第12話 俺、精神年齢を相手に合わせられる特殊能力持ちだから
「———妾の娘、レシアだ」
「ままの娘、レシアだよーっ! いま3歳なのっ!」
ヴァイアさんに頭を撫でられて嬉しそうにながら、にぱーっと笑顔で元気に両手を挙げて自己紹介をするレシアちゃん(3歳)。
ただでさえ見た目が非常にキュートなのに、まだ五種族の言葉に慣れていないのか舌足らずなのが余計可愛い。
逆に言えば3歳で2種族の言葉を話せること自体、とんでもない天才幼女だが。
因みに、外で一頻り説教をしてやったプリムは、そのまま外でレフェリカの魔法によって拘束されて転がされている。
もちろん、満場一致でレシアちゃんに近付けさせない、と決まったからだ。
「こんにちはレシアちゃん、俺はヒロトだよー。ヒロトって呼んでね」
「始めまして、レシア様。私はヒロト様の専属メイドを承らせていただいているレフェリカと申します」
「めいど? うけたま……んぇ??」
俺が外で転がるプリムを頭から弾き飛ばしつつ、優しく簡単な言葉で自分の名前を伝える横で、ごりごり敬語で自己紹介をするレフェリカだったが……案の定、レシアちゃんは知らない単語祭りによってポカンと口を半開きにして、斜め上を見ている。かわいい。
「おいレフェリカ、何でレシアちゃん相手にそんな難しい言葉を使うんだよ。ほら、レシアちゃんが困ってるだろ」
「…………」
「ど、どうした? 俺の顔に何か付いてるのか……?」
俺がレフェリカを肘で小突いて囁やけば、何故かジトーっとした湿っぽい視線を向けられて、何でもありません、と何でもありそうな声色で宣ってくる。
変なレフェリカ……何て俺が首を傾げていると。
「ひろと!」
「……!?」
ひしっと俺の足にしがみついたレシアちゃん。
その可愛さと来たら……あまりの可愛さに声が出なかった。
俺がレシアちゃんの可愛い行動に絆されまくっていると。
「———ひろと、お馬さんしてっ!」
「え?」
キッラキラした瞳で俺を見上げつつ、そんなことを言ってくる。
ドラゴンの子供なのに、どうしてお馬さんなんて遊びを知っているのだろうか。
…………うん、分からん。聞いてみよう。
「ど、どうしてそんな遊びを知ってるのかなー?」
「……これ! これみたの! すごいおもしろいのーっ!」
そう言ってジャジャーンという風に俺に見せつけてくるのは……何やら白馬に跨った王子っぽい青年が表紙になっている絵本だった。
どうならこの本に影響を受けたらしい。
またもやプリムのせいか、本当に碌なことをしないなアイツ。
ただ、こんな幼子のお願いだ。
ここで聞いてあげないのも可哀想だし……。
「……ひろと、お馬さんしてくれないの……?」
…………。
「よーし、俺がその絵本の白馬より強い最強のヒロト馬になっちゃうぞー! ほら、レシアちゃんは最強最かわ女王様だ!」
「レシア、さいきょーじょーおーさま?」
「そう、最強で可愛い女王様」
「レシア、さいきょーでかわいーじょーおーさまなるっ!」
俺は羞恥心をハイテンションで誤魔化して、キャッキャキャッキャと笑うレシアに付き合ってあげることにした。
「…………」
「ひろとぉ? ……ねぇまま、ひろとが動かないの! もしかしてびょーきなの?」
「……違う。レシア、お前が元気過ぎるのだ」
「ほぇっ?」
舐めていた。
ドラゴンの体力を舐め過ぎていた。
そうだ、目の前の可愛い幼女は、最強種ドラゴンの子供なのだ。
普段引き篭もってろくに運動もしてない半ニートみたいな人間の俺が、体力で敵うはずもなかったのだ。
「ヒロト様?」
「れ、れふぇりか……か、か……」
「少々お待ち下さい、今直ぐ回復魔法をお掛けします」
頭文字しか言ってないのに意図を完璧に理解してくれたレフェリカが、俺へと回復魔法を掛けてくれる。
普段からこのくらい優秀なら俺の苦労ももう少し減っていたと思う。
「余計なことを仰るようでしたら、回復魔法をやめますからね」
「ごめんなさ……いや待って、全然言ってないんだけど。心の中でしか思ってないはずなんですけど。え、ナチュラルに心読むのやめて?」
「ヒロト様の心情を汲むなど、朝飯前? というヤツです」
「怖いよマジで」
1度どういう原理なのか、しっかりと、余すことなくご教授願いたいものだ。
そしたら万全な対策を立てて2度と心の中を覗けなくしてやる。
何て燃える俺を他所に、レフェリカが少し言いずらそうにしつつもはっきりと断言する。
「ですが、そのようなことをされますと、私の性能が30%ほど低下いたしますが、それでもよろし———」
「筒抜けオッケー! どんどん読みな、俺の心はプライスレスだ!」
こいつの性能が30%も下がるとかとんでもなさ過ぎる。
ただでさえ不良品の中でもギリ使えるかぁレベルなのに、これが更に悪くなったら、完全に目の当てようがなくなってしまうではないか。
危うくとんでもないポンコツを生み出すところだったと胸を撫で下ろしていると。
「……もう帰ってもよいか?」
俺達のやり取りを白けた目で見つめていたヴァイアさんが尋ねてきたので。
「あ、どうぞどうぞ。本当にウチの馬鹿が申し訳ありませんでした。もし苛立ちが治まらないようでしたら、ぶん殴ってから帰ってもらっても全然大丈夫ですからね」
「い、いや、遠慮しておく。……さぁ、もう帰るぞ、レシア」
俺を最後までドン引きした様子で眺めつつ、そう言ってレシアちゃんに穏やかな表情て手を差し出すヴァイアさんを、レシアちゃんがジッと見つめたかと思えば。
「———いやっ! レシア、ひろとと一緒にいるもん!」
…………。
「え?」
「は?」
「はい?」
困惑する大人勢を他所に、キラキラと期待の眼差しを俺に向けながら、再びひしっと足に抱き付いたのだった。
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