第3話 たった1回の経験で......
「ドルマン、眠ったか?」
簡単な討伐を終えた俺たちは次の街についた。
そして今は宿屋だ。
この街は大きな街で酒場もあれば娼館もある。
「なんだフドラか?俺は眠いんだよ!」
「しっ…静かに、大きな声を出したら皆に気が付かれるだろう? これから一緒に遊びにいかないか?」
「ハァ~、エルザ達となら兎も角、お前と飲んで楽しい事なんかねえよ」
「そんな事言うなよ…親友だろう? ドルマンが勇者になったから誘えなかったが、俺の夢はドルマンと遊ぶことだったんだ、なぁ頼むよ」
「仕方ねーな…良いぜ」
どうにか誘えたな…
◆◆◆
俺はドルマンを風俗街に連れていった。
「なぁフドラ……此処は流石に不味い…俺は勇者なんだ、俺の子種は」
『勇者の子は優秀な子が生まれる』これは本当の所は迷信だ。
だが、その為『こういう行為』は余り推奨されない。
特に仲間内では不味い事になる。
それこそ、勇者が聖女を妊娠なんてさせたら、子供が生まれるまで聖女は戦えなくなるから…イチャついているが『やれない』
それは他の二人も同じだ。
それじゃ外でやればいいのでは、そう考えるかもしれないが、それも不味い。
『勇者の息子』はそれなりのブランドだ。
実際には大した能力が無くても…世間体からして不味い。
魔王討伐した暁には貴族、場合によっては王族を妻に迎える勇者に『娼婦や庶民との間』に子が居たらまずいだろう。
「此処は高級店だから問題無いよ。場末の娼館じゃ確かに危ないな、だがこう言う高級娼館は女性に『避妊紋』を刻むから絶対に妊娠はしない。金額は馬鹿みたいに高いが、貴族や大商人、場合によっては王族がお忍びで使う店だ…...口外も絶対しないから安全なんだ」
「そう、なのか?」
これは本当だ。
前世で言うところの芸能人、政治家、ご用達のVIP専門の風俗店みたいなもんだな。
「そうだ! 普通は俺たちの年齢なら、こういう事はもう経験済みなんだぜ。恐らく近隣の村で育った奴で童貞なんて俺たちだけだ。この先いつ終わるか解らない魔王討伐の旅。じじいになる迄童貞なんてドルマンも嫌だろ?」
顏が青くなっていやがる。
『自分だけが童貞』
プライドの高いドルマンには耐えられないだろう。
農村部は早くに結婚して子供をつくるからこれは嘘じゃない。
ただし……田舎ならな。
都心部は違うが、敢えてその事を言う必要は無いだろう。
「そうだな、そうだよな」
「それじゃ決まりだ、ほら行こうぜ」
俺はドルマンの手を取って娼館に入った。
「いらっしゃいませ」
「予約していたフドラだ、頼むよ!」
「はい、フランソワ嬢ですね」
「宜しくお願い致します」
「ちょっと待てよ! 普通はこういう所は相手を選ぶんじゃないか?」
「普通はそうだけど……ドルマンには最高の相手をと思ったから指名しておいたんだ! この店のナンバーワンなんだぜ」
悪いがドルマンが嵌まるようなタイプを選んだ……調査済みだ。
「俺は……」
「あの、私がフランソワですが…そのチェンジなさいますか?」
凄く薄いピンクのキャミソールを着た美しいエルフの女性が来た。
「あっ…いや、良い」
顏が真っ赤だな。
エルフに憧れるドルマンがほぼ裸に近い綺麗なエルフを見たんだそうなるよな。
「どうだ! ドルマンの好みだろう? 違うか?」
「違わない…ああっ済まない」
「それじゃ行ってらっしゃい!」
「ああっ」
ドルマンはフランソワ嬢に腕を組まれてそのまま奥の部屋に消えていった。
フランソワ嬢は生粋のエルフだ。
高級店でもなかなか見られない。
綺麗なスレンダーなスタイルに尖った耳、透き通るような肌のエルフ。
聖女だ剣聖だ、賢者だ言っても所詮は村娘。
美貌で勝てるわけない。
俺が調べた限りでは、間違いなくナンバーワン嬢だ。
前世で言うなら『犯れない田舎娘』VS『犯れるアイドル並の容姿を持った風俗嬢』
勝てる訳ない。
「それじゃ、俺はライラ嬢があいていたら頼む」
「あっ空いていますよ」
ライラ嬢は人族だから、高級店ではごく普通の容姿。
確かにエルフはスレンダーでモデルみたいだが、俺は肉付きが良い方が好みだ。
「ライラです」
「凄く可愛いね」
