第2話 幹部……俺のこと舐めてる?

「———来ないな」

「そうですね。やはりヒロト様は人徳が……」

「もう分かったからやめて。ここに来てから何もしてないもんね、俺」


 場所は移って魔王城の会議室。

 会議室と言っても故郷の日本の様にプロジェクターがあるわけではなく、そこまで広くない部屋のド真ん中に真っ赤な円卓が置かれており、その円卓を囲むように椅子が幹部と俺と魔王分用意されている。

 ただ暗いとあれなので……灯りはシャンデリアではなく、疑似太陽の超弱い版みたいな浮遊する球体の照明だ。


「はぁ……。やっぱ俺にはNo.2の肩書きは重いよ……お金あげるからこの座を変わってくれないかなぁ」

「父様……魔王様が不在の今、変わりたいと思う者はいませんよ」


 机にぐでぇぇぇと気怠さ全開で身体を預ける俺へ、隣に座ったメイド服姿のレフェリカが当然の如く宣うが。


「だよなぁ……というかお前、いつになったらメイド服から着替えるの? 俺、これから会議って言ってるよね?」

「お嫌いではないのでしょう?」


 俺が顔だけレフェリカに向けて半目で指摘すれば、直ぐ様切り返してくる。

 コテンと自然な感じであざとく首を傾げる彼女の素振りには、一種の尊敬すら抱きそうだ。


「出来れば『御主人様、私めに何なりとお申し付けください』って言ってみて」

「御主人様、私めにお申し付けください。現在鉄拳or踵落としを承っております」

「どちらも遠慮しておきます」


 選択肢が物騒すぎるって。

 誰が好き好んで幹部の鉄拳とか踵落としを食らいたがるんだよ。

 普通に死ぬからね、当たりどころが悪くなくても。


 何て戯言も程々に、俺は自身の腕に付いた時計に目を遣る。

 すると時刻は昼の11時過ぎで……集合時間から軽く十数分は経っていた。

 

 ところが今集まっているのは、6人中俺と一緒に居たレフェリカのみ。

 後の5人は余裕で遅刻をかましているわけである。随分舐めてはりますな。


「アイツら全員給料無しにしてやろうか」

「賛成です。代わりに私に5人分の給料を加えてください」

「お、良いな。どっかのクソアホ魔王の奴が戻ってくるまでそれでも———」


 何て2人で話に花を咲かせていると。


「ちょっとお待ちなさい!? 何勝手にワタクシ達の給料を無くそうなどとほざいていらっしゃるので!? ワタクシは断固反対ですわっ!」


 テンプレお嬢様みたいな口調と共にキャンキャン鳴くのは、幹部の1人であり……ここにいるレフェリカの遠い親戚でもある我が国の侯爵家当主———マリー。家名はなんか長くて覚えてない。

 そんな由緒正しきマリーは、縦ロールの金髪をふぁさぁぁぁと手でかきあげながらビシッと俺を指差して。

 

「ワタクシは貴方様の給料を無しにした方が宜しいと思いましてよ!」

「お前給料ゼロ。明日から1ヶ月ただ働きな」

「んなっ!? は、反対ですわーっ!」


 遅刻して来た奴とは思えないくらい生意気なことを宣うので、俺は速攻給料を没収する。


 これはパワハラなどでは断じてない。

 コイツら給料に見合った仕事してないし、普段のやらかしから考えて……給料1年無しでも文句は言えないレベルである。

 今までは魔王が優しかっただけ。


 クククッ……魔王が居ない今、この魔王軍を取り仕切るのは俺。つまり何をやってもお咎め無しなのだ。

 さぁさぁ今までの鬱憤を晴らさせて貰おうじゃねーか。

 

 何て俺がゲスな笑みを浮かべ、マリーが自分を抱いて顔を青くしていると。


「……何で、そこの、給料泥棒の召集に従わないといけない……」

「給料以上の損失を生んでる奴がよく言うな。お前は今までの損害額をこれからの給料から差し引いてやろうか? 多分3年強は余裕で無賃金だから覚悟しとけよ」

「プリム様、お久し振りです。研究の成果は如何ですか?」

 

 扉からまた1人、金髪碧眼の眠たげな様子でうつらうつらしながら席に向かう幹部が現れる。

 名前はプリム……下の名前は相変わらず覚えていない。何せ記憶力皆無なもので。

 

「……ヒロト、横暴。レフェリカ、研究は順調。今は人体実験中」


 眠たげな表情でドヤ顔をすると言う器用なことをしつつダブルピースをするプリム。

 しかし彼女の言葉に過去の出来事が思い起こされた俺は、身を乗り出して頬を思いっきり引っ張った。


「恐ろしい言葉が聞こえて来たぞおい。また失敗して王都を———おいコラ速攻で目を逸らすんじゃない、そんな研究今すぐやめちまえ! やめないなら俺がテメェの研究室をぶち壊してやる!」

「や、やめ……っ、あ、いひゃい……ま、まりーたひゅひぇひぇ……!」

「何を言っているのかさっぱりですわ」


 無情にもマリーに見捨てられたプリムは、涙目で俺の頬つねりを受けてつねられた箇所を真っ赤に染め……本気で泣きそうになったので離してやると。


「あぁもうしんど……こんなのがあと3人もいんの辛過ぎじゃね? というかアイツらもしかしなくても来ないんじゃね?」


 俺は溜まった疲れを吐き出すように小さくため息を1つ。幸せが逃げるとか言う戯言を言う奴は処刑な。


 この2人から分かるように、魔王軍の幹部はどいつもこいつもポンコツしかいない。


 例えばマリーはファッションアイテムが好き過ぎて散財するわ、人族の国に勝手に行くわ、そこで変な恨みを買うわと散々である。

 アクセサリーかと一緒に恨みまで買うんじゃないよ。恨みはプライスレス? やかましいわ。


 そして俺と同じく机に全体重を掛けているプリムの奴は、子供みたいな身体ながらとんでもないマッドサイエンティストであり……爆発は当たり前、下痢の霧を誤って流すわ、王都に凶悪実験体が逃げ出して大暴れするわ、魔王城の一部が空間歪曲で丸々なくなるわでとんでもない話だ。

 何百人が一斉にトイレに行こうとした時は、この世の終わりかと思った。


 こんなのが———後3人も来る。


「ヒロト様、ワタクシの給料———」

「うるさいですよ、マリー様」

「ふぎゅ!?」

「今変な声……いやそんなことより、早く来いよあのバカ野郎共……緊急事態なんだよボケ……」

「……いひゃい……」


 俺は騒がしい幹部達を他所に、残りの幹部達が来るのを憂鬱な心持ちで待つのだった。

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