第3話 犯人の手がかりは?

「マリアは優秀な子だったからね。残念だよ。見つけてくれたウェルノ嬢には、感謝しないと」

 王弟殿下は、曇りのない碧眼を細めて考えている。


「しかし、マリアを殺しておいて、感謝など!! 」

 庭師頭が低い声でブルーベルを責めた。


 やっぱり、こうなった……。いままで見つけたのは、動物の死骸や失せ物だったから罪に問われることはなかったのに……。人の死体を見つけてしまうなんて……。

 朝食後の散歩など、しなければよかった……。


「皆は、いつマリアが殺されたと思っているんだい?」

 マリアの腕を触ってから、「やっぱり」と呟く。

「それは、さっき、ここで首を絞められたんですよ」


「それは違うね。マリアは少なくとも夜中には殺されていたはずだよ」

 それぞれの顔をじっくりと見ながら、力強く言い切った。


「しかし、麻紐が……」

「俺じゃないからな!!」

 ニコラスの声を遮るように、大声を出す庭師頭。


 王弟殿下は、「まぁまぁ」と落ち着かせると、優しい口調で話し始める。

「料理人ならわかるんじゃないか? 豚や牛でも絞めてから時間がたつと、身体が硬直するだろ? 人も同じだよ。ここまで死後硬直が進んでいると、殺されたのは昨日の夜だろうね」


 王弟殿下は言葉を切って見回すと、「ウェルノ嬢だけではなく、誰もが容疑者ということだよ」と目を光らせた。


「これでは、謎を解く鍵が足りないね。マリアを発見したときのことを教えてくれるかい?」


 王弟殿下は優しく話しかけてくれるが、ブルーベルは悩んでいた。発見したときのことを正直に言ってもいいのだろうか……。気味悪がられてしまうだけではないか……。


「大丈夫。感じたことを話せばいいんだ」


 穏やかな微笑みだった。王弟殿下にまっすぐ見つめられて、信じてみようと思う。


「あの……。あの辺で、変だなって思ったんです」

 最初に違和感を感じた庭木を指差した。


「随分遠いところから」

 誰の声だろうか。非難する声が、ブルーベルに突き刺さる。


「誰だい? ウェルノ嬢に聞いているのは俺だよ」


 王弟殿下は庭木の裏を覗き込み、「あぁ」と呟く。このときには、使用人だけではなく、アイザックやケネスも集まってきていた。


「その後は?」

 柔らかい口調ながらも、有無を言わさぬ迫力があった。

「変なところがあちらへ続いていたので、何だろうと思って近づきました」


 「どこが変なんだ?」と聞こえたが、先ほどのように責めるような口調ではなかった。


「ここまで来ると、枝に引っ掛かっている布が見えたので、何かと思って、近づいて覗き込んだら……」

 青白く変色した足。庭師頭が藪から引っ張りあげたときの空虚な瞳と、ブルーベルを指差しているかのような腕を思い出して震えた。


「こんな遠くから、布だとわかるのですか? ウェルノ嬢が犯人だから知っていたのでは?」

 アイザックが進言するが、王弟殿下はニヤリと口角を上げる。自信たっぷりに見えるのだが、もう犯人がわかったのだろうか?


「あぁ。ウェルノ嬢は、だいぶ目がいいようだね。変だと感じたと言っただろ? 砂利が少し乱れていたり、枝が折れていたり。よくよく観察しないとわからない程度の違和感を、感じ取っていたんだろうね」


 王弟殿下は、ブルーベルが最初に違和感を感じたところまで戻ってくると、執事のニコラスに聞く。

「この部屋って、あそこだろ?」

「はい。貯蔵庫です」

「じゃあ、行ってみようか」


 王弟殿下が覗き込んでいた庭木の後ろを見てみると、四角いへこみが無造作についているように見えた。

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