第23話 テスト範囲
「さあ、今日も張り切っていきましょう!」
「朝っぱらから元気だな、本当に……。」
もう何度目かになる花月の号令を聞き、俺と花月は勉強に取り掛かる。ちなみに、結局のところ起きる時間は朝7時に折り合いがついたので、ここ数日はその時間に花月が起こしに来てくれている。7時でも結構余裕あるというのに、どういう計算で6時になったんでしょうかね……。
そして、本日はは俺が先生役として花月に教える日なので、なかなか骨が折れる日になる。……目の前にいる人がやる気になっているところ悪いが、俺としては少し、いやかなり逃げ出したい気分だ。
だって、一回やってみたらすごい疲れたんだもん。起き上がるのもしんどいくらいに!嫌だなあ……。
「どうしたんですか?しんどそうな表情をして。もう疲れた辞めたい、とか言い出しませんよね?」
ニコッとした笑顔で花月は言葉の刃で俺を刺してくる。なかなか効くからもう少しマイルドにして欲しい。はぁ、仕方ないやるしかないか。
「はい、言い出しません。そんなこと思ったこともありません。」
「いや、そんな会社の新人みたいなこと言わなくても……。思ってるのは分かってますよ。」
なおも花月は笑顔でそう言ってくる。
「今の発言まるっと全部怖すぎるんだが……。」
会社の新人を連想したことも心の中を見抜かれてることもどちらも怖い。戦慄迷宮の中盤くらい怖い。行ったことないけど。
「はい、では時間がもったいないですし。早速やっていきましょう!まず、何をすればいいですか?」
花月は俺にそう尋ねる。やっていきましょう!と自分で言ったわりには、やること聞いてくるのね……。まあ、俺が先生役だから当然なんだけどな。
「……ああ、前の問題集の続きからでいいんじゃないか?」
「了解です!」
元気よく返事をして花月は問題集に取り掛かる。
俺はこの時間、暇なので自習してるか花月の問題集の解説集を読むか本を読むかスマホをいじるかしている。今は脳内ルーレットで一番後者をすることに決まってしまったので、それをしている。まあ、文字はしっかり読んでいるのであまり大差はないだろう。
「あ、そういえば、花月って次いつテストあるんだ?」
聞いてなかったなと思いながら俺は花月に聞く。一応、聞いておいたほうが今後の勉強プランに役に立つだろう。そこまで、きっちり考えるわけじゃないけどな。
「再来週の月曜と火曜ですね。」
「え、もうすぐじゃねえか。」
もう2週間は切っていることになる。そういえば、毎月あるって言ってたっけ。
「そうですか?まだ、一週間ちょっとありますよ?」
「その考えが駄目なんだ。二週間切ったら少しは焦らないと。」
めちゃくちゃ詰め込む必要はないが、余裕を持ちすぎるのも問題だ。ちょっとはテストのことを考えていかないと。
「おお、何か頭のいい人の意見っぽい……。」
何だか花月は頭の悪そうは発言をしていた。尊敬のまなざしっぽいものを向けられるが、別に普通だと思う。それに、花月にもそう考えてもらわないと。
「それに、二日間に分けてやるんだな。」
「そうですね。社会科目が二時間、国語英語が一時間半ずつ。数学と理科が二時間ずつですね。五教科とも二〇〇点満点のテストです。」
「みっちりやるのね……。」
なかなか長時間やるんだな……。大変そう。学校の定期テストもなかなか大変だったが、そっちのほうが大変そうである。ほんと大変そう。
「共通テストみたいだな。」
「そうですね。それをモデルにしているみたいです。まあ、でもどっちかというと少し前まであったセンター試験のほうが近いかもしれません。共通テストになる前からありましたし、このテスト。」
「なるほどな。……じゃあ、高校の範囲が出るってことか?」
「……そういうことになりますね。」
「そうか……。」
そりゃ、未だ中学の範囲で躓いている花月の点数が悪いわけだ。納得。
「まあ、でも今から高校の範囲やるのは無謀だからな……。」
多分、理解できないところが多いだろうし。
「そこまで言わなくても……と言いたいところですけど、その通りでございます。」
いつもよりかしこまっている花月を尻目に俺は少し考える。うーん、どうしたら花月を効率よく点数アップできるかな……。出るのが高校の範囲なら中学の範囲ばかりやっても点数アップはあまり期待できないし……。かといって、高校の範囲やってもな。……よし。
「今回は点数アップは諦めよう。」
「えぇ……、諦めちゃうんですか。」
俺の言葉に花月は残念そうな声音を上げる。
「いや、悪い言いすぎた。点数アップのために勉強はするが、大幅な向上は諦めるってことだ。」
「……高校の範囲の勉強はしないってことですか?」
「呑み込みが早いな。そういうことだ。結局、地道に知識をつけていくしかないからな。いきなり、全く分からないところの勉強をやっても意味ないし。」
勉強時間が無駄になってしまうのが一番避けたい事象だからな。基礎を固めることを重視しよう。
「それはその通りだと思うんですが!何か良いメソッドはないのでしょうか、陽輔先生。」
言って、花月は懇願するような目で俺をみつめる。そう言われてもな……。無理なものは無理だからな。
「ない。頭のいい人たちはそれだけ勉強を積み重ねてきてるってことだからな。一朝一夕では無理。」
「いちょうのいせき……?」
「ないよ、そんな遺跡……。」
灰色のいちょう並木があってもあまり見たいとは思わないだろうしな。いや、逆に目新しくていいかもしれない。来世に期待だ。
「まあ、とにかく。急に点数は上げられないってことだ。良くて二〇点、現実的に考えれば一〇点ってところかな。五教科とも。」
「はーい。分かりました……。」
花月は意気消沈した様子で返事をする。まあ、本当は五教科平均一〇点も上げられれば、かなりすごいけどな。花月のやる気を削がないために誇張しても罰は当たらないだろう。
「じゃあ、続きやっていくか。」
「……はい!」
少しの間、沈黙した後、花月は勢いよく返事をする。
不満はあってもしっかりやるのは、花月の利点だな。
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