第35話 最近なんかモテてきてないか?

イベントの準備が終わり、放課後の教室はいつもより少し賑やかだった。装飾が完成した背景パネルや、机に並べられた資料を片付けながら、クラスメイトたちは今日の進捗について語り合っている。


「山田くん、ちょっといい?」


不意に声をかけられ、振り向くと、司会係の佐藤さんが立っていた。彼女はクラスの中心的な存在で、どちらかというと僕とはあまり関わりがなかったタイプだ。


「ん?どうかした?」


僕が返事をすると、彼女は少し恥ずかしそうに視線を逸らしながら言った。


「えっと……今日の進め方、すごくよかったよ。みんなやりやすかったって言ってたし、私も助かった。ありがとね。」


「あ、いや、別にそんな大したことしてないよ。みんなが協力してくれたおかげだし。」


「そんなことないよ。山田くんが仕切ってくれたから、うまくまとまったんだと思う。」


佐藤さんの言葉に、思わず照れてしまう。こんな風に直接感謝を伝えられるのは、あまり経験がなかったからだ。


「まぁ、そう言ってもらえると嬉しいけど……ありがと。」


僕が軽く頭を下げると、佐藤さんは微笑んで、自分の席に戻っていった。その様子を見ていた田中が、ニヤニヤしながら近づいてくる。


「おいおい、山田。最近なんかモテてきてないか?」


「は?何言ってんだよ。」


「いや、見てたぞ。佐藤がわざわざお前に話しかけるなんて、珍しいじゃねぇか。」


田中の言葉に、僕は思わず苦笑いを浮かべる。確かに普段はあまり関わらない人たちから話しかけられることが増えた気がする。でも、それを「モテる」と言うのはどうなんだろう?



その後も、帰りの準備をしている間に、何人かの女子が僕に声をかけてきた。


「山田くん、今日の提案すごくよかったよ!」


「次の段取り、また手伝ってくれると助かるな。」


「なんか頼りになる感じで、見直しちゃった。」


そんな言葉をかけられるたびに、少しずつ実感が湧いてくる。どうやら、クラスでの僕の印象が変わり始めているらしい。


「……なんか、慣れないな、こういうの。」


独り言のように呟きながら、僕はリュックを肩に掛けた。



帰り道、田中と並んで歩いていると、彼が突然ニヤついた顔で肩を叩いてきた。


「なぁ、山田。お前、もしかしてクラスの女子にモテたいとか思ってたりする?」


「はぁ?なんでそうなるんだよ。」


「いや、だって今日の様子見てたら、ちょっと狙ってる感あったからさ。」


「全然そんなことないって。僕はただ、イベントを上手くやりたかっただけだよ。」


「ふーん。まぁ、お前らしいっちゃらしいけどな。」


田中の軽口に、僕は呆れながらも少し笑ってしまった。確かに、そんな気は全くない。でも、みんなが喜んでくれるのは悪い気がしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る