魔王が逃げやがりました!
あおぞら@書籍9月3日発売
第1章 勇者軍が攻めて来ました!
第1話 魔王が逃げたんですけど……
「———父様が……魔王様が逃げやがりました」
「はいはいどうせ寝坊だろ? いつもなんだから適当に引っ叩いて———今何て?」
場所は、数多のラノベやゲームで悪役の場合もあれば主人公の場合もある良い意味で個性の塊たる魔王城。
見るからに禍々しい外装とは裏腹に意外と生活も便利になっている内装とのギャップにも完全に慣れて住みやすいとすら感じていたある日……魔王軍のNo.2の座を魔王に貰った俺、ヤマサト・ヒロトこと
しかし魔王の娘であり魔王軍幹部の1人でもあるメイド服姿の少女———レフェリカの出現に。
「話……聞いてなかったんですか?」
「いやぁ~聞いてなかったね。だからもう1回言ってくれない? 他のことしてて聞き間違えたかもしんないからさ」
俺は書く手を止めてへらりと笑みを浮かべながら。
「だから毎回私の話はちゃんと手を止めてから聞いて下さいと言ってるんです」
「でもお前、基本的に9割5分はクソどうでもいい話じゃん。そんな下らん話に付き合ってる余裕ねーよ」
「ぶん殴って差し上げましょうか?」
「俺一応お前の上司な。———それで何て?」
先程聞こえた言葉は俺の聞き間違いだと神に祈りつつ、普段通り尋ねてみる。
そんな俺の気持ちとは裏腹に、レフェリカはサラッサラな銀色の髪を耳に掛けながら再度言った。
「魔王様が逃げやがりました」
「…………あ、頭痛い……遂に俺にも幻聴が聞こえて来たか……徹夜はしてないんだけどな……」
何て俺が額を押さえて眉を潜めていると。
「魔王様が逃げました、夜逃げしやがりました、あの年で家出しました」
「だああああうるさいっ! 分かったから! もう分かったから耳元で何度も囁くんじゃない!!」
レフェリカが現実逃避をしようとする俺の耳元で、目を背けたくなるような現実を直視させようと何度も何度も呟いてくる。
これには堪らず腕を振るって彼女を追い払い、頭を抱えた。
マジかマジかマジかよふざけんなっておい……。
今がどんな時期か分かってんのかあのクソ野郎!?
今までの勇者に加えて新しい勇者が召喚されたのを忘れたとは言わせねーぞ!?
そう———この世界には、勇者と魔王がいる。
俺の生まれ故郷である日本では一種のフィクション的ネタで、勇者が弱かったり魔王が主人公だったりはあったものの……この世界での勇者と魔王の肩書きはちゃんと他の者とは一線を画す。
そもそも勇者は神から貰ったチート能力がないと始まらない。
序でに数多の功績を上げ、ある一定の強さになったと様々な人に認められなければなれないのだ。
だから……この世界に弱い勇者は存在しない。
それに対抗できるのが、同じ勇者か———我らが魔王のみ。
勇者になりたてとかなら魔王軍幹部でも倒せるだろうが……5年とか勇者やってる奴だとマジで魔王しか対抗できない。
多分魔王軍幹部2人が死ぬ気で頑張ってやっとどっこいどっこいレベルである。
そして今いる勇者は———7年目。
「え、ヤバいんですけど。普通に魔王軍、4種族との戦争に負けるよ?」
「…………」
俺が頭を抱えたままチラッとレフェリカに目を向ければ……レフェリカがジーッと俺を見つめていたので、そっと目を逸らしておいた。
「お、おい俺を見るなよ、何で俺を見るんだよ……」
「ヒロト様……いえ、何でもありません」
「何でもないならいい———何で頭を叩いてくるのか聞いてもいい?」
ポカポカと俺の後ろに回って頭を叩いてくるレフェリカに尋ねてみるも、『分からないならいいです』と少し不服そうな声色でそっぽを向いた。
「えー……そう言われると気になるんですけど……」
「私からは言いません。それにヒロト様には考えることが沢山お有りなのでは?」
こいつ……痛い所ついてきやがって。
「そうは言ってもなぁ……魔王が居なくなったとか言えねーだろ。どう転んでも士気だだ下がりだぞ?」
「そうですね、皆さんヒロト様ではなくて父様を慕っていますからね。幹部達も然りです」
「そこまで言わなくても良くない?」
そんなに言われたら傷付くんですけど。
泣くよ、子供みたいにギャン泣きするよ?
何て俺がジト目でレフェリカを見れば。
「……ヒロト様の兵士達からの評判を知っていますか? 『ゴマ擦り名人』『名前だけのNo.2』『肩書きだけの一般兵士』……他にもありますが聞きますか?」
「おいそれ言ったの誰だよ! 教えろ、全員ぶっ潰してやる!」
一切表情を変えずにつらつらと俺の不名誉な二つ名を羅列してくる彼女へと涙目になりながら怒号を上げる。普通にオーバーキルですよ。
「あぁぁぁぁもう……取り敢えず幹部達に召集掛けてくれ。幹部以外には魔王が居ないのは秘密にしよう」
愚痴を零しつつ指示を出す俺から一歩離れたレフェリカが恭しく頭を下げると。
「承知致しました。それでは行ってまいります」
まるで最初から何も居なかったかのように一瞬にしてその場から消えた。
途端にシンと静まり返る自室には、穏やかな風が流れる。
そんな和やかな環境とは反対に、とんでもない報告に混乱すると共にガンガンと叩かれているかのように痛む頭を押さえ。
「———魔王の馬鹿あああああああああああああああッッ!!」
全ての鬱憤を吐き出すかのように絶叫したのだった。
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