくつなんです?」
ふと気になることを訪ねた。
「おま、女性に年齢聞くとかマジかよ」
須藤くんが言う。そういえば確かにそうだ!
「あ、ご、ごめんなさい」
「あはは、気にしないでください。今16です」
ほぼほぼ同い年だった。
「ちなみに君たちは?あ、私は23歳で、グウィルは24歳ね」
思ったよりも若い。でももし今が中世ならそういうものなのかもしれない。
日本も江戸時代などは10歳から大人として扱われたらしいし、分からないものだ。
「俺らは17歳だ。てかゆう、何月生まれ?」
「僕は5月。5月20日生まれ」
「お、俺も5月よ。5月1日生まれ。俺のほうが先だな!」
その差はあまり関係ない気もしたが、つっこまないことにした。
「17歳…俺ァ17に負けたのか……」
グウィルさんが静かに凹んでいた。
「さ、ご挨拶に参りましょう」
エミルさんに連れられ凹んでいるグウィルさん、オリアナさんも共に僕らは村の中央へ向かった。
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