第6話

「もぉ來斗(らいと)ったらそんなに笑っちゃリリが可哀想でしょ?」


「イヤイヤ……クク……そういうカレンだって顔ニヤけてんじゃねぇか……クク」


「えぇー嘘! ニヤけてないわよ!」


 結婚して10年以上も経つのに、未だにお互い名前で呼び合うラブラブ夫婦のやり取りに、無性に腹が立った。


 大体父たちには“あれ”が見えなかったのか。

 娘が通う学校に、あんないかにもヤバそうな落書き達。あんなの見たら普通は可愛い一人娘を、通わすなんて事は絶対にしないはず。


 脳内で文句垂れてたら、不意に父が真剣な面持ちで話しかけてきた。


「リリ。そこの学校の隣にある街路樹見えんだろ? その並木道は家までは近道だが、絶対通るなよ?」


 並木道って、今はそれより学校の事の方が大切なんじゃ……。


「分かったか?」


 私の脳内抗議なんてどこ吹く風の父は、返事を促してくる。


「……分かった」


「絶対だぞ? あそこは──」


「分かったってば!」


 父の言葉に被せて吐いた返事に、父は瞠目して私を見てきたけど、私は苛立ちもあって拗ねていたせいもあり、話を強制終了させてしまった。


 なおも、まだ何か言いたげにこちらを見てくるけど、その視線にも気付かないフリをしていた。


 ちゃんと聞いておけば良かったと、後悔する事になるとは知らずに……。

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