到着! スキル検査会場

ふたりは、ほかの生徒たちの流れに混じって、通路を歩きだす。


「うーん、不安だよね」


「うん?」


「わたし、ずっと、回復師になりたかったんだ」


「うん、そう言ってたよな」


「今日、ついに、それがわかるかと思うと、緊張しない」


「あはは、するする」


翔太が緊張しているのは、美園の横に並んで歩いているからであって、スキル検査で、探索者のスキルが判明するからではない。


翔太は、将来のアレコレにたいして、結構、のんびりしていた。


なんとかなるさ、の精神である。


言いかえれば、場当たり的とでも言おうか。


見方をかえれば、生命力にあふれているとでも言おうか。


「回復師のスキルをゲットできるといいな」


「うん、せめて、ヒールを使えるジョブが発現していれば、いいんだけど」


「ふーん」


「ヒーラーに、ハイヒーラーでしょ。セイントも使えるんだよね。あとエクスヒーラー」


「へー、詳しいんだな」


「只野くんは、どんなジョブが欲しいの」


突然、ハナシが探索者方面に向いてしまって、言葉につまる翔太である。


翔太は、ストーカー的に美園を追いかけて進路を決めてしまったので、探索者うんぬん方面は、あまり、明るくないのである。


いや、ストーカーというのは、アレだな、そう、ボディガードだ。


美園を守るための、用心棒っぽいガーディアン的な?


と、いっても、翔太は、そーゆージョブ名が出てこない。


翔太の父親は、スカウト系の探索者だし、母親は回復系の探索者だった。母親は、今は、病院勤務の回復師をやっている。


なんてことだ、話を聞いてくればよかった。


翔太は、普段は、こんな話題なぞ、家で出てくることもあまりない。うーん、どうしよう。


「あ、あー、まぁ、どんなスキルが出ても、ま、まぁ、それなりに、合わせていく的な、感じかな?」


「あ、すっごい、只野くん、やる気だね」


美園が翔太にむける笑顔が、まぶしすぎて、翔太には、もう、どうしようもない。


デレデレである。ユビキタス紙が立ち上げる生徒案内用のホロ矢印に先導されて、翔太と美園は、通路を進んでいく。


これから3年間すごすことになる校舎の間取りも頭にはいらない。


玄関ホール、食堂、第一体育館連絡路、トイレ、用具室、放送設備室、ホロ矢印の導くまま、学園施設をわきに眺めながら、地に足がつかないような歩みを進める翔太は、これが高校生活か、とドッキドキである。


なにげない雑談をしながら、美園のとなりを歩いているだけで、翔太は、周囲にバラの花びらとキラめく金粉が宙をまう気分である。


今こそ、中学時代の空回りライフから脱却するのである。


「わー……」


美園の軽い感嘆の声で、我に返った翔太は、周囲を見まわす。翔太が、フワフワしている間に、通路は、ふたりをスキル検査会場になっている第2闘技施設につれてきていた。


闘技施設場には4面の試合区画が取れるようになっていて、ふたりの入ってきた広い扉の左右からは2階につながる階段がのびており、長方形の広く天井のたかい建物の内周をぐるりと、観客席が取り巻いて、闘技場全体を見渡せるようになっている。


スキル検査の大型バス車両が、闘技施設に隣接する駐車場に停まっていて、雨の中につながる扉が大きく開けられ、スキル検査用の数々の機器が闘技施設の扉周辺の一角を、ゴチャゴチャ占めている。


機器と大型バスは、何本もの透明なチューブや、色付きの配線コードでつながって、雑然としている。


すでに、スキル検査は開始されており、新入生たちは、学園サーバーからの連絡と指示に従って列を作ったり、検査を終えて判明した自分のスキルを仲間と見せ合ったりしている。


ふたりは、ホロ矢印に従って並んでいる生徒の列の最後尾につく。


すると、ふたりのホロ矢印は、薄くなって見えなくなった。


「検査の終わった者は、名前とクラスに間違いがないか確認をしてから……」


「次の生徒の方……」


「床のマークの上に立って動かずに……」


ざわめく人の声や、機械的なビープ音が、絶え間なく、広い会場にこだまするなか、細長い会議用テーブルをはさんで、スキル検査技師や学園の教師たちが、新入生の列の先頭に機器を操作しながら指示を出している。


列になった生徒たちの表情はさすがに緊張を隠せないが、スキル検査が終わった生徒たちは、笑顔で仲間たちと思い思いに固まって、検査結果を見せ合って、和気あいあいと談笑している。


美園が、翔太に向けたものか、それとも、自分自身に言ったものか、つぶやきをもらす。


「わー……、ドッキドキだね、ついに来ちゃったって感じだよ」


「う、うん」


翔太は、改めて周囲を見まわす。


順番の生徒が、スキル検査技師の指示に従って、大きく張られたスクリーンの前に置かれたマークの上に立つ。


すると、スキル検査技師が機器を操作し、緊張する生徒に、一瞬だけ、まばゆいフラッシュを浴びせる。


スキルライトの光に反応して、生徒の体は燐光を発する。


スクリーンを背にした生徒は、こわばった面持ちで身じろぎもせず固まる。


しばらくすると燐光は収まり、スクリーンにスキルとパラメータが映し出される。


スキル検査技師から検査終了の合図がでると、途端に、生徒は、緊張の表情をといて動き出す。



学園設立当初は、スキル検査は生徒ひとりひとりの個人情報保護の観点から、個別の部屋で行っていたのだが、情報管理の粒度が細かすぎたため、生徒同士のスキルやパラメータの情報の交換が上手くおこなわれずに、思惑とは逆にトラブルが頻発していた。


結局、現在では、生徒の個人情報は学園単位の粒度で管理することになっている。


その方が、生徒たちが自主的にパーティーを組もうとする場合などに都合が良いためだ。


「あたし、回復系のスキルだった。ヒールとキュアだって」


「あー、うんうん。やったね。当たりじゃん」


「そうそう、もうドッキドキだった」


「回復スキルって、女の子に多いんだって」


「知ってるぅー。もしかして、競争率高いかなぁ?」


検査の終わった生徒たちが、お互いしゃべりながら、ふたりのわきを通り過ぎていく。


美園は、通りすぎる生徒たちに、チラリと視線を向ける。緊張の面持ちだ。


「大丈夫、美園なら、きっと、上手くいくさ」


「う、うん……」



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