第4話 健気に頑張る平民聖女
団長様のご厚意で、私は初めて『休息』というものを取った。
団長様の計らいで騎士団専属お医者様に診てもらったところ、私は今、慢性的な栄養失調と過度な睡眠不足に陥っているらしい。
酔っ払いに絡まれた時の眩暈も、それが原因だったらしい。
それから私は、お医者様指導の下、毎日バランスが取れたご飯を三回と十分な睡眠をとることになり、幸せで胸いっぱいだった。
神殿にいた頃は1日一食で、睡眠時間も毎日1時間以下だったから。
――これを皆さんに話したら、傍で聞いていた団長様とお医者様の顔が凍りつき、近くにいた他の騎士様が泣いた。
そして私は、団長のラウリス様からカレイド王国に迎えられた理由を聞いた。
私がこの国に迎えられたのは、半年前に起きた海上での魔物討伐で、聖女として派遣された私の献身的な働きぶりに騎士達が感動し、その話を聞いた皇帝陛下がカレイド王国に来て欲しいと思ったから。
当初、『大聖女に来て欲しい』と要請を出したけど、祖国から『大聖女様は忙しいから代わりの聖女を派遣する』と返され、その代わりの聖女が私だった。
――まぁ、大聖女様が男漁りで忙しいのは間違いない。
あの時は確か、大聖女様が『いいから行って!』と無理矢理馬車に乗せられ、傷ついている騎士様達のところに連れて行かれたかと思えば、そのまま治療に専念した。
ちなみに、私を迎えるにあたり皇帝陛下が祖国に相談したところ『好きしていい』と返されたらしい。
◇◇◇◇◇
そうして、私がカレイド王国に来てから1年が経った頃、すっかり元気になり、何もしていないことに罪悪感を覚えてしまった私は、ラウリス様に直談判し、条件付きで騎士団の厨房で下働きとして働いていた。
神殿の時とは違い、厨房で働いている人達は皆明るく親切で、私は初めて働くことに楽しさを覚えた。
「それにしてもメリアちゃんは手際が良いね! それも孤児院でやっていたから?」
「えぇ、まぁ……」
――本当は、他の聖女達から押し付けてられていたからなんだけどね。
私が元聖女であることは騎士団でもごく一部の人しか知らない。
だって、今の私には神聖力が無いから。
そのため、今は孤児院出身と偽っている。
仲良くなったコックさんからの問いかけに、愛想笑いで返事をした私は、食糧庫の在庫と納品される食糧を照らし合わせ、食糧庫から野菜や肉を手に取ると早速調理を始める。
「メリアちゃん、今日の賄いは?」
「マトンのテールスープと、野菜とチーズでサラダを作ろうかと」
「おぉ! 良いね!」
下働きとして働いている私だけど、真面目に働いているお陰か、ここ最近は副菜や全員分の賄を任せてもらうようになっていた。
「それなら、俺もその賄いが欲しいな」
「「「「団長!!!」」」」
ピークが過ぎた頃に決まって食堂に来るラウリス様は、厨房で働いている人に今日の私の担当を聞いて、それに合わせて料理の量を多くしたり、賄いを付けてもらうようにしたりしている。
コック達の驚いた声を聞いて、『いつものことか』と溜息をつく料理長はふと、私の方を見てニヤリと笑った。
「そう言えば団長、メリアちゃんが厨房で働き始めてから三食ちゃんと食べるようになったんだよね。一体、どうしてなんだろう?」
「それは、何か心境の変化があったのでは?」
「そうなんだけど……」
ニヤニヤと笑う料理長に少しだけ不快に感じて頬を膨らせた時、後ろから声がかかった。
「メリア、一緒に食べよう?」
「は、はい!」
下働きとして付けられた条件。それは、ラウリス様が食堂に来られた時は、必ず一緒にご飯を食べること。
理由は、私がちゃんとご飯を食べるか確認するため。
――そんなに心配しなくても、ここは神殿じゃないからちゃんとご飯は食べるんだけど。
「メリアちゃん、行ってらっしゃい」
「ありがとうございます!」
賄いを持って厨房を出た私を見送ったコックさん達は、楽しそうに笑うと厨房に隣接している休憩室で賄いを食べ始めた。
「なぁ、メリアちゃんが働き始めてから怪我をする騎士様が少なくなったそうだぞ」
「そうなの? 私は、あまり疲れなくなったと聞いたわよ」
「それってもしかしてメリアちゃんが聖女……いや、大聖女様だったりして!?」
「ありえそう! メリアちゃん、優しいし頑張り屋さんだし、何より癒されるから!」
そんな話が騎士団のみならず、カレイド王国に広がったある日、大聖女様がこの国に訪れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます