第2話
「エリクシア、マリーナからすべて聞いたよ…。まずは、彼女に何か言わなければならないことがあるんじゃないのか?」
私はマリーナとトーレス様と同じ部屋の中にいながら、完全に2人から詰められる状況になっている。
マリーナは自分の作戦通り、自分からやってきた嫌がらせを棚に上げてすべて私のせいにしてトーレス様に泣きつき、この状況を作り出していた。
当のトーレス様もそんなマリーナの言葉をすべて受け入れていて、完全に私一人だけが悪者であるかのような雰囲気で話を進めていく…。
「エリクシア、僕は前にも言ったはずだよな?マリーナはもう君の妹となり家族なのだから、仲良くしてくれと。しかし君は今だにマリーナの事を受け入れていないじゃないか。どうして一方的に彼女の事をいじめるのだ?」
「そ、それは……」
私はマリーナから受けている被害のすべてをトーレス様に訴えようと試みる。
…しかし、その思いはすぐに消えていった。
これまでにも何度も同じことをやってきたものの、そのどれも私の思いを叶えてくれるどころかむしろ状況を悪化させるものばかりで、言わないほうが良かったという結果の連続だったからだ。
「……」
「…何も言えないという事は、やはり君の方に非があるという事でいいんだな。やれやれ、どこまで性格がねじ曲がっているのか…」
ここで何かを言ったところで、あなたは私の事を信じてはくれなかったじゃない。
マリーナが僕に嘘を言うはずがないだとか言って、彼女にばかり信頼を置いているじゃない。
だから私は何も言えなくなっているのに、今度はそれも私のせいにしてくるの???
「さぁ、なにかマリーナに言うべきことがあるんじゃないのか?」
「お姉様、正直に心から言っていただいたら私も寛大な心で受け止めますよ?」
自分が思った通りトーレスが味方をしてくれていることがうれしいのか、非常に余裕そうな表情を浮かべながらそう言葉を発するマリーナ。
トーレスの背中に隠れてうきうきとした様子を見せるその姿は、とても本当のことを言っている人間のそれではなかった。
「…別にいう事は何もないです…」
「…」
「…」
この時、以前までの私だったらきっと謝罪の言葉を口にしていたと思う。
そしてその結果さらに一段と強い言葉を二人からかけられることになり、言わなければよかったという後悔の連続だった。
…分かっている、ここで謝らないという事がどんな結果をもたらすことになるのかを。
でも、私はもう二人の前で演技を続けるのには飽き飽きしてしまっていた。
「そうですかお姉様、あくまで自分は悪くないというお考えなのですね?…お兄様、これはもうお姉様は何を言っても聞かないのではないですか?」
「そうだな…。まさかここまで性格がねじ曲がっていたとは思わなかった…。舞踏会の場で見た時に可愛らしいと思って声をかけたのが運の尽きだったか…」
「お兄様、これからは婚約者を選定するときは私にも相談してくださいよ?私は同じ女として相手の性格をばっちり見抜いてお見せいたしますから」
「今回も最初からマリーナに相談していれば、エリクシアとの婚約を結ばずに済んだかもしれないなぁ…。やれやれ、僕としたことがなんという早とちりを…」
私の事なんてどうでもいいという雰囲気で、勝手に話を進めていく二人。
そしてその話の最後には、私が想像していた通りの言葉を投げかけられることになった。
「エリクシア、もう君にはほとほと愛想がつきたよ。ここまで僕の思いを裏切ってくるとは予想外だった。もう君に婚約者としての資格はない。伯爵夫人になりそびれたことを一生後悔し続けながら生きていくといい」
「まぁ、婚約破棄ですってお姉様!!よかったですね!!お姉様はなにかとすぐに私の事を攻撃されていましたから、もうそんな事しなくてもいいのですよ?うれしいでしょう??」
わざと相手の神経を逆なでするかのような雰囲気で、嫌味たらしくそう言葉を発するマリーナ。
彼女の中でははじめからこうなることを計画していて、その通りに事が運んだのがなによりもうれしい様子。
「お兄様、今度はちゃんとしたお相手との婚約をしましょうね?失敗から学ぶのも伯爵様のお仕事として非常に重要ですよ?」
「マリーナ、すべて君の言うとおりだとも。もう君に傷をつけることなどしないという事を、ここに約束しようじゃないか」
なにか話をしているらしい二人だけれど、私はもうどうでもいい事だった。
もともと私はここに必要となんてされていなかったのでしょうし、いらない存在だったのでしょうね。
あなたたちの言う都合のいい婚約者ではなくって、可愛げのない生意気な婚約者だったのでしょうね。
それでいてあなたたちのような感情を持っているわけじゃないから、全く信頼もされなかったのでしょうね。
なら、もういいです。
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