錬金術師メフィエルちゃんはヤバい~異世界スローライフを目指してるはずが全然スローじゃないライフを送るとんでも少女の話~

火水希星

第1話 メフィエルちゃんはごく普通の錬金術師を自負しております。

 初めまして、メフィエルちゃんといいます。


 メフィエルちゃんは真っ白な髪の毛をウェーブさせたミディアムヘアに、桃色のキュートな瞳をしているのがトレードマークです。なんて自分でいうとちょっぴり恥ずかしいですが、まあ普通の少女だと思います。


 メフィエルちゃんは大迷宮というところで錬金術師をやっています。こちらもごくごく普通の錬金術師を自負しております。なにせ新米なので、まだ特別お客さんがたくさんついている事はありません。


 大迷宮ではいろいろ便利な素材や魔石、アーティファクトなんかがドロップするので、世界中の人が集まってきて冒険をしたりしています。メフィエルちゃんも、時々冒険して素材や魔石を取りに行くので、まあ冒険者でもある感じですかね? 面倒なときは依頼などを出す事もあるのですけど、まあ時には自分の手で取りに行った方が早い場合というのもあるのです。


 メフィエルちゃんは錬金術師として、いろいろなものを作り出します。そうして作り出したアイテムたちは、メフィエルちゃんのお店に並んで、買いに来た人たちを手助けしていきます。メフィエルちゃんはこの仕事に誇りを持っていますが、大迷宮にはたくさんの錬金術師がいるので、メフィエルちゃんのお店はそうした人たちのたくさんのお店の中に埋もれてしまっています。


 メフィエルちゃんが商売を始めて3か月になりますが、今日もメフィエルちゃんのお店は閑古鳥が啼いています。お金は冒険者ギルドからの依頼があったアイテムを作って納品する事でギリギリ生活費を稼げている状況。お店の場所代などもあるので、生活は苦しく、もそもそと固いパンをクズ野菜のスープにつけて食べる日々。貧すれば鈍するといいますが、清廉潔白をモットーとするメフィエルちゃんも流石にもう少しお金が必要なのではないかと思えてきます。


 メフィエルちゃんが目指すところは、悠々自適のいわゆるスローライフという奴です。

 気が向いた時にのんびりアイテムを作って、そうしたものを適当に売っているだけで、豊かでスローな理想の生活が送れる。もふもふとした動物のペットなどを飼い、有り余る余暇を使いもふもふをもふり倒す。そんな生活に、メフィエルちゃんは憧れているのです。


 しかし現状メフィエルちゃんの目の前にあるのは、お店の場所代の請求書と、空っぽのお財布と、閑古鳥の鳴いているメフィエルちゃんのお店。これでは念願のスローライフはあまりに遠いと言わざるを得ません。


 さて、どうしたものでしょうか。


 とにもかくにも請求書のお金を3日以内に作らなければいけません。


 こういう時、メフィエルちゃんはまず脳みそを空っぽにして、お散歩に出かけます。


 お散歩していると、リラックスしてネガティブな感情が取れて、なんとなくいい考えが浮かんでくるものなのです。


 大迷宮10層に作られたラルトの街を、メフィエルちゃんは散歩していきます。


 メフィエルちゃんのお店がある路地裏を出ると、大通りの賑やかな喧噪の中を、商人や冒険者など、大迷宮で生きている人たちが行き来しています。ここは迷宮の中ですが、空には青々とした空間が広がり、雲や太陽なんかが浮かんでいます。不思議ですが、メフィエルちゃんはそういうものとして受け入れています。


 お、屋台でなんだかおいしそうな肉の串が売っていますね。


 ですがメフィエルちゃんのお財布は空っぽ。残念ながらお肉にありつく事は出来ません。ぐぬぬぬぬ。


 屈辱と腹ペコを感じつつ屋台を通り過ぎ、そのまま大通りを一人歩いていきます。


 すると見えてきたのは、冒険者ギルドの大きな建物。


 こうした場所には、いろいろと人や情報が集まるもの。


 冒険者ギルド・ラルト支部と看板がかけられたギルドの中に、ふらふらと足を踏み入れていきます。 


 1階は左側にたくさんの受付と掲示板が並び、右側に酒場が併設されている作りになっています。


 メフィエルちゃんはひとまず掲示板の前に並び、空腹でぽやぽやとした精神の中、掲示板の張り紙たちを眺めます。


 11層でジュエルゴーレム発生。F級冒険者のパーティが死亡。D級以上冒険者は討伐協力を――


 7層の黄金すももを採ってきてくれる人募集。前金で5000ゼニ―、依頼達成で30000ゼニ―をお支払いします――


 二つ目の依頼は魅力的かもしれません。相場より割高ですし、黄金すもものなっている場所であれば行ったことはあります。ただあのあたりは危険なワイルドウルフの群れも生息しています。錬金術師一人で訪れるのは一般的ではないでしょう。


