【13】仲良しのやつ
「酷いな〜。ちょっと言葉選んでよ?」
「私、言いましたよ。あなたの事を良く見ているって」
「え?何?ちょっと意味わからないw」
「わかりませんか?言葉にしないとわからないんですね?」
「ちょwだるいってwなんか、流れおかしくない?」
「あなたの事を、良く見てる人が。
あなたみたいな人間に、好意を抱くと思いますか?」
「……は?」
「あなたは、とても身の振り方が上手です。上手すぎます。
見え透いているんですよ。その軽薄な本質が。
あなたの周囲には、沢山の人間が居ますよね?
その誰一人として、あなたの人間性になんの興味もない事に、
気づいていますか?」
「いやw…は?……ちょっと、なんかキモいよ?w」
「ああ。やっぱり、気づいては、いるんですね?
だと思いました。だって、簡単に手に入る繋がりしか持ってないのですから。
もったいないと思います。偶然、そんなに優秀に産んでもらったのに、
そんな無意味な生き方しかできないなんて……かわいそう」
「…………」
「それと、両親へのコンプレックス。隠しきれてないですよ?
よくお兄さんと、妹さんを、こき下ろす様な事言ってますけど、
優秀な自分よりも、大事にされてて悔しいんですか?」
「……黙れ」
「あれ?どうしたんですか?顔が怖いですよ?
ああ。そうか、簡単にセックスできると見下していた
貞操観念の低そうな女子高生に、劣等感を見透かされて
プライドがズタズタになったんですね?」
「……黙れよ」
「黙りませんよ。あなたが話を聞くって言ったんじゃないですか?
こういう時こそ、いつもみたいに余裕ぶっていれば良いのに。
ああ。流石に無理ですよね?だって、見下すばかりで、
見下される事に慣れていないんだから」
「うるせぇ!!黙れって!!この尻軽ギャルが………!!」
「…………」
「あぁ?なんか言ってみろよ!!偉そうに!!」
「……え?終わりですか?」
「あぁ!?」
「優秀って言ったの、訂正して良いですか?
威勢良く、啖呵切ったから、何を言われるかと思ったのに
『尻軽ギャル』って……散々、言われて、出た言葉がそれですか?」
「……ぁあ!!相手してらんねぇ!!もう良いわお前!!
マジでだりぃ!!」
「尻尾巻いて逃げますか?良いですよ。
可哀想だから、見逃してあげます。
でも忘れないでください。
あなたの事、多分、私が一番良く見ています。
その私から逃げた事を。
決して、忘れないでください」
「御崎さん。それくらいにしてあげて」
僕は、ついに口を挟んでしまった。
これ以上、見ていられなかった。
あくまでも、同じ男として。
「御崎さん。この人と何があったのか僕は知らないし、
この人の事、これっぽちも分からない。
でもね、立つ瀬がなくなるまで、人を追い込んじゃいけないよ」
これは、僕の好きなゲーム。
サーキュラーシンボルの名言だ。
薄っぺらい経験しかしてこなかった僕は、
こんな時にまで、自分の言葉でものを言う事ができない。
とても恥ずかしい事だと思う。
でも、それでも良い。
きっと、良いんだ。
自分のオリジナルじゃなくても、
これは僕の言葉なんだから。
「やっぱり、否定されるとショックだね……
真響くんにそう言われると悲しい気持ちになる」
「あっ……ご…ごめんね?」
「きちんと、辛い気持ちにさせてくれてよかった。
酷い事言った時、見て見ぬふりして受け入れられる方が楽だよ。
でも、勇気を持って否定してくれると、なんだか安心する」
否定で安心する。
似たような経験を最近した。
そうだ。食堂で僕が自虐した時だ。
あの時、真面目な姿勢で僕の言葉を否定したギャルさんに、
僕は同じように安心したんだ。
「……うん。それはとってもわかるよ」
ギャルさんは、本当に不思議な人だ。
