第6話 突発の試験

「それでは、勉強を開始しましょうか。」

 ドアも直り(筋肉お化けはそのまま帰っていった)、自室でくつろごうとしていると、花月がそんなことを言い始めた。

「……それは決まりなのか?」

「当たり前ですよ。しっかり朝食を取った後なんですから、頭も回るはずですし。」

 まあ、それはそうなんだが、生憎やる気方が出てないんだよな。

「……昼からじゃだめなのか?」

 まだ、今日が終わるまで時間があるわけだし、と思いながら提案してみたのだが、花月からは鋭い眼光が飛んできた。

「駄目ですよ。そう言って、昼からもやらないつもりでしょう?」

「俺は引きこもりだし疑われるのは仕方ないかもしれないが、やると言ったらきちんとやるぞ。」

 意見をころころ変えるのはあまり好きじゃないからな。政治家のような真似はしたくない。政治家と対極の存在にある俺にとって、反対の行いをするのは当たり前だしな。

「まあ、何を言われても決まり事ですので、早く取りかかりますよ。陽輔君に拒否権はありません。」

 とてもひどいことを言われた。拒否権ないって相当なことでは?日本人全員に認められている権利のはずなのに……。

「拒否権剥奪って人権を蔑ろにしてるだろ……。」

「別にそんなつもりはありませんよ。きちんと勉強を始めれば、戻してあげます。では、早く席に着いてください。」

「政治家でもそんな権利持ってないぞ……。はぁ……、分かったよ。」

 俺はため息をつきながら、勉強机の椅子に座る。

 もう、これは拒否したところで労力の無駄だろう。やらなきゃいけないことは手短にという格言もあるわけだし、大人しく従っておくのが得策だろう。

「よし。では、HKKが用意している参考書とか問題集とかがありますので、そちらをやっていきましょう。これらを全てやれば、かなりのレベルまでいけるとかいけないとか。」  

 言って、花月はカバンの中から2冊の本を取り出した。見たところによると『英語』と『数学』の問題集のようである。

「胡散臭いなあ……。」

 詐欺まがいの触れ込みである。

「失礼ですね。ちゃんとしたものですよ。種類もたくさんありますので、陽輔君に合ったものが絶対ある自信があります。」

「そうなのか……。」

 何か胡散臭さに拍車がかかった気がするが……。

「はい。中学、高校の全範囲対象のものから一つの学期に範囲を絞ったものまで。それに加えて、どの範囲のものでも難易度が三段階以上ありますからね。多種多様です。」

 言いながら、花月は問題集やら参考書やらを机の上に並べる。国語数学社会理科英語の五教科の問題集と参考書が一冊ずつ並び、結構分厚くページ数も多そうだ。

「ほう。いっぱいあるんだな。」

「これ以外にもたくさんありますよ。他にも持ってきていますし。」

 得意げに花月はそう言った。

 まあ、とにかく数えきれないほどの種類があるのだろう。勉強を教えるのはHKKの主要な仕事だろうから、当然っちゃ当然ではあるが。

「まあ、これは後で使うとして。まず、陽輔君の今の力量を量りたいので、高校2年生までの範囲のテストをやってもらいます。」

 言いながら、花月は一枚の紙を差し出してきた。問題用紙と解答用紙が一緒になっていて、問題の下が空白になっている学校のテストでよくあるパターンのやつだ。

「お前……、テストは別に良いが、高2の半年を家で過ごしたやつに高2の範囲のテスト出すなよ……。点数取れなくても仕方ないからな。」

 俺は紙を受け取りながらも、花月に文句を放つ。絶対、出題範囲ミスってるだろ……。

「まあまあ、あくまで陽輔君の現状を知りたいだけなので、分からなければ白紙でも良いですよ。責めたりはしません。」

「……まあ、それなら。」

 いいかと思い、シャーペンや消しゴムなどを取るために俺はペン立てに手を伸ばす。

 と、それと同時、横から大きな声が聞こえてきた。

「では、今から1時間、始め!」

「唐突過ぎるんだよな……。」

 準備させてくれよ……と思い、花月のほうをチラッと見る。すると、花月はニコッとした笑顔をこちらに向けてきた。全然悪気がなさそうな感じである。はぁ……。

 まあ、仕方ない。いっちょ頑張りますか。

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