 そうした依頼を眺めて一通り頭に入れてから、今度は酒場の方に向かっていきます。


 たくさんのテーブルはどこも冒険者たちで埋まっていて、とりあえず空いている席のあるカウンターに向かいます。


 席につくと、注文を聞きにウェイターのお姉さんがやってきますが、メフィエルちゃんのお財布は空っぽなので、何も注文する事ができません。


 と、そんなメフィエルちゃんの様子を見かねたのか、隣に座っていた冒険者のお兄さんが、こんな事を言ってくれました。 


「なんだ一文無しか? 景気悪いんだな、このセドリックが一杯おごってあげるよ」


「ありがとうございます」


 実はメフィエルちゃんは、お財布が空っぽでも不思議と飢えて死んだりはしないのです。なんか困ったところにちょうどよく助けてくれる人や物が配置されているのですね。そういうときメフィエルちゃんは、世の中、上手くできているなぁと感心しつつ、メフィエル教の神、すなわちわたし自身に感謝します。


 このメフィエル教というのは、冗談とかではなくて、実在する新興宗教です。


 いえ、実在した、というべきでしょうか。


 実は半年前まで、メフィエルちゃんはメフィエル教という宗教団体の聖女として、聖女業に励んでおりました。


 それなりに信者などもおり栄えていたのですが、残念ながら王国に邪教として認定されてしまい、廃業するか捕まえられるかの2択を迫られ、やむなく解散。


 そうしてやることがなくなったメフィエルちゃんは、前から憧れがあった錬金術師というものになってみる事にしました。


 ひとまず大迷宮第10層にあるこのラルトの街まで辿り着いたメフィエルちゃんは、手持ちのお金で『錬金術師になる方法はたったこれだけ! あなたもラクラクメソッドでキラキラ錬金術師に!』という信頼のおけそうな本を購入し、不動産屋で持ち主が自殺して廃業した錬金術師工房を契約。

 すっかり軽くなったお財布で固いパンを買いながら本を読破し、錬金術師のなんたるかを理解したメフィエルちゃんは、来るまでに大迷宮で狩ったモンスターの素材などからいろいろアイテムを作ってみて、それがたまたまギルドの納品物として指定していたので納品。当座の資金を作るなどして、今日まで生きながらえてきました。


 そんな話を冒険者のお兄さんにしていると、お兄さんがこんな事を言い始めます。


「ははっ、メフィエルちゃんは面白いね。なんか僕のためにアイテム売ってよ。メフィエルちゃんのお店が見てみたくなった」


 そんな前向きな言葉に心が明るくなったメフィエルちゃんは、お兄さんを連れてギルドを出て、そのままメフィエルちゃんのお店まで歩いていきます。


「そういえばあの肉串を、さっき食べたいと思ったのですが、お金がなくて食べられませんでした」


「おー、おごるおごる」


 さっきの屋台で肉串を手に入れたメフィエルちゃんは、ニコニコの笑顔でかぶりつきます。うーんジューシー。甘辛いタレにつけられており、実に美味しい。素晴らしい料理です。


 食べ終えたメフィエルちゃんは、ご機嫌でるんるんスキップしながらお店にお兄さんを案内します。そんなメフィエルちゃんを、お兄さんはニコニコと後ろから見つめていました。


「ここがメフィエルちゃんのお店です」


「へーここが?」


 入口の木製の扉をぎぎっと開くと、そこにはこじんまりとした空間に、所狭しとメフィエルちゃん謹製アイテムたちが並べられた台が置かれています。


「うんうん、色々なアイテムがあるねー」


 アイテムを眺めながら奥に歩いていくお兄さん。メフィエルちゃんも後ろについていきます。


「はい。メフィエルちゃん、頑張って作りました。なにか気になるアイテムはありますか?」


「うーん、僕が気になるのはね。アイテムじゃなくて、メフィエルちゃん、キミなんだ」


 と、そこでお兄さんは突然ガバっと振り返り、メフィエルちゃんの手を掴んで、押し倒そうとしてきました。


 必然、後ろの壁にぶつかったメフィエルちゃんの身体にのしかかるようにして、お兄さんの上半身が迫ります。冒険者だけあって筋骨隆々としたその肉体は、敵に回すと恐ろしい存在のようにも見えました。


