わたしとあなた
鈴ノ木 鈴ノ子
わたしとあなた
私がこの世界に生を受けた日、あなたはまだ母親のお腹の中でゆっくりと眠っていました。
私が両親と初めて家へ帰る日、あなたはまだ病室でゆっくりと眠っていました。
私が初めて外出をした日、あなたは隣に並んでもゆっくりと眠っていました。
私が初めて立った日、あなたは母親に抱かれてゆっくりと眠っていました。
私が入園式で元気よく返事をした日、あなたは椅子にもたれてゆっくりと眠っていました。
私が運動会で1番になった日、あなたは敷いたシートの上でゆっくりと眠っていました。
私が卒園証書を受け取った日、あなたは眠たそうな目でぼんやりと受け取っていました。
私がランドセルを背負って登校した日、あなたは私の隣でうつらうつらとしていました。
私が作文で賞をもらった日、あなたは目を見開いて私を褒めてくれました。
私がポスターで賞を取った日、あなたは私の絵をじっと見て上手だねっと言ってくれました。
私が卒業式で答辞を読み上げた日、あなたは席からじっと私を見つめて、がんばれっ!と唇を動かしてくれました。
私が中学生になった日、あなたは私の制服姿を恥ずかしそうに見つめながら、似合ってると言ってくれました。
私が美術で賞を取った日、あなたはバスケ部でエースになっていました。
私が体育祭を休んだ日、あなたはリレーのアンカーで活躍したと聞きました。
私が学校に行けなくなった日、あなたはバスケで全国大会に出ている写真を新聞で見ました。
私が卒業証書を保健室で受け取った日、あなたは答辞を読み上げる姿を校内放送で見つめていました。
私の家族がバラバラになってしまった日、あなたは妹さんと仲良くケーキを買っていたのを見ました。
私が1人寂しく通学する日、電車であなたが友人達と楽しそうにしている姿を見ました。
私が母と大喧嘩をして雨の中に飛び出した日、あなたは公園のベンチに座る私に傘を差し出してくれました。
私が何も言わずにベンチから動かないのに、あなたはじっと待っていてくれました。私の手を握ると、そのまま自宅へと引っ張って連れて行ってくれました。
迎えにきた母と帰った日、あなたは明日迎えに行くと言ってくれました。
私が1人になることのない日、あなたはお守りを渡してくれて色々な話をしてくれました。
私が再び絵を描いた日、あなたは出来上がった絵を見て私が止めるのも聞かずに持って帰ってしまいました。
私が卒業をした日、あなたは夜に私の家にやってきて2人だけでお祝いをしてくれました。
私が大学に進学した日、あなたは海外に留学へと旅立ちました。
私が大学院に進学を決めた日。あなたは海外で一目置かれる学生起業家になっていました。
私が絶望に打ちのめされた日、あなたはテロに巻き込まれ病院に担ぎ込まれたと聞きました。
私は居ても立っても居られずに、ご両親と一緒に飛行機であなたの元へと急ぎました。機内の私はひたすらにお守りを握りしめてあなたの無事を祈りました。
私があなたと再開した日、あなたは包帯を巻いた頭で痛みを堪えながら、私に笑顔を向けてくれました。私は人目も憚らずあなたに抱きつき大きな声で泣きました。
私が大学院を卒業した日、あなたは大きな花束で私を祝ってくれました。
それからの私の日々は、あなたとの二人三脚で、お付き合いから結婚と子育てと長い月日を苦楽を共に過ごしました。
私の最後の日、あなたは私の手を握り、ずっと離さずにいてくれました。
私は最後の最後まであなたの瞳に見つめられて、私も意識の最後まであなたを見つめ続けることができて幸せでした。
私のあなた、あなたの私。
ずっと一緒にいる幸せな日々。
川のほとりで待っていますから、ゆっくりと来てください。
私が下に降りれる日、ゆっくり眠るあなたの顔を覗きにいきますね。
わたしとあなた 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki
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