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縦糸を張っている途中で予鈴が鳴った。ひかりは2本目の千枚通しを使ってテンションを掛けたガットが緩まないように固定し、そっと窓際に立て掛けた。私も自分の席へと戻る。
休憩時間になるたびにひかりはラケットを取り出してガットを張る。私は隣の机にもたれてそれを眺める。中学のときも休憩時間になるとやっぱりこんな風にひかりの側で彼女がガットを張るのをあきずに眺めていたっけ。
お昼休み。お目当ての「サラダ定食」が売り切れてしまわないように私とひかりは連れだって学食にダッシュする。
「ご飯、大盛りで!」
2人そろって学食でご飯をよそってくれるおばちゃんに声を掛ける。
「はいよ! 2人とも今日も元気やねえ」
そう言いながらこんもりとご飯を盛ったどんぶりを渡してくれるのだ。
私も含めて体育会系の部活に参加している女の子にとってダイエットなんてまったくもって必要ない。それどころかいっぱい食べておかないと放課後の部活を乗り切れない。
「サラダ定食」を食べ終え自動販売機でジュースを買って教室に戻ったひかりは間食用に持って来ているラスクを頬張りながら作業を再開する。間もなく2本目が完成した。あと1本放課後までに仕上げねばならない。
「よっしゃ、あと1本!」
「間にあう?」
「昼休み中に縦糸を張っちゃえれば大丈夫」
ひかりは事も無げにそう言った。
中学の時からずっとひかりがガットを張るのを見て来たから実は私だってガットを張ることはできる。でもそれは「できる」ってだけで自分に一番ぴったりなテンションで張れるかって言うとそれはNOだ。
ずっとひかりにお任せしているから、ひかりがどのくらいのテンションで私のラケットのガットを張っているのか私は知らない。そもそも機械張りじゃないから「どれくらい」なんて数字で表せないし。
昔1回だけ自分で張ったことがある。でもテンションが緩すぎたらしく使いづらくてしょうがなかった。フェイスもなんか縦長の楕円形になってしまった。
ひかりに相談したけど1回張ったものを張り直すのは無理って言われた。私は泣く泣く張ったばかりのガットを切った。そして新品のガットとともにラケットをひかりに差し出したのだった。何回か失敗しながら試行錯誤したら自分でも満足できるようなテンションで張れるようになるのかもしれないが、私はこのときその努力を諦めた。それ以来ずっとひかりのお世話になっている。
ひかりへのガット張りの依頼が絶え間なくくると言うことは私と同じようにひかりに頼り切っている人が相当数いると言うことだ。そして初心者の1年生は毎年間違いなくひかりの顧客になる。
ひかりはどうやってみんなの好みのテンションで張る技を身に着けたのだろう。それは今もって謎である。
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