「静かにしていて。僕はちょっとメフィエルちゃんの身体に悪戯したいだけなんだ。そのちっちゃな身体に似合わないおっきな胸を、触りたくてうずうずしてたんだよ。大丈夫、事が済んだらちゃんとアイテムも買ってあげる。だから誰かに言ったりしないでくれよ? いい関係を築こうじゃないか」


「なるほど。やけにニコニコとメフィエルちゃんの事を見つめているなあと思っていましたが、あれはニコニコではなくニヤニヤとメフィエルちゃんの胸を見つめていたのですね」


「うんそうだよ。それにメフィエルちゃん、キミは信じられないほど可愛い顔をしている。僕はキミみたいな綺麗な顔の美少女とキスをするのが大好きなんだ」


「へぇ、そうなんですね」


 メフィエルちゃんは、いつものぼけっとした顔つきのまま、そこに迫るお兄さんの顔を見つめます。お兄さんの表情は欲望に歪んでいて、近くでみるとなんだかあまり美しくない顔だな、と思いました。


「ほら、唇を突き出して。僕はキスは得意だから、安心していいよ。キスは初めてかな?」


「いえ、初めてではないですよ」


「へぇ、そうなんだ」


「どちらかというと、わたしもキスは得意な方なんです」


「……へ?」


 そこで、わたしの桃色の瞳が魔力を放ちだし、お兄さんの意識を魅了の光で恍惚とさせていきます。


「ほら、ちゅー」


 よろめくように頭を下げたお兄さんの額に、メフィエルちゃんは、ちゅーっと触れないキスをしていきます。


「ん……ちゅ……んぁ……ちゅー……んぇぇ……ちゅ、ちゅ……ちゅーー」


 キスの音が響くたびに、お兄さんの脳みそから魔力の塊が出てきて、メフィエルちゃんの唇に吸い寄せられていきます。


 メフィエルちゃんは、そんなお兄さんが捧げてくれた魔力の塊――あるいは魂とでも呼ぶべきもの――を、咀嚼し、味わい、メフィエルちゃん自身の魔力に変えていきます。それにつれて、お兄さんにかけられた魅了状態はどんどん進行していき、メフィエルちゃんの事だけで頭がいっぱいいっぱいになっていきます。


「ちゅ……ちゅー……んん……ちゅっ……んぁぁ……ちゅ……ちゅ……ちゅーーー」


 お兄さんの魂は、メフィエルちゃんの魔力と混ざり合い、メフィエルちゃんは充実した生命の躍動、満腹感、愉悦感を感じ、その口元には微笑みが浮かびます。


 微笑みながら、キスを続けます。お兄さんは目が血走って上を向き、「あへ……あへ……」なんて呟きを漏らしながら、魂を額から出し続けます。


 どんどんと魂が出てきて、ついには何も出なくなったお兄さんの身体は、やがてばたりと力を失い、人形のように床に倒れました。


「あ……久々の冒険者の魂は美味しくて、ついやりすぎちゃいましたね。これ、どうしましょうか」


 メフィエルちゃんはしゃがみ込むと、吸収した魂の一部を、もう一度再構成し、善良で清廉潔白、メフィエルちゃんに忠誠を誓いメフィエルちゃんのために生きる魂として、お兄さんの額に入れ込んでいきます。


「あ………………! メフィエルさまメフィエルさまメフィエルさまああああああ! 好きです好きです好きです好きです好きです! なんでもしますので、このセドリック、人生を懸けてメフィエルさまに奉仕させていきますので! どうか見捨てないでくださいいいいいいいいいい!!」


 うーん。久々にをしましたが、やっぱり人との接し方はこちらの方がしっくりと来ますね。慣れ親しんだ信者の様子に、メフィエルちゃんは安心感を覚え、微笑みます。


「うんうん、見捨てませんから安心してください。セドリックさんは、今日からメフィエルちゃんの可愛い奴隷です。よーく働いて、メフィエルちゃんに尽くしてくださいね?」


「はいいいいいいいいいいいいい……!」






 こんな感じで、メフィエルちゃんはごく普通の錬金術師を自負しております。


 メフィエルちゃんからアイテムを買いたいなど、なにかしらご用命がありましたら、メフィエルちゃんのお店までお越しくださいね?

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