第2話 ミスター珍 登場

 夕方となり帰宅した私は、早々に二階へ上がると自室兼作業部屋に籠もり、製作途中の美少女フィギュアの完成を目指した。

 私が趣味で始めた美少女エロフィギュアは、その完成度からマニアの間で話題となり、神原型師と呼ばれるまでのスキルとなっている。ネットでの通信販売も大好評で、良い小遣い稼ぎとなっていたのだ。


 作業が一段落した頃、私はおもむろに携帯電話を手に取り、配下のエージェントに電話した。


「――ミスター珍、早速だが依頼がある。あなたの力を貸して欲しい」


「おお、誰かと思えばアマクリン師匠でしたか~、一体どうされたのですか? 今回は、どういったご用件で?」


 ミスター珍は、謎のイケオジ催眠術師である。兼業農家の彼はオーミモリヤマ市でメロンを栽培する傍ら、得意とする催眠術を駆使した興行を行い、農閑期をしのいでいる。


「もうすぐ文化祭が始まる……あなたには期間中、とある先生に催眠術をかけて貰いたい」


「ええっ? そりゃ、いかにもヤバすぎる案件ですな。あまりに危険過ぎやしませんか?」


 彼は私が造り出す美少女フィギュアの大ファンで、しまいには私の事を師匠と崇めてくるほどの愚か者である。私からの、またとない渾身の願いを断れるはずもない。


「報酬は、今製作中のマスターピース……私が造る最高傑作の美少女フィギュアで、どうかな?」


「ははあ~ッ! 是非とも師匠に協力させて貰います!」


「ちなみに、その美少女フィギュアのモチーフは私自身だ」


「へえ……え?」


 明らかに困惑した返事が発せられた。電話越しに、彼の間抜けな表情が容易に想像できた。


「んん? どうした? ミスター珍、もう一度言ってやろう。この私自身をモデルにした、等身大スケールの超絶エロ水着姿の美少女フィギュアだ。毛穴からホクロ、唇のシワに至るまで、忠実に再現しておる。どうだ、嬉しかろう? ちなみに水着は、無理に外そうと思っても、絶対に外れない」


「ええ~? ……ええ……それは、ちょっと……」


「何か言ったか?」


「いえ! とんでもございません、師匠! ありがたく頂戴いたします!」


「そうか、欲しいのか、そうだろうな」


「あの~、せめて……せめて胸だけは……バスト90くらいの巨乳に盛って頂けないものでしょうか?」


「ころすぞ」


「いえっ! 何でもございません! この不詳ミスター珍、師匠のために持てる力を存分に発揮させて貰いますゆえ」


「フフ、期待しているぞ、希代の天才催眠術師、ミスター珍よ……!」


 その時、二階の窓の外から車のヘッドライトの光が反射し、薄暗い部屋の人影を大きく映したと思う。


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