「あら、それじゃお客さん思いっきりサービスしますね」
今迄はイザベルに操をたてていたが、もう彼奴はドルマンの物だし関係ないな。
この日俺はこの世界での童貞を捨てた。
◆◆◆
ドルマンより早く出る為、ライラ嬢に10分早くサービスを終わらせて貰った。
それでも2時間のコースだから充分楽しめた。
暫く待つと控室にドルマンが来た。
「どうだった?」
「ああっ、最高だったよ! あんな美女が、あんな事やこんな事。こんな素晴らしい事があるなんて」
そりゃそうだな……あらかじめ調べたドルマンの理想の相手が初体験の相手、しかも超一流の風俗嬢で最上級の2時間コース、最高に違いない。
「良かったよ……それじゃ帰るか」
「ああっ、だがフドラは一体どんな子を指名したんだ?」
「ライラ嬢っていう人族の女の子だよ! エルフには及ばないがイザベルよりはずうっとかわいい子だよ」
「そうなのか?」
遠回しにイザベルをりすった。
『幼馴染』その一点を除くならあいつ等より綺麗で可愛い子なら山ほど居る。
思い出はあるが、あそこ迄言われて、縋る程の女じゃない。
もう、俺が好きだった、三人じゃない。
だから、俺も……自分の心にけじめをつける為。
今日、此処に来た。
「なぁ、ドルマン……今迄悪かったな。勇者パーティで男はお前以外じゃ俺だけだった。こう言う事に気を利かせてやるべきだった。すまないな」
「謝ることは無い。楽しかったぞ」
「それなら良かった……それで、さぁエルザ達はドルマンのハーレムには必要なのか?」
「いきなりどうしたんだ?」
「いや、ドルマンは勇者だし、彼奴も四職だろう? 本当はつき合わない方が幸せなんだよ」
「それ、焼きもちで言っているんじゃないんだよな?」
「馬鹿言うなよ! あのな……正直に言うぞ。魔王を討伐の後の勇者は凄くモテるんだよ。婚姻と言うなら王族やら貴族からも来る。 それなのにあいつ等とそういう関係があったと解ったらもう終わり。そういう縁談は来ない。勿体なくないか?」
「それ本当なのか?」
「ああっ、誓って本当だ。ただ犯りたいだけなら、俺が幾らでもこういう店に連れてきてやる……どうする?」
此処で幼馴染をとるなら俺の負け。
暫くしたらこのパーティを去る。
だが、違ったら……
さぁドルマンどうする。
「そうだな、今日相手して貰ったフランソワ嬢に比べたらあいつ等なんて確かに大した事ないな……これからもあんな美女を抱けるなら、要らないかもな、マジでそうすれば良い縁談がくるんだよな?」
「約束するよ! その代わりしっかりと別れて貰えればだがな」
「そうか、それならそうする……悪いな」
「別に良いんだ」
結局、此奴らに『愛』なんて無かったな。
聖女だ賢者だ剣聖だというが外見だけで言うなら村娘……化粧すら真面にしていない田舎娘だ。
村では美人でも都会の本当の美人からみたら只の芋女。
ドルマンも田舎者だから、都会の綺麗な女がさぞかし綺麗に見えただろう。
ドルマンは上機嫌だ。
久々に二人で夜道を歩いた。
俺は此処で追い込みをかける。
「今までのお前は童貞の魔法に掛けられていたんだぜ。やりたい盛りの男がやれない状態で女三人と暮らすんだ......傍にいる女が特別な女に見えてきて当たり前だ。戦場に行くと女が居ない状態に何か月も晒されるからゴリラみたいな女騎士でも美女に見えるらしい、心当たりはないか?」
「言われてみればそうかもな……しっかり経験したらあいつら、そこ迄可愛いと思えなくなった」
金で買えるレベルとはいえ『最高の女』を抱いた今のお前ならそう言うよな。
三人は只の村娘だからな。
『幼馴染』への想いも『美女』に勝てなかったな。
「最後にもう一度確認する……三人とはキッチリ別れる。本当にそれで良いんだな?」
「そうすれば、今日みたいに楽しめて、将来は良い縁談がくるんだよな」
「ああっ、間違いない」
「それなら明日にでもきっちり別れるかな……早い方が良いだろう?」
「そうだな、外部に漏れる前に話をつけた方が良い」
まさか、こんなに早く3人から心が離れるとは思わなかったな。
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