第3話「悪夢」
──七年前、九キロ先、サイレンが鳴る。
振り向く少女。
「キョウカ、始まったよ」
先生は私の肩に手を置いて、それから椅子についた。
「始めは理想の縁に立つけど、いずれは真ん中に立てるようにしないとね」
先生はモニターに流れる、帝都が崩壊していく様子を眺めながら言った。
「これが、先生が言う理想?」
「そうだね、これが僕の思い通りのシナリオ。少し悪目立ちする轍が残ることにはなるけど」
「でも止まらない。もう次の目的地へのカウントダウンは始まってる。何をしようと無駄だよ、キョウカ」
「私は無駄なことなんてしない、絶対に。それは先生が一番分かってるはずだよ」
「だったらやればいいさ、どんなに馬鹿げたことか分かるから」
「…分かった、やってやる。モニターの前で指をくわえて見てて」
銃を構え先生の眉間と胸部に数発、弾を撃ち込む。
後ろに倒れ込み、荒れた帝都が流れるモニターは砂嵐に襲われた。
薄暗い管理塔の電気は、警告を促しているみたいでひたすらに点滅を繰り返す。
「これは、宣戦布告の意と捉えるよ、キョウカ」
部屋中に先生の声が反響する。
倒れているのは先生のコピー体。
まぁそんな気はしてた。
「どうぞご自由に。次は先生…ううん、オリジナルの元に行くから」
そう捨て台詞を吐いて私はその場から歩き出した。
弾薬を込めながら歩く。
金属音と私の足音が響いてうるさかった。
重い鉄の扉を力いっぱい、開くと想像よりもっと酷い光景が私の目に焼き付く。
空は炎に覆われて、そこに倒れてる人がどんな顔をしているのか分からないくらい真っ黒で、もう周りからは、ひとつの悲鳴すら聴こえなかった。
それから荒れ果てた道の上を勇み足で歩いていると、後ろの方からエンジン音が聞こえてきた。
「そこの嬢ちゃん、一人か?」
中型のトラックが私の傍に止まると、男が窓から顔を出して聞いてくる。
「見て分かるでしょ」
「一人旅してるとこ悪いが、今生き残り探してんだ。乗るか?」
男は荷台の方を親指で示す。
少し怪訝にも思ったけど、助手席に幼い女の子とボロボロの少年が居たから私は乗ることにした。
車はすぐに走り出し、汚れた帝都の道を駆け抜けた。
荷台には布に巻かれた大きい何かと、血の付いた銃三丁、少量の水があった。
「お嬢ちゃん、名前は?」
やたらとデカい声。
運転席の後ろ側にある窓を開け、私は答えた。
「自分から名乗るのが礼儀でしょ」
「ははっ、そうだな。俺はドウマ」
「私はキョウカ」
「そうか、キョウカも巻き込まれた口か」
「巻き込まれたって?」
「そりゃ反乱にだよ」
「ああ…そっか。うん、そうなるね…」
「歳は?」
「十七」
「じゃあこいつと同い年だな」
助手席に座る傷だらけの少年の肩を強く叩いた。
「いっ…てぇ!強えよバカ!」
見た目とは裏腹に元気そうだった。
「こいつはトウリ。で抱かれてるのはトウリの妹の……」
「ルカだ」
少年もといトウリが淋しそうに言った
幼い女の子もといルカは何も言わず、虚ろな目で何処かを見つめている。
「ドウマ達はどういう繋がりなの?」
「繋がりも何もキョウカと同じ、俺がさっき拾っただけだ」
「そうなんだ」
仲良くしようだとか、そういう事は思わなかった。
というより思えない。
こうなったのも私の責任だから。
「これって何処に向かってるの?」
「さぁな。俺も分からん」
「ふーん」
しばらくの間、沈黙が続いた。
気がつけばパンが焦げたみたいな臭いはしなくなってて、燃え盛る帝都も見えなくなってた。
舗装も十分にされていない道路を、ひたすらに駆け抜けている。
「なんで俺たちがこんな目に…合わなきゃいけねぇんだろうな」
トウリが一番に口を開いた。
私は窓の方に背を向けて、空を見上げる。
私の目にハレーションが起きた。
陽の光じゃない。
悪意を持った何かが遠くの方で光ってぼやけて見える。
海燕が逃げるように、私たちの上を飛んで行った。
メメント こもり @TyIer
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