第12話 恋ごごろ?

 「樹」と離れ離れになった私は、どうにもいたたまれなくなった。


 子猫が入ったケージを持って登下校する女子大生は、彼女しかいなかった。

 

 私は彼女をつけて、彼女が生理学教室に仮配属されている理学部の3年生であることを知った。そして彼女は自宅生だった。

 

 彼女をつけるといっても、私が夕方、自由時間が持てるのは、水曜日だけだった。

 マスター2年になれば、卒研生と一緒にやっている修論の実験、学生実験の手伝い、研究室のゼミやイブニングセミナー、研究室で飼っている生物の世話・・・

 恋人を見つけるのも難しい日々であった。


 「樹」に会いたくて彼女の後をつけた一週目の水曜日、私は簡単に、つけていることを彼女に気づかれてしまった。

 彼女は足を止めて私に、

「亀田先生に、あなたに会っちゃいけないって言われているの」

 と言った。

 

 私は、「僕は「樹」に会いたいだけで、君に会いたい訳じゃない」

 と言った。

 すると彼女は、彼女の家への帰り道の途中にある公園のベンチに「樹」が入ったケージを置いて、

「30分だけよ」

 と言った。


 私は、「樹」に変わりがないことを確認し、近くのベンチに座っていた彼女に、

「今日は、有り難う。来週の水曜日も午後五時に、ここに来てくれる?」

 と聞いた。

 彼女は、それに答えず、「樹」が入っているケージを持って、帰って行った。


 二週目、私は彼女が公園に来てくれるかどうか心配だったが、彼女は、午後五時少し前に公園に来てくれた。

 私はその時、彼女に話をした。

 話した内容は「樹」の母親の「マナミ」と一緒に暮らした四年間のことであった。


 三週目、私は「樹」に会うより、彼女に会いたくなっていた。

 彼女は、自分のことを私に話してくれた。

「中高一貫教育の女子校だったから、男の人と話すのは苦手なの」

 と彼女は言った。

 それでも彼女は、自分の星座や好きな花や好きな音楽のことを僕に話してくれた。

 私は彼女に、将来の夢を話した。

 

 四週目、私は水曜になるのが待ち遠しくなっていた。

 そして私と彼女は、「樹」が入っているケージを間において、30分間、ただ見つめ合っていた。


 「樹」を狙った三人組みに襲われたのは、五週目の水曜日だった。

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