第19話 花月にとってのご褒美
「……もう無理です。」
「まだ、始まって30分くらいなんだが。」
花月は机に突っ伏して、勉強を拒否する姿勢を示している。さっきまでのやる気はどこへやら。まあ、ただ何となくこうなりそうだなとは思っていたが。じゃないと、ここまで頭悪くないだろうしな。
「……私が今までやっていたことってお遊びだったんですね。」
「いや、それは卑下しすぎじゃないか?」
ただ、否定はしてみたもののちょっとそうかもしれないと感じている自分もいる。だって、この子中学の基礎的なものも分かってないんだもん。英語の三単現のSとかgoodの比較級とかも分かってないんだもん。……今まで何をしてきたんでしょうかこの子は……。
「ほら、頑張るんじゃなかったのか?」
「頑張りたいとは思っているんですけど、気持ちがついてこなくて。」
「……いや、どっちも気持ちじゃん。どっちだよ。」
普通は気持ちはあるんですけど、身体がついてこなくて、だろ。それじゃ、ただのやる気がないやつになっちゃってる。
「こんなにも私が見ている世界はちっぽけだったんですね。」
「悟りを開くなよ……。もうちょっと頑張ろう、ね?あとで、美味しいもの食べさせてあげるから。」
俺は落ち込んだ同級生を鼓舞する女子高生みたいな感じで、花月を鼓舞する。……俺がやっても気持ち悪いだけだな、これ。
「陽輔君?さすがにそれは私のことなめすぎじゃありません?」
うわ……、花月が卑屈になってめんどくさい女になってる。呼び方も先生じゃなくなってるし。
「ごめんなさい……。でも、ほ、ほら、頑張る理由も必要でしょう?その理由としては悪くないんじゃないですか?」
何か動揺しすぎて、花月の口調が移ってしまった……。だって、気の利いた励ます言葉が思いつかないんだもん。元々そんな言葉思いつける方じゃないのに、ここ数ヶ月あまり誰とも話して来なかったせいで、ますますそのスキルが落ちている。……誰か、助けて。
と、俺は一人で頭を必死にぐるぐる回していると、花月が静かに呟いた。
「……そうですね。すいません。頑張ります。私の曲がった根性を叩きのめしてください。」
「いや、それじゃ、根性折れちゃうじゃん……。叩き直せるよう、頑張ります。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
言って、花月の目に再び炎が宿った。
俺も言ってみたものの俺の身体、大丈夫かなあ……。
「……それに、美味しいもの食べさせてくれるんですよね?」
「……善処します。」
「期待してますからね♪」
言って、花月の顔がやっと明るいものに戻った。
……これは、下手なもの作れないな。プレッシャーが凄まじい。
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