第13話 待っていない帰宅
ふと、時計を見てみると、0時を回っていた。俺の斜向かいでは、花月がソファで寝息をたてて気持ち良さそうに眠っている。よく今日来たばかりの家で熟睡できるなと感心に似た呆れた感情を抱いていた。
未だに玄関からは物音一つ聞こえてこない。花月が初めて来た日にも関わらずいつもより帰りが遅いことに、俺は少しばかり苛立ちを覚え始めていた。
それと同時に嫌な予感が俺の脳内を占拠し始めていた。飲んでこない日は遅くても夜の九時までには帰っているのだが、飲んできている日は例外なくそれを超えた時間になるのだ。それでも、十一時までに帰ってきている日が多いのだが……、
本当に一番最悪な事態かもしれない。まだ一人で帰ってきてくれればいいのだが……。
――ガチャ。そんなことを考えていると、玄関のほうからドアが開く音が聞こえた。……ああ、やっと帰ってきたのか。本当、何してるんだあいつは。
俺はイライラしながら、リビングのドアに手をかける。いつもは出迎えなんて絶対にしないのだが、今日ばかりはしなくてはならないだろう。
チラッとドアの隙間から玄関のほうに目をやる。……そこには、信じがたい光景が広がっていた。
「もう、文夫さんったら飲み過ぎですよ。まだ、週初めの月曜日なのに。」
……どうやら、俺の祈りは届かず悪い予想は当たってしまったようだ。しかもかなり最悪な予想が。
「別にいいじゃねえか。俺の身体の丈夫さは知ってるだろ?これくらい、ちょっと寝れば大丈夫だ。だから、もう少し良いだろ?」
「駄目ですよ。ここまでの約束でしょ?これでも、予定していた時間より少し過ぎているんですから、ね。」
「えぇ~、冷たいこと言うなよ~。」
伯父は知らない女性に甘えるような声音でそんなことを言っていた。
……本当、吐き気がする。何でこいつが周りから良い評価されているのか本当に不思議でならない。どれだけ自分を偽れば、そんな評価をもらえるだろうか。本当にこの世の中はおかしすぎる。
……とりあえず、今の俺が出来ることはリビングですやすやと眠る花月にこの状況を見せないことだ。
俺はそう思い、音一つ立てないようにそっとドアを閉めた。……いや、閉めようとした。
「……陽輔君、文夫さん帰ってきたんですか?」
その声を聞いた瞬間、身体全身が震えた。恐る恐る振り向くと、目をこすりながら花月が俺の横までやってきてしまっていた。
……終わった、何でこうなってしまうのだろう。本当、何も上手くいかないな。
「あ、ああ、そ、そうだが。み、見ないほうが……。」
俺は花月が玄関のほうを見えないように急いで腕で防ごうとした……が、一歩遅かった。
「え、何で……っ。」
花月は絶句した様子で目を見開き、わなわなと震えている口以外は全身の動きが停止していた。
無理も無い。俺がそうじゃないと言ってはみたものの、花月も今の今まで伯父に対して良い印象を持っていたはずだ。俺が本性を言ったときも半信半疑の様子だったし。……だが、そのイメージもここまでだったようだ。
……本当に今日は色々なことが起こりすぎだ。事態は良いようにも思い通りにも動いてくれないものである。……本日最後で最大の試練だな。
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