なんで、そんなに自分の気持ちを素直に口にできるんだろう。
きっと、ギャルさんの性格が変わったのは、
神崎と何かがあったわけじゃないと思う。
もっと過酷で、残酷な出来事が、彼女を通過したんだ。
「ちょっと待てよ……は?……マジで?ははは!!きっつ!!」
神崎が何かを察した様に口をにやけさせる。
その顔に、さっき感じた大人びた余裕はない。
それは、未熟な子供が口喧嘩の途中で、
相手の隙を見つけた時に見せる言動だった。
「そんなガキが言いわけ?センス悪!!」
その言葉に、いつもの僕なら、顔を真っ赤にさせていた。
僕のせいでギャルさんの株が下がると、自分が嫌になっていたと思う。
でも今は、ただ、目の前の男が可哀想で仕方がなかった。
「はい。この子がいいんです。私が出会う。どの男性よりも素敵な人だから」
「うっわ〜!ガキの青春、しょっぺぇ〜!!ゴメン!俺、付き合えないわw」
「ごめんなさい。でも、本当の事なので」
「はいはいw」
呆れた仕草で僕たちを嘲笑した神崎は、振り返って人混みに戻った。
しばらく彼の背を、目で追っていると、派手な格好の女性が何人か来て、
神崎の脇にすっぽりとはまり、甘えた仕草をとった。
側から見ると、とても楽しそうな雰囲気に見えた。
きっと、あの人にも耐えられない孤独があるのだな。
ギャルさんの影響か、僕もそんな達観した事を考えてしまった。
「……ねぇ」
はっと、我に返ってギャルさんを見る。
彼女は、腕を後ろに回して、モジモジとしながら口を結んでいた。
頬と耳は真っ赤になっている。
「た…多分だけどさ……君が……私に聞きたい事……
今、全部言っちゃったと、思うんだけどさ……違うかな?」
「えっ……あっ……その」
僕も、顔が熱くなる。
『この子がいいんです』
『どの男性よりも素敵な人だから』
ギャルさんの言葉が頭蓋骨の中で、
スーパーボールみたいに飛び回った。
「うぅ〜〜〜っ!!!」
なんでこんなに恥ずかしいんだよ〜〜!!
嬉しいじゃないかぁ〜!!
なんでもっと素直に喜べないんだよぉ〜!!!
えぇ〜い!!どうにでもなれ!!
言ってやるぞ!!僕は!!!
「御崎さん!!僕は!!」
「待って!!」
クラッカーの紐を引いたのに、
音が出なかった様な気持ちだ。
ギャルさんは、僕の言葉を遮って言う。
「君の言葉、まだ聞けないんだ
次ね、この次会えたら。
その時に聞かせて欲しいの」
「な…なんで?」
「まだ。やることが残ってるから。
それが上手くいかないと、きっとね。
ダメだから」
「んん?」
ギャルさんは、また遠くを見つめた。
その方向を見ると、やっぱり駅と繁華街が見える。
それと駅前に立つ、大きな時計が見えた。
どうやら、ギャルさんは、ここから時刻を確認していたみたいだ。
「さ、おばあちゃんが待ってるかも。帰ろうよ」
そう言うと、ギャルさんは僕の手をとった。
「うん。わかったよ」
きっと、何か心残りがあるのだと思う。
そもそも、どうしてギャルさんが僕に興味を持ったのか、
その理由すら僕は知らないんだ。
彼女が何を考えているのか、僕にわかるはずがない。
「ねぇ……」
「ん?なに?」
「あの……指の隙間に入れるやつ、やりたい」
「指の隙間に……入れるやつ?」
なんだそれ?
指を使う系のミニゲームかな?
「うん。仲良しのやつ」
「仲良し……漫画?」
「ちがう〜!仲良しが手を握るやつ!!」
「あっ!あぁ!?ああ!!」
「ねぇ……しよ?」
「……うん」
「へへ」
僕とギャルさんは、指を『なかよし』にして、
人がごった返す、お祭りのど真ん中を歩いた。
景色が、なんだがピンぼけした写真みたいに見えて、
僕は、ギャルさんの事しか考えられなかった。
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