第22話 唐突な役割分担

「それでは、役割分担を決めていきますか。」

「……どうしたの、唐突に。」

 夕食を食べ終え、後片付けも終わったと同時、花月が椅子に座り急にそんなことを言ってきた。机の上には紙とペンが置いてあり、それぞれ家事の名前が書かれていた。……これは、今から何が始まるんでしょうか。

「やっぱり、家事とか掃除とかその他諸々の役割分担って大切だと思うんですよ。どっちか片方が多くやってたら負担になって、急に倒れてしまうかもしれませんし。」

「いや、それは大げさすぎるだろ……。……いや、そうでもないか。確かに一理はあるな。」

 花月の言う通り役割分担は大事かもしれない。なあなあになってしまったら、どちらかに不満がたまるっていうこともあるだろうし。

「ただ、まあ別に今まで俺がやっていたわけだし別に俺がほとんどやるのでも……。」

「まず、洗濯は私がやりますね。」

 言って、花月は洗濯の項目に自分の名前を書いていく。流れるように無視したな、こいつ。

「話聞いてない……。まあ、やってくれるんなら別に良いが。」

 俺としては負担が減るのは万々歳だしな。

「何なら、家事もっとやってくれてもいいぞ。」

「それじゃ、話し合いの意味ないじゃないですか。そんなこと言ってたら、将来彼女と同棲し始めて、もう少しで結婚かななんて思っているときにひどい振られ方しますよ。」

「……何だかめちゃくちゃ具体的だな。」

 何かそういう経験があったりなかったりしたのだろうか。気にはなるけど、ちょっと怖そうなので聞かないでおこう。

「じゃあ、とりあえず花月がしたいところは?」

「他は出来たらしたくはありません。」

「堂々巡りだ……。」

 これでは、全く話が進まない。どちらも拒否し合っていたら、このまま何も決まらないままである。

 と、思いながら花月のほうを見るとムッとした表情をしていた。

「違いますよ。お互いあまりやりたくないから話し合って決めるんでしょ。全人類が自分が好きなことばかりやっていたら、人類はここまで発展しませんでしたよ。」

「話のスケールが大きすぎる……。」

 花月の話ってたまに飛ぶことがあるよな……。どこからその発想が来るのやら。

「まあ、でも一理はあるな。」

「そうでしょう?じゃあ、陽輔君がやりたいものはありますか?」

「ないな。」

 俺は即答する。花月が来る前も仕方なくやっていたことなので、やりたいと言われれば、NOである。だって、出来るなら毎日だらだらして、好きなことだけやってたいしー。

「……じゃあ、じゃんけんで決めますか?」

 花月は神妙な面持ちでそう聞いてくる。奥の手を出すの早くないですかね?

「そんな、他に案がないなみたいな顔するなよ。話し合いはどこ言ったんだよ。」

「……すみません、少しふざけすぎました。」

 言って、花月はニヤッとした笑みを浮かべる。わざとだったのかよ……。

「とりあえず、朝のやることから決めますか。洗濯は私がするので、何か取ってくれませんか?」

「じゃあ、朝ご飯は俺が作ろうか?」

「いや、ご飯は私が作ります。上達したいので。」

 結局、否定してくるんかい。それに、やりたいやつあるんじゃねえか……。

「……別に十分今のままで美味いと思うけどな。分かった。じゃあ、後片付けと炊飯は俺がやるわ。ゴミ捨ては……」

「私が外に捨ててくるので、まとめる作業はやってもらっていいですか?」

「……それでいいのか?」

 俺としては、外には出たくないのでありがたい提案だが……。花月の負担は大きくないのだろうか?

「はい、外に出しに行くだけならそんなに手間でもないですしね。それに、外に出るのはまだ、しんどいでしょうしね。まあ、出れるようになったら、逆でもいいかもしれませんね。」

「……ありがとう。」

 ……そんなこと言ってくれるんだな。本当、引きこもりの気持ちがよく分かってらっしゃる。若手有望株というのはあながち間違いではないかもしれない。……ドジをしなければ。

「昼ご飯も私が作りましょうかね。」

「いや、昼ご飯は俺でいいぞ。朝作ってもらってるわけだし。」

 朝から2食とも作るのは負担が大きいだろう。……それに、お皿を割られたりしそうだし。

「うーん。確かに、それもそうですね。そうしま……あ!でも、メインで勉強してるときはしんどくないですか?」

 閃いた!とばかりに花月はそう提案してくる。

「ああ、確かにそうかもな。……俺が言うのもなんだが、先生役の人が作るのでもいいか?」

「はい!で、晩御飯はこれまでどおり二人で作るとして、掃除は……」

 そんなこんなで俺と花月は役割分担表を作っていく。

 ……新鮮だな。こんなこと今までの人生で一度もやったことがない。子供の頃は親に任せっきりで中学生に上がるか上がらないかくらいに徐々にやるようになっていったが、半分以上は親にやってもらっていた。だが、この家に来てからはほとんどの家事をやるようになり、親の偉大さを痛感した。よくぞ、働きながらこんな大変なことをやっていたものだ、と。

 それがなぜか今は、その家事たちを分担する作業をやっている。不思議な感じだ。2日前まではこんなこと考えもしなかったのに。

 自分がやる作業がこれまでより減ると考えるだけでも幾分か楽な気持ちになっていくのを俺は実感していた。……本当、任せっきりはよくないな。

「よし、出来ました!じゃあ、明日からこれでやっていきましょう!」

 言って、花月は今しがた作った紙を掲げる。……何だか少し楽しみになってきたな。

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