007 レイドの参加申請

 予想だにしなかったセリーンの提案。

 幾度の修羅場をくぐり抜けてきた俺ですら意表を突かれた。


「気持ちは嬉しいけど、それはまずいだろ」


「どうして?」


 セリーンは足で俺の股間をつついてきた。

 漂わせている雰囲気は、冒険者というより高級な娼婦だ。


「ロックが知ったら怒るんじゃないか」


 セリーンは「ぷっ」と吹き出した。


「私らそういう関係じゃないから大丈夫よ」


「そうなのか? てっきり恋人なのかと」


「ただの幼馴染みだから。そうじゃないと娼館とか許さないし」


「なるほど」


「それにね、私もロックと同じで、戦いのあとは遊びたいんだよね」


 セリーンはベッドから降りると、四つん這いで近づいてきた。

 俺のズボンに顔を近づけると、ファスナーを咥えて、そのまま下げていく。


「そういうことならお言葉に甘えるとしよう」


 俺はベッドに両手をついたままセリーンを見下ろす。


「任せて。冒険者としては未熟でも、こっちの技量には自信があるから」


 セリーンは俺のズボンとパンツを脱がせると――。


 ジュポッ、ジュポッ。

 ズズッ……ごくんっ。


 ――口でご奉仕してくれた。

 自信に違わぬテクで、俺は完全に搾り取られた。


 ◇


 翌朝、宿屋の前で、俺たちは解散することにした。


「なぁディウス、今後も俺たちと一緒に組まないか? 足を引っ張ることになるのは分かっているけどさ、頑張って強くなるから力になってくれよ」


「私も強い男は大歓迎よ。ロックを捨てて私と二人でどうかしら?」


「ひっでー!」


 ロクセットとセリーンがPTに誘ってくれた。

 しかし――。


「すまない」


 俺は断った。


「やっぱり俺たちじゃ弱すぎてダメか」


 ロクセットが「そりゃそうだよな」と頭を掻く。


「そうじゃないんだ。俺は今、スフィアを買うために金策を進めている。そのためにはPTを組むと報酬を分配することになるからさ」


 昨日と同じ調子なら、2週間足らずでスフィアを買えるだろう。


「そういうことなら仕方ないな」


「じゃあ、スフィアを手に入れたあとにまた相手をしてね。その時もたっぷりお礼をしてあげるから」


 セリーンがウインクする。

 その様子を見て、ロクセットはハッとした。


「おいディウス、お前、まさかセリーンと……!」


「ああ、お世話になった。彼女の口は最高だな」


「下の口はもっと凄いわよ?」


「それは楽しみだ」


「いや、ありえねーだろ! セリーン、何でディウスとシてるんだよ! 俺にはヤラせてくれないのに!」


「だってあんた、弱いし……」


「チクショー! 俺だって本当は娼婦なんかより……! もういい! セリーン、お前とは絶交だ!」


 ロクセットが走り去っていく。


「なんて惨めな男」


 セリーンは「やれやれ」と苦笑いを浮かべた。


「それじゃ、俺も失礼するよ。昨夜はありがとう」


「こちらこそ。あなたが助けてくれなかったら死んでいたわ」


 セリーンと固い握手を交わした。

 そして、爽やかに別れようとしたのだが。


「あ、そうだ」


 セリーンが何やら思いついた。


「お金が必要ならレイドに参加してみたらどうかしら?」


「レイド? 聞き覚えがあるな」


「複数のPTで協力してクエストに挑むこと。大きいダンジョンとかだとレイドを組むのよ」


「あー」


 言われて思い出した。

 前世では一度も利用しなかったシステムだ。

 俺とジークについてこられる冒険者がいなかったから。


「レイドは特例でランク制限がないのよ。だから、ディウスでもEランク以上のクエストに参加できるわ」


「へぇ、知らなかった」


「レイドって最低でもDランクからだし、PTを組むことになったとしてもFランクのクエストよりは効率良く稼げるんじゃない?」


「たしかに」


 魔石の換金レートはランクによって大きく異なる。

 Fランクだと1個につき1500~3500ゴールドだ。

 しかし、Dランクでは4万~8万ゴールドである。


 PTの人数は4人~6人が一般的だ。

 低く見積もっても魔石1つにつき約6500ゴールドの取り分になる。


