第10話 mission1 地域猫トラの世話をせよ
ピピッ……ピピッ……ピピッ……
次の日の朝6時、セットしたスマホのアラーム音で俺は目を覚ました。
ぐおぉぉ……眠い。
こんなに頑張って早起きするのなんて、一体いつぶりだ?
「おはよー透吾! 起きた?」
姉ちゃんが、襖をスパーーンッと開けて声をかけて来る。
「うぁ、うん……グゥ……」
「こらこら! 二度寝しない! もうトラ来るよ!」
「あーそう、だった。ネコ……」
「餌のやり方覚えるんでしょ? ほらほら、早く起きて!」
姉ちゃんはそう言うと元気にパタパタと台所の方に向かって走って行った。
一方の俺は、日頃の不摂生がたたり、体も頭も重くて仕方がない。
あぁ、駄目だ、また意識が……
「にゃあーん」
俺の意識がブラックアウトする寸前、外から猫の鳴き声が聞こえてきた。
「あ、ほらトラ来ちゃった! 透吾、急いで急いで」
手に猫の餌を入れた器を持った姉ちゃんがパタパタと戻って来る。
俺が重い体を引き摺って何とかガラス戸を開けると、キジトラ模様のネコが庭の真ん中辺りにちょこんと座っていた。
外で生活しているはずなのに綺麗な毛並みはもふもふで、目はまん丸でクリクリしている。
おお、ネコ……! ネコかわいい!!
「おはよー、トラ。今日もばーちゃんいないけどごめんね」
姉ちゃんがそう話しかけるとトラは不思議そうに首をかしげた。
クリクリのお
「ご飯はいつもと同じのだよ。はいどうぞ」
縁側の下に姉ちゃんが餌の器を置いたのだが、トラは用心しているのか中々食べにこない。心なしか俺をジーーっと見つめている気がする。
うう、警戒されてる……
◇ ◇ ◇
昨日、ばーちゃんから託されたリストの中に「トラのご飯とトイレの掃除」という物があった。
そういえば、音無さんも『トラがミャーミャー鳴いてた』と言っていた事を思い出し、トラって何だ? 野良猫?? と思って姉ちゃんに尋ねると、なんと姉ちゃんは普通にトラの事を知っていたのだ。
昨日の朝もちゃんと姉ちゃんがご飯をあげてくれていたらしい。
『トラはね、野良猫じゃなくて地域猫だよ』
地域猫、という言葉を初めて聞いた俺は野良猫との違いが分からず首を傾げたのだが、そんな俺を見て姉ちゃんが色々教えてくれた。
曰く、地域猫というのは「特定の飼い主はいないものの、行政と連携を取りながらその地域に住む人達の同意のもと飼育されている猫」なのだそうだ。
地域によって細かい違いはあるらしいが、不妊去勢手術などもしているらしく「これ以上野良猫を増やさず、今いる猫には出来るだけ幸せにその生を全うしてもらう」という方針の活動らしい。
不妊去勢手術済みの猫は、目印として耳を少しカットする事から「さくら猫」とも呼ばれるそうだ。
◇ ◇ ◇
昨日の話を思い出しながらトラを見てみると、トラの耳の先も少しカットされていた。
なるほど、確かに桜の花びらっぽい。
「なぁーん、なぁうー」
「名を名乗れって言ってるよ」
「マジで!?」
寝ぼけた頭のせいで、一瞬姉ちゃんのおふざけを本気にしてしまった。
姉ちゃんは俺のリアクションが面白かったのかケタケタと笑っている。
……ちくしょう。でもまぁ、いいか。
「トラ、はじめまして。ばーちゃんの孫の透吾だよ。何にも悪さはしないから、お食べ」
「なぁーん?」
トラは俺の声を聞くと、鼻をふんふん鳴らしながら近づいて来た。
何となく納得したのか、餌を食べ始める。
うん、満点可愛い。
餌やりの時間が朝6時と聞いた時には「ガッデム!!」と思ったが、この可愛さの為なら頑張れる気がしてきた。
俺がほわほわした気持ちになりながらトラを見つめていると、餌を食べ終わったトラは庭の端っこにある決められたトイレでキチンと用を足した。
やだこの子、賢い!!
家での用事は全て済んだのか、トラはこっちを見ると尻尾をパタンパタンと2回程振って、トトトッと庭から出て行った。
「もう行っちゃうのかー。あっさりしてるんだね」
「ばーちゃんだと、時々膝でお昼寝とかしていくらしいけどね」
「何それ羨ましい!!」
俺は、トラが心を開いてくれるその日までしっかりお世話をしようと心に決めた。
……トラ、いつか俺の膝にも乗ってくれ!
さて、トラの餌やりが終わったところで、ばーちゃんの朝は忙しい。
まずじーちゃんのお仏壇に挨拶をして、畑の水やりと収穫。そのついでに家の前の道路を掃き掃除して、打ち水をしておく。
今は夏休みだから必要ないが、この家の前の掃き掃除は小学生の通学の見守りボランティアも兼ねているらしい。
ばーちゃん、地域社会にめっちゃ貢献してない!?
そしてようやく自分の朝ご飯なわけだが、ここでぬか床を混ぜて、新しい野菜も漬けておく。
さらには家の掃除、洗濯とやる事は山の様にあるんだから、本当に頭が下がる思いだ。
…………。
今日はこの後用事もあるし、掃除と洗濯は明日まとめてという事で……。
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