第12話 mission2 託された手紙を所定の場所へ届けよ!②
町内会長さんの家に行った後は、ばーちゃんの老人会の友達らしき人達の家に手紙を届けに行った。
数件回ったのだが、高齢者の日中の在宅率は異常に高く、みんな家にいる。
留守にしてたら郵便受けに手紙を入れて用事を終わらせよう……なんて考えていたのが申し訳ない程に、何故だかみんな俺を歓迎してくれた。
お菓子を持たせてくれたり、縁側で冷たいお茶を飲ませてくれたり。
最後の家に行く頃には、何の躊躇いもなくインターホンを押せる様になっていた自分に驚いた。
「わざわざありがとうねぇ。孫が来てくれたみたいで嬉しかったわ」
最後に立ち寄った澤田さんというお宅は、ばーちゃんより少し若そうなご婦人が、立派な家に1人で暮らしていた。
他の家はご夫婦で暮らしていたので、ばーちゃんと澤田さんは一人暮らし同士特に仲が良かったらしい。
手紙には、ばーちゃんが遠方に行くからしばらく一緒にお茶が出来ないと書いてあったらしく、とても寂しそうにしていたのが印象に残った。
「うふふ、ゆきちゃんたら自分の代わりに透吾がお茶の相手になるからーなんて書いてあるのよ? こんなおばあちゃんの相手させられたら、透吾君だって困っちゃうわよねぇ」
ばーちゃーーーん!!?
そういえばリストの中に「ばあちゃんの茶飲み友達とお茶をする(出来れば週一回)」ってのがあったけどこれかーーー!?
引きこもりの男子高校生に、後期高齢者と何の話題で盛り上がれと言うのだろうか。
無茶ぶりにも程がある。
そう思いはしたのだが、何となく後ろ髪が引かれる思いが消えなくて、結局帰る時には
「良かったらまた来ます」
と言ってしまった。
変な社交辞令にはしたくないので、本当にまた来ようと思う。
俺は……約束を守らないのは嫌いだ。
ばーちゃんの部屋にあった漫談のカセットテープでも聴いておけば、少しは話が盛り上がるかなぁ?
……さて。
実は俺には、もう一通届けなくてはいけない手紙がある。
父さん宛の手紙だ。
家に帰ったら父さんに手紙を渡して、ばーちゃんの代わりを頼まれたからしばらくばーちゃん家で暮らす事を伝えないといけない。
着替えと、出来ればパソコンもこっちに持って来た方がいいよな。
……母さんは絶対反対するだろうなぁ。
さっきまで軽かった足取りが、行きよりも重くなる。
やっぱり姉ちゃんに手紙を渡して貰おうかなぁ。パソコンだって、着替えだって、別に姉ちゃんに持って来て貰えばいい訳だし……。
と、そこまで考えてフルフルと頭を振る。
俺はすぐに逃げる方に行こうとする。
ただでさえ忙しい姉ちゃんを、自分の都合で使う訳にはいかないし、それに何よりーー
「うん、ちゃんと自分で言おう。俺がそうしたいんだって」
◇ ◇ ◇
「あっれー? おかしいなぁ……」
自分で手紙を渡しに実家に行く! と決めたはずの俺は、何故かばーちゃんの家で米を炊いて食べていた。
そう、土鍋ご飯だ。
今日は金曜で平日なので、今から実家に帰っても父さんは普通に仕事だ。
それならば空いた時間に土鍋で米を炊いてみようと、ネットのお料理系動画を調べてやってみたのだが……。
「……固い。なんか芯が残ってるし、パサパサする」
水の分量もしっかり測ったし、火加減も時間も動画通りにしたのに、なにが悪かったんだろう?
食べられない事はないけれど、ばーちゃんに食べさせて貰っていた炊き立てご飯の味とは雲泥の差だ。
いつも当たり前の様に食べていた食事の有り難みに初めて気が付いた。
「……家に帰ってたらボス戦には行けないだろうし、今のうちにデイリークエストだけやっちゃっとくか」
もそもそしたご飯を何とか食べ終えてゲームにログインすると、ソナさんがオンラインになっている事に気が付く。
「おっとそうだ。昨日のぬか漬けのお礼言っとこう」
あまり個人的な事ばかりみんなの前で話すのも憚られるので、ソナさんに個別チャットで話しかけた。
「ソナさん、昨日は色々教えて貰ってありがとうございました! プチトマトとチーズのぬか漬けめちゃ美味しかったっす!」
「トーゴ君、こんにちは! お役に立てて良かったよ。その後お留守番は順調かな?」
ソナさんからもすぐ返信が返って来た。みんなでワイワイする事はあっても、こんな風に2人で話をする事はなかったので何だかちょっと嬉しい。
「色々頑張ってはいるんですけど、今日は土鍋でご飯炊いて失敗しました。なんかパサパサになっちゃって」
「凄い、土鍋でご飯炊くの? 私もそれはした事無いから何もアドバイスは出来ないけど、パサパサのご飯はもう食べちゃった?」
「食べられない事はなかったんで、根性で食いました」
「そっかー、そういう時はピラフやお雑炊にすると美味しく食べられるよ!」
「なるほど! 次失敗したらそうします!」
「ふふ、失敗しない方がいいんだけどね。頑張って!」
そんな風に話しながら、ソナさんと一緒にクエストをこなす。ちょっとしたご褒美タイムを貰った気分だ。
まぁ、結局すぐにいつものメンバーが雪崩れ込んで来てワイワイやってた訳だけど。
不思議とずっとダラダラ遊び続けていた時よりもゲームは楽しく感じたし、それと同時に、ここも俺の居場所の一つになっていたんだなと再確認できた気がした。
「頑張れよー」
みんなが掛けてくれるそんな何気ない言葉がそっと背中を押してくれて。
俺はしっかりとした足取りで実家へ向かう自転車のペダルを踏む事が出来た。
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