ep.11

「んんう・・・・・・・」

 私――リアラは、眠たい目をこすってゆっくりと起き上がった。

 あれ、私、どうして寝ていたのだったけ?

 確か、呪獣を止めて、倒れて

「ここは、どこ?」

 目覚めたのは、全く知らない部屋だった。

 私は、部屋の窓際に位置する豪勢なベットに寝かされていたようだ。

 全く見覚えの無い部屋、だが、おそらくは

「王宮、かしら」

 婚姻の儀の際に割り当てられた部屋とはまた別の、王宮のどこかの部屋だろう。

 ここがお屋敷なら、私の私室に寝かされるはずだし、それに

 私は、ベットの上から窓の外を見やる。窓の外では、夜の暗闇の中に浮かぶ人々の明かりが一面に光り輝いていた。

 こんな景色が見られるのは、王宮以外にありえないもの。

 私はおもむろにベットを抜け出し、裸足のまま窓に近寄る。

「あら、ここベランダがあるのね」

 そうとくれば、とる選択はひとつだ。

 私は迷わず窓を押し開き、ベランダに出る。

「さむっ」

 外に出た瞬間、冷たい外気が肌を刺した。

 だが、それに負ける私ではない。

 風に揺られる髪を押さえながら、ベランダの手すりに身体を預けた。

「綺麗ねえ」

「あたりまえだ」

 隣から聞こえてきた声に、びくりと身を震わせる。

 勢いよくそちらを見やると、1人の人物が、隣のベランダで私と同じように街を見渡していた。

「この国は、綺麗だ」

「だん、な、さま」

 その時、ふと意識を失った瞬間の記憶がよみがえる。

『リアラ!!』

 いや、いやいやいやありえないわ。あの旦那様よ?あんな風に私の名前を呼ぶ、なんて。

 でも・・・・・・・

 私は、ちらりと隣の旦那様を盗み見る。

「なんだ」

「っ なんでも、ないわ」

 き、気づかれた。野生並みの勘ね。

 沈黙が、落ちる。

 私は1度グッと唇を噛み、口を開いた。

「やっぱり、なんでもなくない、わ」

「?」

「・・・・・・・あの時、私を助けてくれたのは旦那様、なの?」

「そうだが」

「~~~~~~っ」

 つまり、あれは、夢じゃなかった!?

 私がなんとも言えない気持ちにもだえている中、旦那様はなにか思い詰めるように手元に視線を向ける。

「傷は、もういいのか?」

「・・・・・・・ええ。痛みはもうないわ。ラナのおかげね」

「そうか」

本人から聞いた訳ではないが、傷の治り具合とほんのりと感じる力の気配から、ラナが治癒の力で私を治してくれたのは自明だ。

明日、お礼を言わなくてはね。

 再び落ちる沈黙。だが、長くは続かない。

「悪かった」

「へ?」

 低く小さな旦那様の声が耳に届くが、その内容に私はワケが分からず旦那様を見つめる。

「嫌だったのだろう?私に、触れられるのは」

「な」

 な、なにか勘違いさせてしまった!?

 あ、でも、そうね。あんな風に聞いてしまったら、そう捉えられてしまっても無理ない、かしら。

 けど、私は婚姻の儀日、この人にあんな扱いをされたのだ。

 このまま放っておいてもいい、かもしれないが・・・・・・・

「別に、嫌じゃなかったわよ」

「は?」

「へ、あ、いや、そういう意味じゃなくてっ!ただ、その、助けてくれてありがとうって、言いたかったのよ」

 そうだ。このまま感謝のひとつも伝えずに終わらせてしまったら、私が後味の悪い思いをすることになる。

 そんなの、私の矜恃が許さないわ。

 でも、少しくらい、意地悪したって、いいわよね?

「どうしてあの時、リアラって、呼んだの?」

「んぐ」

 旦那様は予想以上に動揺して、唾でも詰まらせたのが何度がむせる。

「ちょ、大丈夫?」

「だい、じょうぶだ。問題ない」

 その姿に少しばかりの罪悪感が・・・・・・・いやいや、こみ上げたりなんてしないわ。自業自得よ。ふんっ。

「そういえば、私が抱えていた子犬、どうしたの?」

 まあ、少し可哀想なことしたかも、と思わなくもないので、話題を変えて聞こうと思っていたことを聞く。

 旦那様があからさまにほっとしたような雰囲気になり、ちょっとだけムッとしたけれど

「・・・・・・・ああ、あの子犬はうちの屋敷で保護する事にした。すでに、ソルダが屋敷まで連れて行ってくれている」

「そう、良かった」

 私は心からほっとして微笑む。

 だって、私はあの子犬が自分の意志に反して無理矢理 呪獣にされ、暴走させられたことを知っているけど、他の人からすればそうではないもの。

 放っておいたら、人を襲った獣として、殺処分されてもおかしくなかった。

「お前は、やさ・・・・・・・甘いな。自分を襲った獣だぞ?それを」

「だ、だって、仕方ないじゃない。あの子は混乱していただけよ。悪くないわ」

 私はそこのところは重要だ、とばかりに胸を張ってそう答える。

 ちなみに、あの子犬については初めての人間に混乱して思わず牙をむいてしまっただけ、ということで通そうと決めている。

 おそらく、私が意識を失ってから、ラナがその方面で事を進めてくれているはずだ。

 と、それはそうと

「それより、まだ、私のことをお前呼びするつもり?私は、リアラよ。何度言われれば気が済むの?」

「な」

「リーアーラー、よっ」

 私は、人差し指を旦那様に突きつけ重要な事とばかりに念押しする。

 が、別に私は期待しているわけじゃない。

 今回も、適当にはぐらかされるだろう、と思っていたのだけど

「ぜ、善処する」

「・・・・・・・へ?」

 顔をそっぽにむけながら言われた言葉に、私はきょとんとしてしまう。

 始めは言葉の意味が分からずフリーズしてしまったが、徐々に頭が追いつく。

「え、え。旦那様。とうとう私の名前を覚えようという気に?いえ、名前は覚えていらっしゃるのでしたね。私を助けてくださったときに呼んでくださったもの」

「う、うるさいぞっ」

 私は目を見開いて旦那様の顔を凝視する。

 旦那様はそんな私の視線に耐えられないと言うように、腕で顔を覆った。

 けど、え、嘘。旦那様、少し赤くなっているような・・・・・・・?

「あー、もう、寝るっ。お前も、早く休めっ」

「ちょ」

 旦那様は、バタンと音をたてて部屋に戻ってしまう。

 結局、お前呼び変わってない・・・・・・・

 だ、けど。

 トクトクと胸がはずむ。

 なんだろな、これ。意味が分からない。

 私は、ほてった頬を押さえて、もう少しだけここにいよう、と思った。

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