第10話 火を吐く子猫
10月の連休に、私は「樹」をケージに入れて実家に連れて帰った。
母親を知らない子猫は、自分に食物を与えて身の回りの世話をしてくれる人を母親と思うのかもしれない。
その日、私の母親は、久しぶりに私が帰って来たので、私の好きな「鯛の煮つけ」を作っていた。
母親が鯛の
私の妹が、
「ジジ、今日はジジのお姉ちゃんに会えるよ・・・」
なんて言いながら、「ジジ」を抱いて二階から降りてきた。
妹を見た「樹」が、
「シャー」
という鋭い声を上げて、テーブルの上で背中の毛を逆立てた。
「ジジ」は、妹の腕から飛び降りると、
「シャー」
「樹」と同じような声を上げて、「樹」の前に立ちはだかった。
口を開けて、耳を立ててお互いをけん制している猫の姿は、単なる猫の兄弟げんかとは思えなかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんの猫の口、赤く光っているよ」
「そんな、馬鹿な・・・」
私がそう言って「樹」の口を見ると、「樹」の口の中は、真っ赤に光っていた。
よく観察すると、口だけではなく、「樹」の耳の中も赤く光っていた。
一方、「ジジ」の方は、口も耳も光っていなかった。
さっきまで鯛の煮凝りを食べさせていた母親には何の反応も示していなかった「樹」が、どうして妹には・・・
これまで幼いと思っていた妹も、いつの間にか大きくなり、今年は成人式だった。
私はあることに思い当たり、母親に、
「お母さん、更年期はもう過ぎたの?」
と聞いた。するとお母さんは、
「妙なことを聞くのね。そんなの、とっくの昔よ」
と答えた。
私は、母親が生理学的には女性でなくなり、代わりに妹が女性としてフェロモンを出すようになっていることを知った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます