第16話 朝食と引きこもりの原因

「……朝からこんな手の込んだものを作らなくても。」

 ダイニングテーブルにはトーストと野菜サラダが並べられていた。それだけでも、俺の感覚としてはなかなかすごいのだが、トーストの上には目玉焼きが乗せられており、しかもその周りにはマヨネーズがかけられていた。……食欲はそそられるな。

「活動するためには栄養が必要不可欠ですからね。今日もしっかり勉強するために朝からしっかり取らないと。」

「まあ、それはそうだな。」

 作った主が食べてくださいというのなら、しっかり食べないと無礼にあたるというものだ。しっかりと頂くとしよう。

 少し殿様気分になった俺は花月と一緒に挨拶をし、机に並べられたものをを口へと運ぶ。……昨日も思ったが、やっぱりしっかり美味いんだよな。ドジをしなければ毎日食べたいくらいである。

「全ての元凶はあの人だったんですね。」

 花月は徐に口を開いた。まあ、この話は避けられないだろう。昨日の今日だし。

「……原因が全てあいつにあるとは言えないけどな。俺の性格もこうなった理由の一つではあるだろうし。ただ、割合で言えばあいつの言動が一番高いだろうな。」

 この結論が果たしてあってるのか半信半疑ではある。何度も考えたことだが、俺が引きこもりになったが故にあれだけあたりが強いのではないかという思いもある。まあ、それだったとしても許される行為ではないと思うが。

「いや、ここでは一番の原因について考えるべきですよ。90%あの人が悪いと思いますし。……本当、よくあんなことをしておいて社会でのさばれますね。」

 特段低い声で花月は呟く。

 ……花月の低い声、容姿とのギャップがすごすぎてめちゃくちゃ怖いんだよな。顔が引きつってしまうレベルである。

「それは、な。本当、よくばれずにやっているもんだと逆に感心するわ。」

「バレないからって良いってものではなないですけどね。いっそ国からの圧力で社会的に殺してやろうかな。」

 ……怖すぎるだろその呟き。何か巨大なものが花月の後ろに蠢いている感じがする。

「……そんなこと出来るのか?」

「いや、冗談ですよ。私にそんな権限ありません。」

「含みのある言い方だな……。まるで上の人はできるみたいな。」

「……ノーコメントで。」

 ……顔は笑顔なのに、今の発言が一番怖い。

「でも、そうなると問題が思ってたところと違うところにあったわけなので、考え直さないといけませんね。」

 言って、花月は顎に手をやる。真剣に考えている顔も可愛らしい印象を与える。花月からすれば心外だろうけどな。

「……まあ、別になんでもいいけどな。」

 伯父の問題が解決しようがしまいが、現状はさほど変わらないだろう。何しろ当事者の俺がそう思ってるんだからな。

「そうはいきませんよ。陽輔君が学校に行かない理由は出来るだけ排除しないと。」

「……ああ、そう。」

「ぶっきらぼうな返事ですね……。陽輔君には絶対に通ってもらいますからね!」

 そう言って、花月は力強い目でこちらを見てくる。

 その顔を目の端で見ながら俺の一番の理由はそれではないけどな、と少し悲観的な気持ちが心の中を支配していた。

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