第3話~僕らの知らないこの世界~

この世界にはかつて偉大な神々がいた。

無の大地に光を作り、海を湧かせ、大自然の恵みを与えた。

ある神が世界にドラゴンを生み出したが、ドラゴンの多くは好戦的で欲深く、互いに争いを起こして数を減らした。

その神は自らの本質が出たのだと悔み嘆き、深き海に身を隠したという。

またある神は先の失敗からその世界を管理させるべく四人の女神を生み出した。

名もなき女神たちは神々の叡智を元に、世界に様々な生き物を生み出しながらも争いが起こらぬように管理を続けた。

だが、一人の女神にとある神が訪ねた。

完全に管理された世界がもし壊れるとしたらどうなるのだろうか、と。

その女神は完璧な世界に亀裂が入り、崩れ壊れている様を想像し、その様にあこがれを抱いてしまった。

そうして邪な心が芽生えた女神は邪神に堕ち、世界に貪欲で破壊的な魔人を産み落とした。

魔人は配下に魔物を生み出し、管理されていた理想郷を荒らし始めた。

残された三人の女神は対策に追われ様々な術を講じたが邪神と魔人の進行は抑えられず、やがて世界に亀裂が生まれて大きな穴が開いた。

女神たちは魔物に対抗できる生物として、人類を生み出し、考える力と生み出す力を授けた。

人々は魔物と戦い、魔人に立ち向かい、少しずつ勢力図を変えていった。

そして人類は女神の指導の下、魔人たちを世界の亀裂の大穴に封じ込めた。

その場所は今では魔界と呼ばれて魔物たちが巣食う空間となった。


世界がある程度の秩序を取り戻した頃、女神たちは気が付いた。

数多くいた偉大な神々がその様に呆れ立ち去っていたのだ。

僅かに残った偉大なる神も世界の管理は全て三人の女神に任せ、遥か空の彼方で眠りについてしまった。

三人の女神はそれぞれに人の王を立て、王に人々の統率を任せ、自らは世界の管理に尽力することにした。

そうして数千年以上の時が経った。


「と、いうのがこの世界の歴史です」

村へ向かう道中、エミルさんが世界のなりましを教えてくれた。

「その三人の女神様っていうのには今も会えるんですか?」

「いえ、女神様は遥か彼方。神々が眠る場所で今も世界を見守ってくださっており直接会うことはできません。女神教会の中で第一階位の大司教様はそのお声を聴けるそうですが…」

「それじゃあその大司教様が女神様の指示の下、この世界を管理しているってことですか」

「いえ、それもまた違いまして。大司教様はあくまで女神様から世界をより良くするための御言葉を受けるだけで、この世界は各国の王が領土ごとに統治しています」

さっきの話だと三女神がそれぞれに王を立てたということだったが…

「ま、数千年もありゃ色々あったんよ

先頭を往くバーンズが言う。

「ワシの知る限り、初めは王が世界を3等分して管理しようとしたそうだが、魔物の残党がいたり、人類以外の平和的な生き物もいたり、動物みたいな知能が高くない生き物もいてな」

「ええ、まさに我々エルフは人類が生まれる以前、理想郷とされた世界に生まれた種族ですからね。そういう創世種といわれる遥か昔から存在する種族の関係もあり世界の安定化は容易ではなかったそうですね」

「三人の王はそれぞれ世界を分けた位置に国を興しましたが統治したのは限られた地域でした。それから領土を広げたり、国を興すものが新たに現れたり。元々魔人討伐の際に自治されていた場所などもあったので今では大小様々な国が世界中にあります」

聞いた限りでも世界の構図はかなり複雑に思えた。

僕らが生きていた地球にも多くの生物がいるが国を持つのは人類のみだが、それでも戦争は絶えなかったし小さな争いも多かった。

種族が人類以外にもいる世界はいまだに想像が難しい。


「それに魔物がな……」

「ええ……」

「その魔物っていうのがあのゴブリンやオークのようなものですね?」

「はい、、悪しき心を持つ魔物は多数存在します。そして何より魔人の血を受け継いだ魔族は現界にまだいるんです。あ、現界というのはこの表だった世界。神がおつくりになれた世界ですね」

