005 ヴァンパイア洞窟
「こちらが冒険者カードになります」
王都に着くと、冒険者ギルドで冒険者登録を行った。
「ありがとう」
受付嬢から冒険者であることを示すカードを受け取った。
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【名前】ディウス
【ランク】F
【レベル】1
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当然のことながら俺のレベルは1。
前世で積み上げた物が消えたと思うと悲しくなった。
「さっそくクエストを受けられてはいかがでしょうか? 今日はたくさんの依頼書がありますよ!」
受付嬢がカウンター横の掲示板に手を向けた。
AからFまで冒険者ランクごとに分かれていて、依頼書が貼ってある。
「そうだな、何か受けてみよう」
現世では楽しく冒険者生活を営む予定だ。
そのためにも、今はお金を稼ぐ必要があった。
財布には4000ゴールドしか入っていない。
これでは数日で枯渇する。
スフィアを買うなど夢のまた夢だ。
(一番稼げるクエストにしよう)
冒険者は自分のランクと同等以下のクエストを受注できる。
俺の場合はFランクのみということ。
Fランクのクエストにも難易度や報酬に差がある。
その差を分かりやすく表す数字が〈レベル〉だ。
適性レベルなどと呼ばれることもある。
Fランクのレベルは1~14まで。
ということで、俺は適性レベル14のクエストを探した。
(数はあるけど低レベルのものばかりだな……)
どれもこれも一桁レベルのクエストだ。
そんな中、一つだけレベル10のクエストがあった。
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【内容】定例ハント
【ランク】F
【レベル】10
【エリア】ヴァンパイア洞窟
【報酬】対象の魔石1個につき3000ゴールド
【備考】特になし
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定期的に行われているダンジョン内での魔物討伐クエストだ。
(これにするか)
ヴァンパイアはFランクの中だと強い魔物だ。
純粋な戦闘力で言えばFはおろかEランクでも上位に入るだろう。
ただ、光属性に弱いので、光属性の攻撃ができるなら子供でも勝てる。
(今の俺に光属性の攻撃をする術はないが、まぁ余裕だな)
速やかにお金が必要なので、ソロでクエストを受けた。
これで報酬を独り占めできる。
「最初のクエストがヴァンパイアの討伐とはチャレンジャーですね!」
「無理をしたい年頃なのさ」
「準備は大事ですよ! しっかり整えてから向かってくださいね!」
「そうだな、このリュックをパンパンにしてから挑むよ」
と言いつつ、準備を整えるつもりはなかった。
リュックの中はスフィアしか入っていないが問題ない。
時間が惜しいので、直ちにヴァンパイア洞窟に向かった。
◇
ヴァンパイア洞窟は、王都から遠くない位置にある。
入ってすぐは緩やかな勾配になっていて、地下に繋がっている。
勾配が終わると広大な空間――ダンジョンに到着だ。
(久しぶりだな、ここに来るのは)
天井が高くて15メートル程ある。
大量の岩がそびえ立っていて、それが分岐路を形成していた。
薄暗いものの、謎の光源によって最低限の明るさが担保されている。
「誰か先客がいるな」
ダンジョンに着いてすぐに待っていたのは灰の山だった。
少し前まで誰かが戦っていたようだ。
魔物は死ぬと灰になるが、その灰はすぐに消える。
灰が残っているのは、戦闘終了からそれほど経っていないということだ。
(他のPTと被らないように動こう)
場に残った形跡に目をこらしつつ、人のいない方向を目指す。
「ムゥ!」
適当に歩いていると魔物が奇襲攻撃を仕掛けてきた。
人間と酷似したシルエットの吸血鬼〈ヴァンパイア〉だ。
天井から急降下して迫ってくる。
「初心者なら意表を突かれるのだろうが――」
俺はプリズムガリバーで対応した。
下から上に向かって豪快な一振りをお見舞いする。
ヴァンパイアは真っ二つにした。
「――俺には通用しねぇよ」
ヴァンパイアが消えて魔石が落ちる。
それを拾い、背負っているリュックに入れた。
(このリュックをパンパンにするのが今日の任務だ)
その後もダンジョン内をぶらぶらする。
ヴァンパイアは手を変え品を変えて襲ってくるが楽勝だった。
(問題は敵よりも、この軟弱な肉体だな)
長剣を片手で振り回せない筋肉量。
あっという間に底を突くスタミナ。
全力疾走でもスローみたいな脚力。
修練の大切さを痛感した。
今後は最低限のトレーニングをしよう。
「グォ……」
「リュックにはまだ空きがあるけど、重くてかなわんから終わるか」
今しがた拾った魔石をリュックに入れると、俺は狩りを切り上げた。
自分のハナクソみたいな肉体を呪いながら出口に向かう。
「誰かー! 助けてくれぇ!」
その道中、どこからか声が聞こえてきた。
「誰かぁあああ! やばい! 死ぬ! 助けてくれぇえええ!」
男の声だ。
それほど切羽詰まっているようには感じない。
「喚く元気があるならもっと戦いなさいよ! ほら!」
今度は女の声だ。
(無視するか)
最初はそう思ったが、すぐに考えを改めた。
(第二の人生なんだ。前世と違う行動をしないとな!)
俺は様子を見に行くことにした。
声はダンジョン内にこだましていたが問題ない。
聴力は前世と変わりないため、簡単に居場所を特定できた。
「やべぇ! 死ぬ! 俺たちはおしまいだあああ!」
「だから喚くならもっと腰を入れて頑張れっての!」
そこには男と女の二人組がいた。
どちらも年齢は俺と同じくらいだ。
男は黒髪のランサーで、前線で槍を振り回している。
敵にビビっているのか腰が引けていた。
女は支援型の魔術師らしく、金色の長い髪が特徴的だ。
金色の装飾が施された黒のローブを纏い、丈の短いワンピースを着ている。
黒のタイツに茶色のブーツという組み合わせで、結構な色気を放っていた。
直接的な攻撃魔法を使えないのか、こちらは支援に徹している。
二人の近くにはリュックが置いてあった。
二つあるので、この二人の物だろう。
「そうは言ってもよぉ、敵の数がだんだん増えていくんだぜ!」
「まずいわね……」
二人の状況は思っていた以上に深刻だった。
男ランサーの処理が追いつかず、周囲のヴァンパイアが集まってきている。
今はまだ三体だけだが、この後もガンガン増えていく。
PTが崩壊するのは時間の問題だった。
(どう見ても初心者だし、放置したら死ぬだろうな)
ヴァンパイアから逃げ切るのは難しい。
魔法や神聖武器で強化していない限り、人間よりも速いからだ。
彼らはただの武器を使っているし、支援魔法も大したことない。
「手伝おう」
俺は加勢することにした。
リュックを置いて前線に加わる。
「おお! 来てくれたか助っ人よ! ほらみろ! 叫んで正解だったろ!」
「まさか本当に人が来るとはね……! でも、一人だけ?」
俺は「ふっ」と笑い、前方のヴァンパイアをまとめて斬り伏せた。
「安心してくれ、俺はそれなりに腕が立つ」
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