第15話 初めての朝

「陽輔君、起きてください!」

「………………あ、あぁ。」

 すやすやと気持ちよく寝ている最中、ドアのほうから何やら元気な声が聞こえてきた。

 ……誰だ?と思いながら無理やり頭を起こし、声がしたほうに目をやる。

「さあ、陽輔君起きてください。」

 ……見間違いだろうか。目の前には小学生くらいの小娘がおり、ムッとした表情で俺を見下ろしている。

 おかしい……この家に女の子なんていなかったはずだが……。そう思っているといつの間にか口から出ていた。

「……あれ、こんな子ども家に……いましたね!もう、ずっと前から!」

 その娘が放ったオーラで完全に脳が覚醒した。そういえば、こんな怖い雰囲気を持った子、昨日会ったな!また怒られるところだった……、危ない危ない。寝起き一発目にあのドスの効いた声を聞こえるのは心臓に悪いからな。

 しかし、俺としては直前でギリギリ言い直せたと思ったのだが、花月の機嫌は斜め下に向いていた。

「ずっと前からいませんし、怒ってるポイントはそこじゃないんですが。」

「確かに……、とりあえずすいませんでした。」

「分かればよし。」

 俺が素直に謝ると、何とか許してくれたようだ。この言葉気を付けようと思っても、無意識に口から出てしまうんだよな……。我ながら学習しないな。本当に申し訳ない所存である。

 ところで、今何時だろうと思い俺は時計に目を向ける。すると、話題の切り替えが上手くいきそうなネタを見つけた。

「ところで花月、今って何時だ?」

「……8時ですね。」

 花月は少し顔を背けながら、小声でそう言った。これは反撃が出来そうである。

「花月のスケジュール表では?」

「6時起床ですね……。」

「そうだよな。実は俺、6時に一回起きてたんだよ。でも、花月が起きてないみたいだったからもう一回寝たんだよな。」

「……それについては謝ります。目覚ましをかけてたんですが、全く起きられなくて……。」

 俺の発言に花月はごまかすことなく謝ってきた。まあ、昨日は遅くまで起きてたし、仕方が無い部分もあるだろう。もしかしたら、あの出来事が衝撃的過ぎて眠れなかったのかもしれないし。

 寝坊したことに関しては目をつぶっといてやろう。むしろ、そっちのほうが嬉しかったまであるし。

 俺は今の良い気分を声に乗せて、花月に真実を告げた。

「別に謝らなくていいぞ。6時に起きたっていうの嘘だし。」

 俺が6時なんかに起きられるはずがなかろう。

「……騙しましたね!おかしいと思ったんですよ。引きこもりの子がそんなに早く起きられる訳ないですし!」

「おい、偏見がすごいぞ。まあ、だからそのお詫びとしてあと3時間だけ寝かせてもらおう。」

 花月が憤慨していたが、俺は取り合わずに再び横になった。

「お詫びとはどういうことか分かりませんが……、それに3時間って随分長いですね。まあ、でも分かりました、寝てて良いですよ。」

 俺はダメ元で言ってみたのだが、案外素直に了承してくれた。何だか不思議な感じがするが、まあ、良いと言ってくれたんなら何でもいいや。

「物分かりが早くて……。」

「その変わり、明日は3時間お散歩でも……。」

「気持ちの良い朝だな!さあ、これからどうするんだ?」

 花月が急に死刑宣告をしてきたので、俺は咄嗟に元気の良い声を上げる。……おかしいと思ったんだよ。花月が俺の怠けを肯定するなんて。

「……驚かせないでくださいよ。はぁ……、こんな単純なことで言うこと聞いてくれるんですね。」

「いや、お前が拷問の話するから。」

「そんな、当たり前だろみたいな顔されても……。まあ、起きてくれることに越したことはないので良いですけど。そうですね……、じゃあ、朝ご飯にしましょうか。」

 花月は笑みを浮かべながら、そう提案する。壁に貼り付けてあるスケジュール表には大体この時間は朝ご飯となっているからだろう。掃除などは出来そうにないしな。

「分かった。でも、俺は菓子パンでいいぞ?朝はパン派だし。」

 そっちのほうが手早く済ませられるし、と思い俺は言ったのだが、花月は何やら少し考える仕草を取った。 

「パン派ですか……。分かりました♪」

 そう言い残し、花月は笑顔のまま先に部屋を出ていった。

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