「一説だと、魔界では魔人の血族が増えていて、現界から魔族を使役して世界の亀裂を広げ出てこようとしているそうだ」

「そうなれば、間違いなく創世戦争の再発ですが、女神さまの御言葉によれば亀裂が広がっている傾向はなく、魔族の動きも微々たるもので魔界から出てくることはこの先千年はないそうです」

それならひとまずは安心か。せっかく異世界にきてそんな種族を超えた争いに巻き込まれるのはごめんだ。

「エミルさん、良ければもう少しこの世界やこれから行く街について教えてもらえませんか?お金とか、食べ物とかについても」

これからどんな場所に行くのかも分からない状態だけど、少しでも知識をもっておけば出来ることはあるはずだ。

「あー確かに金とか食い物に関しては大事だよな。世界がとか歴史がとかはあんまり興味なかったけど、そういうのなら俺も聞くか」

ここまであまり会話に混ざっていなかった須藤くんが加わった。確かに歴史とかには興味なさそうだ、と言ったら彼は怒るだろうか。


こうして僕らは村に向かいながらこの世界についての知見を深めていくのだった。

そして村に着くころにはある程度整理が出来ていた。

今が創世歴3211年、ディエム311年赤の5日ということ。

赤、青、黄、火、水、風という6周季で1年ということ。

それぞれの周季は60日単位で進み、360日で1年ということ。、

そして1日は27時間あるということ。

総じてみると僕らの世界よりも1年が長いことになる。

そして貨幣は銅貨、銀貨、金貨がありそれ以上に物々交換が多いこと。

食材は主に狩人や冒険者の狩猟と、農作業と漁業。

今いる地域は「オルサ王国」の領土で、大陸の隅にある国ということもあり資源は豊富だが争いは少なく商業流通も盛んとのこと。

僕らが行く町はオルサの中では、辺境地域にあるがが3番目に大きい町だそうだ。

なお僕らが転移した森は、ガリア王国との国境にあるのフェーリ大森林と言われる場所の末端だったそうで、これ以上奥に行っていた場合は間違いなく出てこれなかったらしい。

なんでもフェーリ大森林はとても広大で中央には魔族が住んでいると噂されているそうだ。そのためこの大森林を超えることは困難で、列強国の一つであり隣国のガリアがオルサに侵攻できない要因になっている。

あの時、オークたちが逃げてきた方向とは逆に進んでいたら僕らはきっと野垂れ死んでいたのだろう。


「さて、森を抜けたらすぐにジアレア村だぞ」

色々と話し込んでいるとバーンズが言う。少し先の木々から光が差し込んでおり、森が抜けるのが見て取れた。

森を抜けると、数百メートル先に村が見える。牧場のような施設、煙がでる煙突、石垣で囲まれた家々。決して大きくはないのだろうが、こうして日本ではお目にかかれない建築様式をみるとテンション上がった。

「そう言やあ、今って何時なんだ?」

そういえばそうだ。この世界に来る前は多分だけど午前9時過ぎぐらいだった。

「12時ぐらいだな。昼前というところか」

「あー。時間感覚がちげえんだった…いつもなら昼か。パンだけじゃ腹減っちまうわけだ」

「ははは。村に着いたら美味い肉が食えるはずだ。早めに戻ろう」

「そうしましょう、私も流石に昨夜から朝まで動きっぱなしでもう空腹です」

そういえば彼ら3名はオークとゴブリンの集団と戦って取り逃がした残党を追っていたんだっけ。

「村に着いたら他の冒険者の方もいらっしゃるんですか?」

「ああ、ワシら以外に7人おるぞ。後処理はそやつらに任せてワシらは追いかけたというわけだ」

「女神保護の証は絶対に首から掛けておいてくださいね?」

「忘れないようにします」

僕と須藤くんの首には、ユミルさんが奇跡で作成した青い結晶のブローチが掛けられている。

これが女神保護者の証だそうで、保護の奇跡を受けていない人が持つと黄色に変わるのだそうだ。

「では、まずは村長にわたしたちから挨拶を。その後に他の方に説明もして、食事としましょう!」

少しうれしそうに速足になるアルフィン。彼は食べることが好きだという。

「どんな飯が出てくるか、ちょっと楽しみだな」

「そうだね」

僕らも初めての異世界の食事に期待とわずかな不安を持ちながら、速足で進むアルフィンの後に続いた。

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