第14話 mission3 ババ活女子、ヒメリと接触せよ①
……ギャルだ。
翌日。
何とか最低限外に出ても恥ずかしくないだけの装備「父親の服」を手に入れた俺は、それを身に付けばーちゃんの代わりに女子高生と出かけるようにと言われていた待ち合わせの場所に向かった。
しかし、現実とはこうも厳しい物なのか。
そこで見たのは、ピンクベージュに染めた明るい髪に耳には無数のピアス。長袖なのに肩と背中はガバッと開いた暑いのか寒いのか分からないファッションに身を包んだ美少女だった。
ショートパンツが眩しい。
なんで!? どうして!!?
マジでばーちゃんの交友関係どうなってんの!?
ばーちゃんはふざけて「ババ活」とか変な事を言っていたけれど、わざわざ血縁でも無い高齢者とお出かけしてくれる女子高生だ。
なんというかこう、ボランティアサークルにでも所属してるような、真面目で優しい感じの子を勝手に想像していた。
しかしながら現実の待ち合わせ場所にいるのは、明らかに派手目のギャルだ。
駄目だ。
俺にはあまりに荷が重い。
あの子と楽しくお喋りするビジョンが1ミリも見えない。
せめて普通に声をかけてばーちゃんが来られなくなった事を伝えて謝らなければと思うのだが、最近ネット以外では同年代とまともに話もしていない俺にとっては、それすらとんでもなくハードルが高いのだ。
正直、このまま帰ってしまいたい。
…が、もちろんそういう訳にもいかない。
今はまだ約束の時間の5分前。
この暑い中、この子はばーちゃんを待たせないようにちゃんと早めに来てくれたのだ。
ーー2年前。
こんな猛暑の中で散々待たされた挙句、連絡も無く約束をすっぽかされたあの日の事を思い出す。
『えー、ほんとにまだいるよ!?』
『マジで? きもーい、ストーカーじゃん』
あの最悪な日の事を思い出しそうになった俺は、ブルブルと頭を振った。
駄目だ。このままじゃまた逃げてしまう。
……ええい!! ままよ!!!
俺は嫌な記憶を振り払う様に勢いよく足を踏み出した。
◇ ◇ ◇
「あ、あああああの!!」
「は?」
渾身の勇気を振り絞って声を掛けた俺だが、顔を上げたギャルの視線は射殺す程に冷たかった。
「あのっ、俺、その!」
「……他当たって。人待ってんの」
訝しげに俺を見つめた後、舌打ちでもしそうな勢いで不機嫌そうな声を出すギャル。
ああ……心が折れそう。HPがギャンギャン削られてる。父の装備弱い。
「ちが、俺、ばーちゃんの……」
「……ばーちゃん?」
「ばーちゃん」という言葉に反応して少し話を聞いてくれる気になったのか、ギャルは俺の顔をマジマジと見た。
「あれ? 嘘、アンタゆっきーの孫じゃん!マジか!!」
ゆっきー……。
何故か俺の顔を知っていたギャルはパッと表情を変えると、途端に友好的に話しかけて来た。
さっきまでの態度とは正反対だ。
「あは、ゴメンネー! うちナンパとかほんと無理でさ。まさかゆっきーのマゴが来るとか思ってなくて……って、そうだよ! 何でマゴが来んの!? まさかゆっきーに何かあった!!?」
今度は顔色を蒼くして、グイグイ間近に迫って来る。
近い近い近い!!
「すみませんすみません、ばーちゃんは急な用事で来れなくなっちゃって! 代わりに俺が手紙を届きに来やした!」
焦りの余り何故か江戸っ子になった俺は、鞄からガサガサとばーちゃんの手紙を引っ張り出すとギャルの目の前に勢いよく差し出した。
「ゆっきーから、手紙?」
ギャルは手紙を受け取ると、その場で封を開けて読み始めた。
「ヤバっ、ゆっきー超達筆だし!」
ふんふん、と小声で頷きながら手紙を読む姿を数歩離れた所から眺める。
……えっと、俺ここで待ってた方がいい感じ? もう帰った方がいい感じ?
俺が挙動不審になっている間に、手紙を読み終えたギャルが顔を上げる。
「おっけ! なーんか聞きたい事は色々あるんだけどさ。こんなとこで立ち話も何だし、とりあえず行こっか?」
「ふへっ!?」
当然これで解散だと思っていた俺は、一緒にどこかに移動しようとするギャルに驚き、変な声が漏れてしまった。
最悪だ……。
さっきからもう、俺カッコ悪過ぎる。
「今日はゆっきーと『パフェパル』にパーフェクトパフェ食べに行く約束してたし。急がないと、あそこ超並ぶんだよねー」
……それは、もしかしなくても最近SNSで話題の超人気オシャレスポットなのではなかろうか……??
ちょっと! 隠キャをなんて所に連れて行こうとしてるんだよ、ギャル怖い!!
ってか、キミは嫌じゃないのかい!??
俺、父親に借りた色味皆無なポロシャツにデニムっぽいズボンという、オシャレスポットにあるまじき格好で来ちゃったんだよ!?
並んで歩いて恥ずかしくないのかい!??
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