元邪教の聖女様メフィエルちゃんは、のんびり錬金術師スローライフを目指してるだけなのに、気づいたらメロメロになった信者たちがはぁはぁ言いながら奴隷になっているようです。
第2話 今日もメフィエルちゃんは善行を積みましたっ♪
第2話 今日もメフィエルちゃんは善行を積みましたっ♪
あれから、セドリックさんに荒れてしまった店内の棚を直してもらったりしながら、メフィエルちゃんはのんびりとアイテム作りに勤しんでいました。
ギルドの掲示板で見かけた募集の一つに、フレイムポーションの大量納品というものがあり、これの達成報酬が1つ5千ゼニーという相場よりだいぶ高めの募集となっていたのです。
たまたまメフィエルちゃんの手元には10個分のフレイムポーションの材料があったので、これをひとまず2時間ほどかけてフレイムポーションに変換し、ギルドに持っていく事にしました。
これが無事終われば今日の収入は5万ゼニー。請求書のお金には足りませんが、今晩のご飯に困る事は無いでしょう。固いパン一つが150ゼニーほど、セドリックさんに買っていただいた串焼きは700ゼニ―ほど、というのがこのラルトの街の物価ですので、このままいくと、豪勢に夜にも串焼きを食べてもいいほど稼げる計算となります。素晴らしい。
メフィエルちゃんは、自殺してしまった前の工房の持ち主から受け継いだ錬金釜の、その傍らにある作業台にて、フレイムポーション10個分の材料、つまり火属性魔石の粉末100グレムに火薬草20本、中和ポーション1リッタルを並べていきます。
メフィエルちゃんの参考図書である『錬金術師になる方法はたったこれだけ! あなたもラクラクメソッドでキラキラ錬金術師に!』によれば、最初に中和ポーションを入れて80度まで暖め、そこで火薬草を切り刻み少しずつ加え融かしていき、全体と混ざり合ったところで火属性魔石の粉末をぱらぱらっと加えると、フレイムポーションが出来るそうです。火薬草は引火すると爆発する性質があるため、ちゃんと丁寧に釜に入れる事、とのこと。
メフィエルちゃんも、その記述に忠実に作ろうと、よく作り方を頭に入れてから、作業に入っていきます。
まずは火薬草をすべて切り刻んだ上でまな板の上に置いておき、その横で錬金釜に薪をくべ、点火。ぼわっと赤々とした炎が錬金釜を熱し始めます。間を置かずに中和ポーションを入れて、忘れずに温度計をさしておきます。
我ながら完璧な手際。満足のいく仕事ができました。
しばらく火と温度計を眺めながら、火薬草を入れていく機を待ちます。
「め、め、め、メフィエルさまああああ! 棚の方はばっちり綺麗に並べておきましたああああああ!」
と、そこでばたばたと慌ただしい足音を立てながら、なにやらセドリックさんが走ってきました。
そういえば棚の整理を頼んでいましたね。すっかり忘れていました。
セドリックさんははやくメフィエルちゃんに褒められたいのか、ニコニコと笑みを浮かべながら猛突進してきます。
すると、メフィエルちゃんのすぐ近くまでセドリックさんがすごい速さで走り寄ってくるものですから、なにやら風が起きてしまい、まな板の上の火薬草がひらひらと宙を舞って、そのままその横で燃えている錬金釜の横から炎の中へと散っていきます。
「あ」
メフィエルちゃんが「あ」っといったときには、時すでに遅く……
ドーン! と物凄い爆発音と共に、まず錬金釜が宙に跳ね上がりました。
そして錬金釜は、中の熱せられた中和ポーションをまき散らしながら、ちょうど横にいたセドリックさんとメフィエルちゃんの方へと落ちてきます。
メフィエルちゃんの身体には、聖女時代にたくさん作っておいた「聖女のお守りバリア」という聖木で作られた特殊なアイテムが懐に装備されているのですが、そのうち一つがパリンと木の割れる音とともに砕け散り、バリアとなってメフィエルちゃんを守ります。
一方のセドリックさんは、熱せられた中和ポーションを浴びたうえで、錬金釜が身体に直撃し……
「あづっ……! あぢぢぢぢぢぢ! あづいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
物凄い悲鳴を上げて床をのたうち回っています。
「うーむ」
これはなかなか大変な事になってしまいましたね。
万全を期すならば、まな板の上に火薬草を放置せず、袋などに入れて火とは遠くに保管しておくべきだったようです。メフィエルちゃん、うっかりしておりました。要反省ですね。
まあ人は失敗して学んでいく生き物。
長い目で見れば、今日の失敗が、なにかの成功につながっているという事もあるでしょう。
そう自分を納得させたメフィエルちゃんは、続いて目の前のセドリックさんに改めて意識を向けます。
