第3話
――トーレス視点――
「さてさて、マリーナに言われた通りにエリクシアの事を追放することができたな。これでマリーナはこれまで以上に僕の事を好きになってくれたことだろう♪」
最終的にマリーナが僕への愛情を深めてくれたなら、他のことはなんだっていい。
僕にとって最も大事な存在であるのは他でもない、マリーナ自身なのだから。
「とりあえずこれで僕の印象はかなり良いものにできた事には間違いない。次はマリーナに一緒にどこかに出かける誘いでも持ち掛けてみることにするか…♪」
胸の中ではこれからの二人の関係についての妄想がどんどんと膨らんでいき、その勢いはとどまることを知らない。
その熱い思いのままにマリーナとの時間を謳歌しようと考えていた矢先の事、ある事件が起こってしまう…。
――数日後――
「大変です伯爵様!!こちらをご覧になってください!!」
「なんだルクア、うっとうしいな」
僕の使用人をしているルクアが、非常に険しい表情を浮かべながら僕の部屋に駆け込んでくる。
僕はちょうど一仕事を終えたタイミングであり、まったり読書を行っていた時間だっただけにややイライラを隠せない。
「いいかルクア、こういう時は空気を読めといつも言っているだろう?今回はたまたま僕が一人だったからいいが、これがマリーナと一緒に過ごしている時間であったなら大変だぞ?そんな貴重な時間に泥を塗るようなことをしたらお前はもう二度と…」
「こ、今回のお話はマリーナ様に関するものではないのです!!エリクシア様に関するものなのです!!」
「はぁ??」
ルクアの口から出たその名前を聞き、僕は一段と深くため息をつく。
…もう婚約破棄の上に追放した女だというのに、いったいどこの世界にエリクシアの話を聞きたい男がいるというのか。
「そんなものもうどうでもいい。ルクア、これからはもっと実りのある話を…」
「エリクシア様が、聖女の生まれ変わりであるという噂が貴族たちの間で広まっているのです!!!」
「…はぁ??」
…予想だにしていなかったその言葉を聞き、僕は素っ頓狂な返事をしてしまう。
こいつは今何と言った?エリクシアが聖女の生まれ変わりであると言ったのか…?
「な、何を言っている…?どういうことだ?」
「詳しいことはまだ私にもわかりません。しかし、最近他の貴族家の間でそう噂が広まっていっているのです」
「な、なぜだ?どこからそんな話がでてきた?」
「こ、これは噂ですが…。なんでも、聖女様の事を祭る教会の教皇がそう宣告を発したというのです。現在伯爵家に婚約者として迎え入れられているエリクシア様こそ、我々教会が長らく探し求めていた逸材であると」
「そ、それで…?」
全く想像もしていなかった方向に進んでいるらしいその話。
気づけば僕はルクアのもたらしてくる話を聞くことに必死になっていた。
「その話を聞いたのは一人の貴族だったらしいのですが、そのうわさは瞬く間に広まっていって…。「伯爵様はたった一人、エリクシア様の聖女としての可能性に気づいていた。それほど素晴らしい目を彼は持っている。なんという人だろうか」というう話が広まり、知らず知らずのうちに伯爵様はその評判を大きなものにしていっていたというのです」
「ほ、ほぅ…」
「しかし、伯爵様がつい先日お決めになられた婚約破棄…。その話を知った貴族家の者たちは、それまでの考えを一斉に
「な、なんだと!?!?」
…僕自身全く関与していないところでそんな話が広まっていたなど、信じられない。
しかし、このルクアは僕にうそをつくような男ではない。
…それに、ルクアの言うことに証拠が伴っているであろうことに僕は少しだけ心当たりがあった。
「(…確か、エリクシアと聖女とを結びつける話は前に少しだけ聞いたことがあった。しかしあの時は、そんなことあるはずがないと言ってマリーナがすべての情報をカットしていた…。まさか、その時に僕への情報供給が絶たれてしまったというのか…?)」
決して考えたくなどない可能性であるが、ここまで話が進んでしまっているのならかつてのその決断は間違いだったということになる。
最初からエリクシアの事をきちんと相手していれば、そんな噂話が出回っているということにすぐに気づくことができたかもしれない。
…しかし、現実に僕はそうなることを防げなかったのだ…。
「(ルクアの言っていることはおそらく事実なのだろう…。であるなら、追放されたエリクシアの事をめぐって他の貴族たちが動き始めるに違いない…!中には、僕の事を倒すべくエリクシアに近づく者もいることだろう…。こ、これはまずいことになった…!いちはやくエリクシアを僕のもとまで連れ戻し、婚約破棄を撤回しなければ…!)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます