第36話 なんか安心するんだよね。だから、今日はありがとう

イベントの準備がひと段落してから数日後の放課後。教室で雑談をしていると、ふとしたきっかけで佐藤さんが口を開いた。


「ねえ、みんなでどこか遊びに行かない?」


その一言に、教室が一気に賑やかになる。最初は数人で話していたはずが、いつの間にかクラスの半分近くがその話題に加わっていた。


「遊びに行くなら、どこがいいかな?映画とか?」


「いやいや、映画だと会話できないし、ボウリングとかの方が良くない?」


「それよりもカラオケとか?全員で行けるし!」


色々な意見が飛び交う中、田中が目を輝かせながら僕に向かって言った。


「おい山田、お前も行くだろ?」


「え?ああ、まぁ、みんなが行くなら……。」


返事をすると、田中は満足そうに頷いた。その様子を見ていた女子たちも笑顔を見せる。


「山田くんも来るなら絶対楽しいよね!」


「だよね!なんか頼れる感じだし!」


そんな言葉に、僕は思わず少し照れくさくなる。まさか自分が誘われる理由になるとは思っていなかった。


「いやいや、僕なんかいても特に変わらないって。」


「そんなことないよ!山田くんがいると、みんな安心するっていうか、場がまとまる感じがするんだよね。」


佐藤さんの言葉に、周りの何人かも頷いている。それが本音かどうかは分からないけど、嫌な気分ではなかった。



遊びに行く話が決まり、SNSのグループが作られることになった。自然な流れで、僕もそのグループに招待された。


「山田くん、MINE交換していい?」


佐藤さんがスマホを差し出してくる。それをきっかけに、他の女子たちからも同じように声をかけられた。


「えっと……もちろん、いいけど。」


「やった!じゃあ、これで決まりだね!」


こうして、僕の連絡先は急激に増えることになった。これまで、あまりこういった交流がなかっただけに、少し新鮮だった。



その週末、僕たちはクラスの男女混合でボウリングに行くことになった。現地に集まると、みんな楽しそうな顔をしている。


「山田くん、久しぶりに来たの?」


「いや、ボウリング自体あんまり経験ないんだよね。」


「じゃあ、一緒にやろう!ルールは簡単だし、すぐ慣れるよ!」


そんな会話をしながらゲームが始まる。最初はぎこちなかったけど、次第にみんなで笑い合いながら楽しむようになった。


「山田、マジでセンスあるじゃん!」


「さすがにそれは言い過ぎだろ。でも、ありがとう。」


男子たちと盛り上がる中、女子たちも楽しそうに会話に加わってくる。なんだか、今までにないくらい自然に場に溶け込めている気がした。



帰り道、佐藤さんがふと話しかけてきた。


「今日、すごく楽しかったね。」


「そうだね。みんなのおかげで楽しい時間を過ごせたよ。」


「でもね、実はみんな、山田くんが来るから遊びたいって言ってたんだよ。」


「えっ……僕が?」


突然の言葉に驚くと、佐藤さんは少し照れくさそうに笑った。


「だって、山田くんがいると場がまとまるし、なんか安心するんだよね。だから、今日はありがとう。」


その言葉に、僕は少しだけ胸が熱くなった。自分の存在が誰かの役に立っている――それを実感できた瞬間だった。

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