第11話 ウチの幹部がマッドサイエンティスト過ぎる
「———おいプリム。聞かなくても、お前がろくでもないことをしていたのは分かっている。だから、大人しく全部吐け、ぶっ殺すぞ」
「さ、最後に、不穏な言葉……」
「もう1度言ってほしいのか? さっさと言わないと、今度は顔面にキックじゃなくてあの世へ
俺はぶすっとした様子でプリムを睨むドラゴンにペコペコ頭を下げつつ、顔面に靴の跡が付いた正座中のプリムを見下ろす。
全力でキックしたつもりだったが、死ぬどころかピンピンしているのを鑑みるに、どうやら俺より肉体強度が高いというのは本当らしい。どうでもいいか。
「お前のせいでどれだけ面倒な事になってると思ってんだ。俺だけじゃなくて、ドレイク辺境伯閣下も、ドレイク領の領民も、ここ暮らすモンスターも散々な被害を被ってんだぞ。そこんところはちゃんと分かってんだろうな? 下手なこと言ったらドレイク辺境伯閣下に突き出して、処刑にでも何でもしていいって伝えてやるからな。てか1度ドレイク辺境伯閣下にその腐った性根を叩き直してもらえ」
「ヒロト様、ここぞとばかりにストレス発散のサンドバッグにするのは一向に構わないのですが、それを初対面の方の前でしないでください。ほら、ドラゴンのお方も引いていますよ」
「え?」
何てレフェリカの言葉に俺が振り向けば……本当に首を少し仰け反らせて冷たい視線を俺に向けているドラゴン———ヴァイアの姿が。
これは完全に引かれてますね。
『……お主、本当にその女の仲間なのか……? 人間は女に手を出さないと聞くが、お主は顔面を思いっ切り……まさか外———』
「おっと、それ以上はやめてもらおうか。断じて俺はそんなんじゃないからな」
『だが、隣の魔族の娘もまるでいつものことだと言わんばかりに微動だにしていないじゃないか』
そう言うヴァイアさんと共にレフェリカを見つめると。
「……? どうかいたしましたか? 今直ぐプリム様をドレイク辺境伯閣下に突き出されるというのでしたら、私が手配いたしますよ?」
視線に晒されたレフェリカがあろうことか、最悪のタイミングで、誰もが勘違いしてしまうようなことを宣う。
どうですか、完璧でしょう? と言いたげにむふーっと顔を誇らしげに今まで無だった表情を変えるせいで、余計に普段からやっているみたいに見えるのがいけない。
そして、俺を見るヴァイアさんの視線が痛い。
『……やはりお主……』
「いや本当に違うんですよ、俺は毎日女を殴ってるようなDV彼氏みたいな奴じゃないんです。寧ろ俺が普段からポンコツな奴らに振り回されている側なんですよ」
『分かっておる、分かっておるから妾の半径10メートル以内に入るでない』
「全く信じてないなこいつ」
何で俺がドラゴンにまで引かれなきゃいけないんだよ。
「おい、全部お前のせいだからな。お前がこんな面倒なことを引き起こしたせいだ! 分かったらさっさと白状しやがれ!」
「いひゃい、ほっへちひれふ……」
俺がストレス発散も兼ねてプリムの頬をぐにぐに引っ張りっている横で。
『…………』
「ヒロト様、またもや引かれています」
「だから何でだよ」
俺はこの世の理不尽さに無性に怒りを覚えた。
「———お前マジか。いや、碌でもないとは思ってたけど……お前マジか。もう幹部クビだろ、犯罪者の方がお似合いだろ」
「屑ですね、ヒロト様の5倍性根が曲がっておられます。生きる価値無しですね」
プリムから全ての経緯を聞いた俺とレフェリカは、それはもうあまりのエゲツなさにドン引きしていた。
マッドサイエンティストとはこうあるべきを地で行く計画だった。
「子供を攫ってヴァイアさんを誘き出し、偶々会った何の罪もない青年を自分が悪いのにあたかも被害者ぶって巻き込み、挙げ句の果てにヴァイアさんを捕まえたら子供も実験に使う、か……ごめん、俺、こんな奴と同僚だなんて思われたくないんですけど。今直ぐ処刑でいいだろこんなの」
「……うっ」
俺の言葉に前を歩いていたプリムがビクッと方を震わせたかと思えば、苦し紛れの言い訳を展開する。
「ち、違う……実験って言っても、ドラゴンの涙とか、鱗をちょっとづつ貰うだけで、ちゃんと衣食住は保障するつもり、だった……」
『妾の娘をモルモットなんぞにされて許されると思っておるのか? 殺すぞ?』
そう言って殺気マシマシに掌から火の玉を浮かべるのは、真っ赤なストレートな髪を靡かせて歩く、眼を見張るほどの美女となったヴァイアさん。
出会い方が違っていれば求婚していたかもしれない。
だって家族思いそうだし、ドラゴンだから強いし。
まぁ人妻ならぬ竜妻なんですが。
何て余計な思考は彼方に追いやり、ヴァイアさんに同調する。
「やっちゃってください、ヴァイアさん。多分、こいつのイカれ具合は、1回死なないと治んないですから。何なら治るまで殺しちゃって構いません」
『そ、そこまでするとは言ってないぞ……?』
おっと、どうやら斜め上の回答をしてしまったらしい。
俺を見る視線がそこらの路傍の石に向けるような無機質なものになっている。
もう喋らんとこうかな、と思いながらプリム先導の下、子供ドラゴン———レシアちゃんが居る場所に向かう。
このアタオカマッドサイエンティストのことだから、罠という可能性も考えは考えたのだが……流石に俺とレフェリカが居る前でそんなことはしないだろう、とギリギリ残っていた仲間意識が宥めた結果、大人しくついて行くことになった。
「……ここ」
歩き始めて十数分が経った頃、見た感じ何もない所で立ち止まるプリム。
相変わらず周りは薄暗く、鬱蒼と色の悪い草木が生い茂っているが……とある一角に、あまりにもこの場に不自然な金属製のハッチがあるではないか。しっかりピカピカしてる。
「……お前、隠す気あんの? こんなん一発でバレるぞ」
「ん、厳重に魔法を掛けてる。普通の者なら、気付かない。でも、此処には幹部級しかいない」
だから決して私の魔法がお粗末なんじゃないと言いたげに睨んでくるが、そもそもこんな場所に秘密の研究所を創るなと声を大にして言いたい。
「まぁそんなのどうでも良いから、さっさと入る———うわ眩しっ!?」
ハッチを開けた瞬間、元々この森全体が薄暗いこともあって、完全にナイトビジョンモードとなっていた目に照明の明るすぎる光が突き刺さる。
それに怯んだ俺は足を滑らせ———
「あっ」
「「「あ」」」
あっけなく中に落ちてしまう。
しかも目は未だに回復していないのでろくな受け身も取れず、気付けば全身に痛みが回っていた。
「大丈夫ですか、ヒロト様?」
「大丈夫だけど痛い! めっちゃいってぇぇぇぇぇぇぇ……クソッ、何で俺がこんな目に遭わないといけないんだよ! 俺が一体何をしたって…………」
俺がこの行き場のない怒りを吐き出している途中で、言葉が尻すぼみに小さくなっていく。
なぜなら……。
「……だあれ?」
真っ赤な髪に頭に生えた小さな角、ぱっちりおめめの猫みたいな縦長の瞳孔を此方に向けた超絶美幼女が、目の前でキョトンと首を傾げていたからだ。
その姿を見た瞬間、俺は告げていた。
「プリム、正座」
「は、はい……っ!!」
説教、ラウンド2。
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