第13話 ひったくり
その日、私は彼女に花を上げようと思い、公園を通り過ぎた所にある花屋で花束を買った。
その花束の中には、彼女が好きな花も入れてもらった。
女性に花を上げようなんて気持ちになったのは、生まれて初めてだった。
私が花屋から公園に向かって歩いていた時、彼女が大学から公園に向かって歩いてきた。
その時、二人乗りのバイクが彼女の後ろからスピードを上げて走ってきた。
そのバイクは、曲がった道でもないのにバンクをつけて、後部座席に座った男が、彼女から「樹」が入ったケージをひったくった。
彼女は、そのはずみで道に倒れこんだ。
そのバイクが私の前に差し掛かった時、それはジャストタイミングであった。
バイクが体勢を整えようとして逆バンクになった時、私はバイクを運転していた男の顔を持っていた花束でたたいて、バイクに体当たりした。
バイクとのけんかは、正面からは無理でも、横からは簡単だった。
バイクは横転し、スピンした。
バイクを運転していた男はヘルメットを着けていたが、電信柱にぶつかって動かなくなった。
バイクの後部座席にいた男は足の骨を折ったらしく、立ち上がろうとしたが、立てなかった。私はその男のそばに行き、「樹」の入ったケージを取り上げた。
ケージは変形し、扉が開いていたが、「樹」は無事だった。
私が「樹」をケージから出した時、ナイフを持った男が公園から走り出してきた。
男が私にナイフを振りかざした時であった。
「シャー」
「樹」が男に飛び掛かり、口から火を吐いたのである。
正確には火ではないが、夕刻だったので、私にもそれは火に見えた。
「わー、ば、化け猫」
私を襲った男は、そう叫んで逃げ出した。
そしてその男は、近づいてきたパトカーを止めて、パトカーから出てきた警察官に自首する形で逮捕された。
きっと、化け猫に焼き殺されるより、留置場の方がましだと思ったのであろう・・
「樹」には悪いが、私は「樹」より彼女の方が心配だったので、彼女のところに行き、彼女を抱き起した。
彼女は肘に擦り傷ができただけで、無事だった。
ひったくり犯の様子を見て、無線で救急車を呼んだ警察官は、半年前に私を隣町に連れて行ってくれた警察官だった。
「あなたには縁がありますね。あれから町では化け猫が出なくなって、おかげで私は交番勤務だったのがパトカーに乗れるようになりました。今は「
と、その警察官は言った。
「お礼を言うのは、私の方です」
と、私は言った。
私は、女性ホルモンに反応すると思っていた「樹」が、私を助けるために、自らの意志で赤く光ったとしか思えなかった。
「樹」はショックを受けたようで、どこかに姿を消していた。
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