「た、た、た、助けてくださいメフィエルさまぁあああああ! い、医者呼んでくださいっ! し、死んじゃいますううううううううう!」
セドリックさんは全身をポーションと熱せられた釜で大やけどしており、釜がぶつかった衝撃の打撲も、骨にヒビなどを入れているのではないかと推測させる感じで腫れあがっていました。
「安心してください、セドリックさん」
メフィエルちゃんは、まずは患者の精神状態を安定させるため、優しく声をかけてあげます。
「メフィエルちゃんが、治してあげます」
「……へ?」
何を言っているのか、と言いたげな様子を見せるセドリックさんですが、メフィエルちゃんはマイペースに、セドリックさんを癒すために動きます。
「【ぴかぴかーっ】」
メフィエルちゃんは、【ぴかぴかーっ】と元気に
その呪文に先ほどセドリックさんから頂いた魂の一部を込めて、その魂をセドリックさん自身を癒すための癒しの光に変えます。癒しの光は、そのままセドリックさんの全身へと降り注いでいきます。
キラキラと舞う白色の光の粒が、どこか暗い雰囲気の工房を明るく照らします。そのキラキラがセドリックさんの傷跡も白色に輝かせ、それに合わせて傷や火傷がみるみるうちに癒えていきます。
「す……すごい……」
倒れていたセドリックさんは、よろよろと起き上がりながら自分の身体を見つめ、傷一つ残っていないのを確認して、どこか感動した様子をみせながら呆然としています。
「す、すごいですよメフィエルさま! あんな大事故があったのに、傷一つも残っていません! メフィエル様は、治癒魔法士をやっていた経験がおありなのですか? それにしてもすごい治癒魔法ですが……」
「メフィエルちゃんは、元メフィエル教の聖女なので、これくらいの事は朝飯前です。今は錬金術師の身の上ですので、錬金術師として研鑽を積み、一人前になりたい所存ですがっ」
最後の部分を強調しつつ、あらためて今のメフィエルちゃんがあくまで錬金術師である事を忘れないようにしておきます。ここで油断すると、新たな志を忘れ、昔とったきねづかに頼る、あまり美しくない生き方になってしまいますから、これはとても重要なポイントです。
「め、メフィエル教という教えが存在していたのですね……寡聞にして知らず、恐縮です」
「いえいえ、昔の話ですので」
「ま、まさか聖女様を襲おうとしていたとは、自分の罪深さに怖気の走る思いです! 本当に、寛大な処置をしてくださり、傷まで癒していただいてしまい、誠にありがとうございましたっ!」
「いえいえ。メフィエルちゃんは人をシアワセニンゲンにするのが生き甲斐なのです。フコウニンゲンを助けるのは当たり前なのです」
「し、シアワセニンゲン……ですか?」
「はい。世の中のすべての人をシアワセニンゲンにするのが、メフィエルちゃんの理想なのです。今日はセドリックさんをシアワセニンゲンにする事ができたので、また一つ善行を積む事ができました。メフィエルちゃんとしても、満足のいく一日になりました、ありがとうございます」
「い、いえいえ! みなをシアワセにするなんて、素晴らしい理想だと思います! このセドリックにできることであれば、なんでも手伝わせていただきますので、もうなんでもお申し付けくださいっ!」
「ふむ。では……」
それからメフィエルちゃんは、メフィエルちゃんに忠誠を誓ってくれたセドリックさんにこんな話をしてみることにしました。
「そういえばメフィエルちゃんは、3日以内にこのお店の場所代の請求書を支払わないと、お店を追い出されてしまうかもしれないのです」
「な、なんと! それは大変ですね、メ、メ、メ、メフィエルさまぁあああああ!」
セドリックさんはちょっぴりおかしな感じになっていますが、話は理解していただけたようです。
「セドリックさんはわたしの事、愛しているでしょうか?」
「は、はいぃいいい! も、も、も、もちろんでございますぅうううううううう! メフィエル様のためならもうこのセドリック、どんな苦難だって乗り越えて見せます!」
メフィエルちゃんはセドリックさんの熱い思いの篭もった宣言に微笑みを浮かべながら、ある提案をする事にしました。
「それでは、以後メフィエルちゃんのためにこの15万ゼニーの請求書を毎月支払っていただいてもよろしいでしょうか?」
「は、はいいいいいい! ……へ?」
おや、ちょっと冷静になっているようですね。
どうやらこのセドリックさんは、お金に関する話になると急に冷静になってしまうような、ややお金への執着が強い性質をお持ちのようです。
「……あ、あの、メフィエルさま、さすがに15万ゼニーを毎月お支払いするというのは、このセドリックの収入的にいささか厳しく……セドリックも生活がありますので……」
