第9話 ばーちゃんのやることリスト
『とにかく、約束すっぽかす訳にいかんけんね。細かい事はばあちゃんの机の手帳に書いちょるから。お金もちゃーんと持って行くんよ。机の引き出しの封筒の中に年金入っとるからね』
宮廷魔術師さん達のことを思い、異世界へ飛んでいた意識がばーちゃんの言葉で現実に引き戻される。
「いやいや、お金とかいらないよね? 手紙を渡すだけだよね!?」
『アンタ! わざわざ来てくれたヒメリちゃんに何のご馳走もせんと帰す気かいね!? しっかり楽しませて来んね!!』
「だから無理だって! ハードル上げないでくれよー……」
『魔術師、後2人です!!』
「斬新なカウントダウンね……。すみません! 明日もまた連絡出来るんですか!?」
『申し訳無いのですが、宮廷魔術師の数が足りないのです。回復にも少し時間がかかりますので、次は最短で3日後くらいになるかと思います』
……宮廷魔術師さん達、ゆっくり休ませてあげて下さい。
俺が心の中で涙を流している間も、姉ちゃんはしっかりと会話を進める。
「こっちから連絡する方法って何かないですか? ばーちゃんに聞かないと分かんない事とかもあるだろうし、心配だし……」
『そうですね。何か方法を考えたい所なのですが、そちらからこちらの世界に干渉出来るだけの魔力を持った存在が無いと難しいかと思いますわ。あ、宮廷魔術師あと1人です』
「そういう物なんだ……。じゃあ、こっち側からはそっちに物を送ったりも出来ないんですか?」
『いえ、それは可能です。異世界に干渉をするには特別な術式と魔力が必要なのですが、道さえ開ければ今の様にお互いの交信が可能なのです。そちらから物を送る、というより、こちらから引き寄せる、とイメージして頂けると分かりやすいかと思いますわ』
「はぁー、なるほどねぇ。つまり受信だけなら誰でも出来るけど、あくまでそっち側から働きかけて貰わないと駄目って事か」
『いえ、その受信も誰にでも出来る、という物では無いと思われますわ』
「と、言いますと?」
『恐らくですが、こうして私がお2人とお話しさせて頂けているのは、聖女様のお力が関係しているのだと思います。聖女様が顕現して下さる前、こちらからそちらの世界に交信を試みても中々応えて下さる方には出会えなかったのです』
『ばあちゃんも、応えたつもりはないっちゃけどねぇ……。お念仏と相性が良かったんじゃろか?』
いや、それだと異世界に坊主バンバン召喚される事にならないか?
「うーん、よく分からないけど、とにかく異世界からならこっちの世界に簡単に干渉出来るって訳でもないのね」
『勿論でございます。なにせ異界から聖女様にお越し頂くのも100年ぶりの事ですし、こちらとしても本当に最終手段だったのです。先代の聖女様が亡くなられてから、待てども待てども次代の聖女様が現れず……ついには偽者まで現れる始末』
「そこまで必死に聖女を求めるなんて、聖女って一体何をするの?」
『ばあちゃん、なんも大した事はしてなかとけどね』
『とんでもございません! 聖女様には御自覚が無いようですが、聖女様がこちらに来られてからというもの、アルヘラードを包んでいた瘴気が薄れつつあるのです』
瘴気……! なんかファンタジーっぽい!
『聖女様の存在そのものが我が国に救いをもたらして下さっているのだと、皆心から聖女様に感謝しているのです』
「居るだけでいいって事か。とんだチート能力ね。ところで最後の1人になってから結構長く話せてるんですけど、その魔術師さん大丈夫ですか?」
『最後の1人は我がアルへラード国が誇る宮廷魔術師団の団長なのです。彼の魔力は桁違いですわ!』
『せっちゃん、せっちゃん、団長さんの顔色がぬか床みたいになっとるよ』
『まぁ! 彼の場合、精神力と忠誠心が凄すぎて、死ぬまで魔力を注いでしまうかもしれませんわね。……申し訳ございません、皆さま。そろそろ限界の様ですわ』
「えっ! あ、じゃあ次は3日後!?」
『宮廷魔術師達の回復具合にもよりますが努力いたします。何かそちらからご連絡頂ける方法がないかという点についても、最重要議題として議会にかけさせて頂きますわ!』
『ならね透吾! 任せたけんね!』
最後の方は向こうが一方的に話す感じで、またプツンと通信が切れてしまった。
スマホを確認してみたが、やはり着信履歴も残っていない。そして何より、今回はメモ帳と手紙が手元に残っているのだ。
「はぁー、やっぱりばーちゃん異世界行っちゃったんだねぇ……」
姉ちゃんが、手紙の束を手に感心した様にポツリと呟く。
ばーちゃんが異世界に行ってしまった事も受け入れ難いが、今俺の手の中にあるリストについても中々に受け入れ難い。
……これ全部こなすのは、俺には無理じゃないか……?
明らかにいくつか無理ゲーレベルの物が含まれている気がする。
俺が発する不穏なオーラに気が付いたのか、横からリストを覗き込んだ姉ちゃんが小さな声で『うわぁ……』と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
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