第4話 罠に掛かった先生
校内を見回るチトマス先生は、終始にこやかであった。カジュアルなパンツスーツでビシッとキメた上に、ハレの日らしくメイクもヘアスタイルにも気合いが入っている。
「がんばってるようじゃないか、アマクリン。ウチのクラスは、どんな感じ?」
「そりゃあ、もう大盛況ですよ。ささっ! どうぞ中に入って下さい」
私に背中を押されるように教室に入った先生は、先客が集団に囲まれて手もみマッサージされている状況を見た。
「ぎえええっ! いでででででで~ッ!」
大袈裟に言うと、もはや体中の骨が変形し、複雑骨折して軟体動物になっているようだった。
「おい、大丈夫なのか? お客さんが痛がっているようだが?」
「平気です~! 皆が集中している隙に、私がマッサージして差し上げますから~」
強引に教室の端にある施行台のマットに連れてゆくと、さっそくローレンスに気付かれた。
「あっ! 先生、いらっしゃいませ。来てくれたんですね」
「委員長! 先生は日頃から迷惑を掛けてる、この私が担当しますので!」
「フフ、お前にも自覚があるんだな。分かったから……ここに俯せで寝っ転がればいいのか?」
先生は大して警戒もせず靴を脱ぐと、ベルトを外し、貴重品を篭の中にポイ捨てした。
「さあ、台の上の方に開いている穴から顔を出して寝て下さい」
「よろしく頼むよ」
すでに先生は蜘蛛の巣に囚われた蝶に同じ。うまく罠に掛かった嬉しさのあまり、いやらしい笑顔となった私の表情も見えないだろう。
「さあ、先生……訊き忘れていましたが、どこを中心にマッサージすればよいですか? 強さは、どの位で?」
「そうだな、肩が凝っているから、上半身を強くでお願い」
マットの穴から返答が聞こえてくる。恐る恐る体を撫でると、俯せで潰れた巨乳が視界に入る。
「胸が大きいから肩が凝るって言うなよ! それに何だかモミモミの仕方が変だな……」
「何をおっしゃいますやら~」
次の瞬間、床しか見えていない先生の視界外から突如、見知らぬ男の顔がスライドして現れると、獣のような目を見開いた!
その長髪の不審者が持つ血走った三白眼は、限界まで開かれており、何やら呪文のような言葉を繰り返す。
「う、うわああああああああああああああああああっ!」
「まあ、チトマス先生ったら、そんなに痛くしてませんよ~」
何とか力尽くで先生の頭をマットに押さえ付ける。
「あなたは段々眠くなる……あなたは目を開けていられなくなる……」
ミスター珍の言葉に、徐々にではあるが、先生の抵抗する力が失われてゆく。
「あなたが次に目を開けた時……最初に見た者の事を愛してしまう……死ぬほど好きになってしまう……」
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