「そうですか。今度はお礼にほっぺたにちゅーをしてあげようかなと思っていたのですが、あまり嬉しくないですよね」
メフィエルちゃんはがっかり、といった様子ではぁっとため息をつきます。
ですがその言葉の効果は
「ほ、ほ、ほ、ほっぺたにちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅーですと!?」
セドリックさんはなにやら息をはぁはぁと荒げながら、メフィエルちゃんの唇とメフィエルちゃんの身体の間で血走った視線を行ったり来たりさせます。
「はぁ……はぁ……メフィエル様のちゅー……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……そんなの……そんなの……」
「では、先払いで今月の分のちゅーをしてあげますので、それから考えるというのはどうでしょうか?」
「は、は、は、はいいいいいいいいい! え、き、キス、本当にしていただけてしまうのですか!? メフィエルさまが、このわたしに、き、キスなんて!? し、シアワセすぎますぅううううううう!」
「はい。これでセドリックさんもシアワセニンゲンとしてさらに一歩先に進めますし、メフィエルちゃんも請求書から逃れられて、お互いにハッピーです。こういうのを【ウィンウィンの関係】と呼ぶ、とメフィエルちゃんのバイブルに書いてありました」
メフィエルちゃんが先日購入しバイブルとしている『最高に意識高い人間として世界をハッピーにしていくための47の心がけ~ミーシーでアプリオリな思考ロジックでミラクルパーソンを目指そう~』という本に、この【ウィンウィンの関係】という考え方が乗っており、メフィエルちゃん、大変目から鱗が落ちる思いでした。
「は、はいいいいいいい! き、き、キス……キスキスキスキスキス……メフィエルさまとキス……あ、
「いいですよ。では……」
メフィエルちゃんは、にこっと微笑んで、セドリックさんの頬っぺたに唇を近づけていきます。
「いきますよ?」
「はぁ……はぁ……はぁはぁ……はぁはぁはぁはぁっ……!」
セドリックさんは興奮し過ぎて息が荒くなっており、メフィエルちゃんのぷっくりとした頬っぺたに、セドリックさんの口元から吐き出されるはぁはぁとした生暖かい息がかかります。ですがメフィエルちゃんは特に気にせず、まっすぐにセドリックさんの頬っぺたを目指します。
「ほら……ちゅーーーーーーーっ」
メフィエルちゃんのプルプルとした唇が柔らかくセドリックさんの頬っぺたに触れて、とろんとチョコレートが溶けるように、唇が形を変えていきます。
「あへ……あへへ……あっへぇえええええええええっ……!」
セドリックさんは、全身をびくびくとさせて、すごく面白い鳴き声を出しながら、あへあへと魂をその頬っぺたから放出していきます。
それに伴いセドリックさんが感じている幸福の総量は、とてつもないところにまで行き着いている事でしょう。
「ちゅ……ちゅ……ちゅ……ちゅ……んぁあ……ちゅー……んぇええ……んん……」
「あひぃ……! ひぇええええ! ひゅおおおおおおおおおおおおっっ……! ひぃあああああああああああああっ……!」
メフィエルちゃんも、凄い勢いで出てくるセドリックさんの魂をぺろぺろと舐め取りながら、それがもたらす興奮、愉悦感、美味、幸福感に、うっとりとした表情を浮かべます。
「セドリックさんの魂、大切に使わせていただきますねっ!」
やがてキスをいったん中断したメフィエルちゃんは、少し興奮した様子で、そんな声を発します。
「はぃいいいいいいいいいいいいいいっ……!」
しっかり了承も得られたので、次は魂が必要なアイテムなどを作ってみるのも面白そうですね。
お礼の意味を込めて、もう一度「ちゅーーーーーーーっ」とちゅーをします。
「あっへぇええええええええええええええええっっっ……!!!」
セドリックさんが大きな叫び声をあげながら気絶したのを見届けて、メフィエルちゃんは唇をぺろりと舐めて満足気に微笑むのでした。
「ふふふっ、今日もメフィエルちゃんは善行を積みましたっ♪」
布団に入りながら、メフィエルちゃんは今日の事を振り返ります。
今日もメフィエルちゃんはごく普通の錬金術師として、実に錬金術師らしい一日を過ごしましたね。善行も積んで、メフィエルちゃんとしてもとても満足の行く一日でした。
明日はどんな一日になるのかな、と微笑みながら、そっと布団の中で眠りにつくメフィエルちゃんでした。
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