第15話 mission3 ババ活女子、ヒメリと接触せよ②

「ゆっきーさぁ、ババ活とか言ってマジ隙あらばお小遣い渡して来ようとするんだよね。ウチ的には普通に楽しいし、遊び代もワリカンしたいくらいなんだけど、ほんっとそこは譲ってくんなくて」


 俺の心の葛藤とは裏腹に、ギャル(改めヒメリ)は、ケロリとした顔で俺の向かいの席に座っている。


 店の行列に並んでいる時からしてアウェイ感が凄く、店内でも完全に俺1人浮いている気がするのだが、ヒメリには全く気にならないらしい。


 流石ギャルはハートが強い。


「ねねっ、マゴは何にするか決めた? メニューいっぱいあるからマジ悩んだけどー、やっぱウチはパーフェクトパフェ一択だわ!」

「あ……じゃあ俺も……それで……」


 正直メニューを見ても、いっぱいいっぱい過ぎて頭に何も入って来ない。


 パステルカラーを基調にフルーツモチーフの家具や小物で飾られた店内は、いかにもオシャレ女子達に人気がありそうで、あちらこちらでSNS用の写真撮影会が行われている。


 俺のお呼びじゃない感が凄い。


「でさ、ゆっきーいつ帰ってくんの? 夏休みになったら超遊ぼうと思ってたのに、マジ肩すかしなんだけど!」

「それは……俺にもわからないです……」

「マジで? つか、何でさっきからマゴ敬語なの? ウチらタメっしょ?」

「……そうなんですか?」

「マゴも高1っしょ? ウチもそう。ゆっきーが『1番下の孫と同じ歳だ』って言ってたし」


 ばーちゃん、俺の話とかしてたのか。

 そういえば、何故か俺の顔も知ってたみたいだし。


 え、改めて考えたら怖いな。

 何言われてるか分かったもんじゃないぞ?


「ま、そういうわけだからさ! ウチの事はヒメリでいいよ。敬語もいらないし」


 距離の詰め方が早い!!

 さすがギャルめっちゃコミュ強だ。


 出て来たパフェに「アガるー!」とか言いながら写真パシャパシャしているヒメリを横目に、クリームをひとくち口に運んでみた。


 ……あ、美味しい。


 緊張していた心と身体にパフェの甘さが染み渡る。



 結局あれよあれよという間に気が付けば連絡先まで交換していて、本当に終始ヒメリのペースだった。


「じゃ、次の約束なんだけどさ!」

「ほぅぇ!?」


 次!? 次があるの? 俺とヒメリに??


「次はゆっきーの家に遊び行かせて貰うって約束してたし! 手紙にも『透吾がおるから予定通り来んさい』って書いてたよ?」


 ばーちゃーーーん!!!??


 何女子高生を家にまで連れ来もうとしてるのさ!? え、親御さんは知ってるの? 

 大丈夫これ??


「い、いやいやいやいや、家はまずくないかな!? 駄目だよ、よく知らない人の家に上がるなんて! 危ないよ!!」

「あはは、マゴおっさんみたいな事言うし!だーいじょうぶだって! ウチちゃんと人を見る目はあるからさ」


 何を根拠にそんな事を言っているのか。

 ヒメリが危なっかしく見えて仕方ない。


「あ、流石に泊まんないよ?」


 泊ま…泊ま……!!?


 そんな選択肢、最初から想像だにしていなかった俺は「泊まる」と聞いただけで脳内が軽くパニックに陥った。


 だってね、俺も一応お年頃なんだよ。

 引きこもってはいても、体は健康な男子高校生なんだよ。

 そんな事言われちゃったら動揺するでしょう!?


 俺は自分の脳内を誤魔化すかのように、自然と早口になっていく。


「そ、そ、そんなの当たり前だよ! 年頃の男女が一つ屋根の下に泊まるとかそんなのは社会通念的によろしくないというか、よしんば泊まることになるとしてもその場合はもっと時間をかけた上でお互いが信用できるかを確認したのちに親御さんの許可をえてからすべきことで、その手順を飛ばすなどどいうことはとどのつまり……不埒ふらち!!!!」


「落ち着けし」


 ヤバいオタクの様な取り乱し方を、シラッと突っ込まれた。

 

 ……恥ずか死ぬ。


 その場に穴を掘ってでも入りたい心境でプルプルしている俺を見て、ヒメリがふはっと吹き出した。


「空いてる日送るし、いつなら行っていいか連絡して。スルー厳禁だから。じゃねー!」


 そう言って手を振るヒメリは何だかご機嫌で、鼻歌まじりに雑踏の中に消えて行った。


 一方の俺はといえば、ヒメリの背中が見えなくなったのを確認した途端、ガクッと全身から力が抜けた。


 き、き、き、緊張したーー!!


 ばーちゃん、引きこもりの隠キャになんて無茶振りをかますんだよ!?


 気を抜くと、こんな街中だというのに道にへたり込んでしまいそうだ。



 ………。


 でも。



「ヒメリ……俺のこと、全然バカにしなかったな……」


 今まで関わった事のないタイプとの邂逅は緊張の連続だったけど、カラッと明るいヒメリとの時間は、意外にも少し、楽しかった。

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