夕食! 家族会議
翔太は、春先の脂ののったサワラをつまんでパクつく。
西京みそを塗ったまったりとした焼き心地が絶品で、ご飯が進むのである。
ダイニングルームの暖色系の明かりはサワラの白身をさらに引き立たせている。
翔太は、これは母親ではなく祖母のソラの手による料理であると見当をつける。
「ばあちゃん、これ塗ってあるミソって、家のじゃないよね?」
「ほほほ、どう? モールの地方特産品のコーナーにあったから、どうかしら? と思ってね。翔ちゃん、気に入った?」
「うん。やっぱ、ばあちゃんのメシは美味い」
「あら? なんでお義母さんの料理だってわかったの? 今日の担当はわたしよ?」
「だって味が違うじゃんか、味が?」
キッチンと一体になったダイニングルームで、いまだ箸を動かしているのは、翔太と父親の人志だけである。
翔太は、今日のスキル検査の報告で食事中、しゃべり通しだったので食べきれておらず、人志はビール缶を片手に、旬の絶品を、チクチク、大切そうにやっていたので、まだ皿の上の全部に手を付けていない。
キッチンとダイニングの仕切りになっているシンクでは食後の皿を自動洗剤液に浸しながら、母親のひばりが貰い物のリンゴを切り分けている。
長方形のダイニングテーブルには、ひばり以外の只野家の家族5人が思い思いに腰を下ろしている。
翔太の妹の晴香は、中学校の友人たちとやりとりしているのか、先ほどからユビキタス紙の上に浮かび上がった本人以外には滲んで判別できないホロフォントとプライベートモードでひっきりなしに格闘している。
翔太が夕食を食べ終わると、テーブルの中央に置かれた頂き物の輸入リンゴと季節のイチゴが入った網かごの横に、ひばりが切り分けたリンゴをコトリと置いてきた。
切り分けたリンゴのいくつかは、なぜかウサギで、つまようじがプスプス刺してある。
テーブルの上は、赤い色どりでにぎやかである。
「あぁ~……、息子に勇者のジョブが発現して、左うちわの引退生活ができると思っていたんだがなー……。夢の早期退職無人島ペントハウス計画がパァだよ。人生は上手くいかないもんだ」
「ほんとそうよねー、期待してたのにー」
「なに言ってんだ。息子のスキルガチャで老後の人生設計、立ててんじゃないっての」
「はー? なに言ってんの? 自分のお腹を痛めて産んだ子が、ズンズン出世して、シュパーッて親孝行して、ジャランジャランお金を稼いでくるってのは、トーゼンの人生設計でしょ」
ジト目の翔太。
「安易なヨクボーに忠実すぎだろ!」
「まぁまぁ、ジョブやらスキルやらなんて自分の意志でどうこうなるもんじゃないでしょう? ねぇ、翔ちゃん?」
「うんうん。ばあちゃんは、わかってるな」
切り分けたリンゴウサギを、シャリシャリ、むぐむぐ、ゴックンしながら妹の晴香が、あいだに入ってくる。
「けど、ダメすぎー。ステータス低すぎじゃん。こんな兄貴をもって恥ずかしいよ、わたしはぁー。友達にばれたらイジメられちゃうからね。責任とってよねー」
「うわっ、てめ、言うに事かいて……スキルなんて使い方ひとつなんだよ」
「でも、使えてないんでしょ?やっぱ、ダメすぎぃー」
「ぐぬぬ」
「ふーむ? 軍のスキル年鑑にも載ってないのー。陸軍、海軍、空軍、宇宙軍、通信軍、内務省、警察公安、島嶼管理庁、消防防災庁、塔管理局。どれにも『赤』だの『青』だのは出とらんぞ?」
祖父の航三が、テーブルに広げたユビキタス紙を前に、指さしながらリンクを辿っていく。
航三は現役時代は軍事関係者だったので、その手の情報には詳しいのだが、孫に発現したスキルは、既存の公開データベースからは見つけられずにいた。
民間企業であっても、スキル発現の際は政府に届け出ることになっているので、国のデータベースにないのなら、新しいスキルなのかもしれない。
「つまり、まったく新しいスキルというわけだな。さすが我が孫だ。わはは」
「そうそう、そうなんだよ! もしかしたら、ものすごいスキルかも」
「お義父さん、おだてると調子に乗るから。ダメですよ、もー」
「そーそー、もしかして絵具をビシャーってぶちまけるスキルかも? シャリシャリ」
「なんだ、その大昔のゲームみたいなスキルは?そんなんで、どうやって塔のバケモノをやっつけるんだ? 断じてそんなんじゃないからな。スキルライトで、ペカーッて光ったし。たぶん、凄いスキルなんだろう?」
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