「普通のFランク冒険者は相手にもされないけど、ディウスの強さなら受け入れてもらえるかもしれないわ。試しに行ってみたらどうかな」


「そうするよ。ありがとう、セリーン。いつかお礼をさせてもらうよ」


「その時は私のことも気持ち良くしてね」


「頑張る」


 人生初のレイドに参加するべく、俺は冒険者ギルドに向かった。


 ◇


「え! ディウスさん、冒険者になって二日でレイドですか!?」


「効率良くお金を稼ぎたくてね」


 驚く受付嬢と話しながら、俺はレイドの参加申請書を書いていた。


 レイドに参加するには、まず参加申請を行う必要がある。

 それをレイドマスターが承認することで、初めて参加できるらしい。

 レイドマスターとは、そのレイドの発起人を務める冒険者だ。


(ブルネン大城砦の城下町限定なのにレイドを組むのか)


 参加申請書を書きながら、俺は不思議に思っていた。


 ブルネン大城砦は前世で攻略したことがある。

 広大な城郭都市で、最奥部に巨大な砦のあるダンジョンだ。

 城下町のザコはC~Dランクで、砦内にはBランクのザコがいる。

 ザコとは別にAランクのボスがいるものの、Aの中では弱いほうだ。

 前世では、ボスも含め弱すぎて拍子抜けした記憶しかない。


「ちょっと待てよ。冒険者になって二日目だと?」


 背後から声がした。

 振り向くと、複数の冒険者が立っていた。


 声を掛けてきたのは、20代後半から30代前半と思しき武闘家の男。

 炎のような赤い短髪をしており、筋骨隆々の大男だ。

 両手に赤いナックルグローブを嵌めている。

 Dランクの神聖武器〈バーサーカーグローブ〉だ。

 スロットにはDランクの〈ベルタイガーのスフィア〉が装着されていた。


「そうだけど、それが何か?」


「何かじゃねぇだろ。認められねぇよ。そんなザコは」


 男の仲間と思しき冒険者連中が頷いている。


「認められないってことは、あんたがレイドマスターなのか?」


 もしそうなら、食い下がったところで意味はない。

 俺が参加できるかどうかはレイドマスターが決めることだからだ。

 もっとも、レイドマスターが相手でも引き下がる気はないのだが。


 俺はもうレイドに参加すると決めていた。

 そう決めた以上はどんな手を使っても参加させてもらう。

 目標の必達が俺のモットーだ。


「ちげぇよ! だが、レイドの総意だ! 冒険者になって二日の新米なんざ邪魔なだけなんだよ!」


 口は悪いが筋は通っている。

 たしかに逆の立場なら同じ反応を示すだろう。


「整理しておきたいんだが、あんたらが反対する理由は俺が弱いことにあるんだよな?」


「そうだ。お前みたいな身のほど知らずは腐る程いるんだよ。大方Fランクの魔物に相手に楽勝だったからテメェの力を過信したんだろう。だがな――」


「あー、もういい、分かった」


 俺は男の話を遮った。


「なら俺の実力を証明しよう」


「なんだと?」


 俺はプリズムガリバーとリュックを床に置いた。

 そして、男に向かってファイティングポーズを取る。


「殴り合いで決めよう。そっちは武闘家だ。拳には自信があるだろ?」


 その場にいる全ての冒険者が声を上げて笑った。


「お前、正気かよ!」


「ここまでの勘違い野郎は初めて見たぜ!」


「おいデンベラ、受けてやれよ!」


 爆笑に包まれるギルド内で、武闘家の男・デンベラだけは苛ついていた。


「俺もなめられたもんだな。後悔しても知らねぇぞ」


 デンベラの手からグローブが消える。

 冒険者御用達のスキル〈異次元収納〉を使ったのだろう。


「いいのか? 神聖武器を使ってくれてもかまわないんだぜ? 負けたあとに言い訳しないでくれよ?」


「貴様ァ! ぶっ殺す!」


 デンベラは顔を真っ赤にしながら突っ込んできた。

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前世で裏切られ死んだ俺が7年前に戻って最強になった件 ~裏切り者に復讐して、美少女たちと交わりながら自由気ままな冒険者ライフを満喫します~ 絢乃 @ayanovel

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